だって涙がこぼれるから
朝。
男鹿と二人で登校して教室に入った。
いつも通りの朝だった。
そしていつも通りの一日になるはずだった。
それが起こるまでは。
「おはよーございます!」
「…っす。」
レッドテイルのお姉様方に好感度アップを謀るため元気よく挨拶をする俺とは対称的に、静かに挨拶をする男鹿が教室に入った。
席に着いた俺は斜め前の席に座る邦枝先輩の様子がいつもと違うことに気づいた。
男鹿は来たばかりだというのに眠る体制になっていて、いつもと違う邦枝先輩の様子に気づく気配はない。
何が違うのかというと、そわそわしているのだ。
いつもなら男鹿が隣に座ると、一瞬驚いくが、気にしない様にしているのが分かる。それでも気になっていることはバレバレだが。
それが今日は気にしない様にするどころか、何度も男鹿と鞄を交互に見ている。
これはあれかな、と思い席を立とうとした瞬間、邦枝先輩は動いた。
「お、男鹿君!」
「…あ?」
睡眠を邪魔された男鹿は少し不機嫌そうに返事を返した。
「あのさ、これ、家で作ったんだけど、男鹿君好きって聞いたから持ってきたんだけど、いる?」
その手の中にあるのはタッパー。さらに透明な蓋から見える中身は、男鹿の大好きなコロッケだ。
「いいのか?!」
それが見えた男鹿は不機嫌さが吹き飛び、邦枝先輩につかみ掛かる様に聞いた。
「え、えぇ。」
渡した邦枝先輩自身も、驚く勢いだった。
そしてそんな邦枝先輩と男鹿の様子を見て、馬鹿な石矢魔高生が何も言わないわけがない。
「お、クイーンが男鹿に何か渡してるぞ。」
「マジだ!浮気だ、浮気!」
その言葉が引き金となり他の奴らも騒ぎ始めた。
邦枝先輩は顔を真っ赤にしながら抗議しているが、まんざらでもないようだ。一方男鹿はと言えば、気にした風もなくコロッケを食べ続けていた。
それを真後ろで見ていた俺は、いたたまれなくなって教室を出た。
屋上へと向かう廊下を歩きながら考える。
誰もがヒルダさんのことを男鹿嫁だと言うが、実際それは間違っている。さらに言えば、男鹿と付き合っているのは俺だ。
付き合っていると言っても、人前で手を繋いだり、付き合っていると公言したりすることは出来ないが、それでも男鹿と二人でいられることが幸せだった。
ところがべる坊が来てから俺らの日常が壊れた。ずっと二人きりだった俺と男鹿の周りには人が増えた。
べる坊と侍女悪魔であるヒルダさん。
何やかんやで話し掛けてくれる神崎先輩と姫川先輩。
男鹿に好意を寄せる邦枝先輩。
会えば喧嘩を吹っかけてくる東条先輩。
ここまで考えて気づいた。
人がいるのは俺らの周りじゃない。
男鹿の周りだ。
あぁ、何だ。俺は一人になったのか。
今まで二人で歩いてきたその道には、俺以外の人が男鹿と並んで歩いてる。
屋上に着いて、フェンスにもたれかかりながら校庭を見る。
校庭では不良達が喧嘩をしている。暇な奴らだ。
きっと男鹿は俺が教室を抜けたのにも気付かず、騒いでいることだろう。
何だか鼻の奥が痛くて、目の前がぼやけてきた。
水滴が頬を伝うのも構わず、呟いた。
「男鹿のばーか…。」
そう呟いても、何も返ってこなくて、返してくれる人がいなくて、無性に寂しくなって。
「男鹿のばーか!」
涙がぼろぼろ零れてきて。
「ばーか!何で隣にいないんだよ!お前の隣は俺だろ…!ずっとそうだった、っのに!っう…何で今さら、他の奴らと仲良くしてんだよ…っ!今まで一緒にいたのは…俺だろ!」
涙が堪えきれなくなって、嗚咽も混じった。そこまで一気に叫んだが、酸素が足りなくなって吸い込んだ。
そして最後にもう一度叫んだ。
「男鹿の馬鹿やろー!!」
「誰が馬鹿だって?」
返ってこないと思っていた声が後ろから聞こえて、思わず振り向いた。
そこには俺が一番会いたくて、一番会いたくない奴が立っていた。
けど、泣いてるとこなんて見られたくなくて、すぐに背を向ける。
「ったく、何してんだよ。どっか行くなら言ってけよな。」
呆れたように言いながら、こっちに近づいてくる。
「…っ、うっせぇ。」
泣いてるのがばれないように、短く返した。
「邦枝とかも心配してたぞ。」
それなのに、男鹿は最悪のキーワードを口にした。
「…だったら、俺なんて探しに来ないで、邦枝先輩と一緒にいれば良かっただろ。」
「あぁ?」
「何だよ。邦枝先輩からコロッケもらったくらいで、デレデレしちゃってさ。いっそのこと、邦枝先輩と付き合っちゃえば?」
「…っ、古市!」
男鹿に腕を引かれ、向き合う形となった。泣いてるなんてもうどうでも良くなって、男鹿を正面から見る。
「あぁ、何、俺のこと心配してくれてんの?別に男鹿なんかに心配されなくても大丈夫だし。だからほら、さっさと教室戻れ。それで俺の前から消えろ。」
言いながら男鹿を睨みつける。泣いてるせいで効果なんてないだろうが、せめてもの意地だ。
「悪い!」
そうしたら、男鹿がそう言って抱きしめた。
「…んだよ、止めろよ馬鹿。」
男鹿の腕から逃げようとしたら、逆にさらに強く抱きしめられて身動きさえ取れなくなる。
「古市がそんな風に思ってたなんて全然気付かなかった。悪い。だけど俺は古市が一番大事だから。急にいなくなったら焦るし、すげー心配する。だからもう勝手にいなくなんな。」
「何だよ、さっきまで放っておいたくせに…本当、勝手な奴。」
「そうだよ、だからこんな俺に付き合えるのなんて、お前くらいだろ。」
「…知ってる。」
腕を動かして男鹿の背中に回す。
「しょうがねぇから、勝手なお前に付き合ってやるよ。」
メルトダウンの10万打企画提出作品です!
終わり方微妙ですみません。むしろ全体的に微妙ですみません。
私は古市を泣かせるのが大好きすぎる。
泣いてる古市大好物←
神々の作品の中、こんな駄作が並んでしまうなんて…!
真に申し訳ありません←
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!><