短編 | ナノ

傍にいさせて

小さい頃から一緒で

それはいつまで経っても変わらないって

そう信じてた

だけど――






昼、男鹿が購買に昼飯を行ったので俺は一足先に屋上に来て、パンを頬張っていた。

(…静かだなぁ。)

一人で屋上にいたら絡まれそうなものだが、馬鹿な不良達は購買で、パンの取り合いの真っ最中だろう。もちろん男鹿も。古市は今の静けさを噛み締めるようにパンを食べた。
どうせ男鹿が帰ってきたらうるさくなるのだ。二人の時はお互いに話しかけないと静かだったが、べる坊が来てからは、大分賑やかなものとなった。

「古市!!」

突然、屋上の扉が開いたかと思えば、見慣れた黒髪とその背中に乗った、緑の髪の今にも泣き出しそうな顔をした赤ん坊がいた。

「どうした?」

いつもの如く、ミルクを忘れたのだろうと安易に想像出来たが念のために聞いてみた

「べる坊のミルクがねぇ…!」

が、案の定想定していた返答が来て吹き出しそうになった。

「笑い事じゃねぇ!俺の命が懸かってんだぞ!」

しかしそんなことを言われたところで、俺にはどうしようもない。さてどうしたものかと呑気に考えていると、上空から鳥と言うには大きすぎる羽の羽ばたく音が聞こえ、もしやと思い見上げるとそこには、べる坊のミルク片手にアクババに仁王立ちをしているヒルダさんの姿があった。

「全く貴様は!何度坊ちゃまのミルクを忘れれば気が済むのだ!」

「わざとじゃねぇ!」

「五月蝿い!いいから早くミルクをやれ!」

今日も二人は言い争いを始めた。付き合ってないとは分かっているものの、何故か胸が痛くなる。二人は言い争いを始めると、他人など見えないようだ。現に俺は蚊帳の外にいる。
何だか無性にやる瀬ない気持ちになり、屋上を出た。まだ二人は言い合ってたし、べる坊もミルクを飲みはじめたばかりだったから、そちらに気を取られて俺が出たことには気づかなかっただろう。それでも、もしかしたら男鹿が気付いて追い掛けて来てくれるのでは、と言う希望を捨てきれず階段の最初の踊り場から屋上への扉を数分見つめてみたが、誰か出てくる気配は無かった。
特に用があったわけではないので、そのまま教室に戻ることにした。





俺が男鹿に友達以上の感情を持ったのは、いつからだったか記憶にない。下手したら出会った時から、なんてことになりそうだが、出会った当初はまだ純粋だったからそれはないだろう―と、信じたい。
幼い頃は良かった。力の強い男鹿と、生れつき髪の色の変な俺。そんな二人に話し掛ける者はいなかった。中学に上がり、多少は話すような奴もいたが、いつも一緒にいるほど仲良くなる奴はいなかった。実際そんな奴らも、男鹿と仲がいいと聞くと離れていった。
たった一人を除いて―



二人だけだった世界に入り込んできた人物、それが三木だった。
最初は目新しい気がして一緒にいたが、俺は段々苛立ってきた。
男鹿の隣が俺だけじゃないことに。
それに三木が見ていたのは男鹿だったから、俺はいらないんじゃないかとまで考えた。
三人でいるのが普通になってきた頃、三木の転校が決まった。その時俺が感じたのは、悲しみではなく喜びだった。この時ほど自分に嫌気がさしたことはない。
男鹿は気にしていないように見えて、意外と三木のことを気にしていた。男鹿が家族以外で俺以外の人の名前を覚えるのは珍しいことだった。これはさらに三木に苛立ちを覚える原因となった。

きっとこの頃からだろう。
男鹿に対するこの友達以上の感情に気づいたのは。

高校へ進学したが、特に変化はなかった。こんなところで友人を作る気など毛頭なかったし男鹿さえいればどうでも良かった。
しかし男鹿が魔王の赤ん坊であるべる坊を連れてきてから、一変した。
男鹿には常にべる坊が引っ付いているようになり、ヒルダさんという美女が同棲するほどになった。さらにべる坊を押し付けるという名目で、様々な人を尋ね回り、そのおかげか今までよりは格段に男鹿の周囲には人が増えた。
歩いていれば、神崎や姫川、夏目さんなどが話しかけてくる。東条は喧嘩を吹っかけてくる。クイーンは男鹿に熱視線を送ってる。山村君は男鹿をアニキと言って慕ってくる。
このままいくと、俺は男鹿にとっていらない存在になってしまいそうだ。

だけど――





「おい古市!何先に行ってんだよ!」

考えながら歩いていたから、大層遅かったようだ。ミルクをあげ終わったらしいべる坊は男鹿の背中で、すやすや眠っている。

「あ、あぁ悪い。ちょっとトイレ行っててさ。」

なんて嘘なのだが。
本当の理由など言える訳がない。ヒルダさんと話しているのを見て、嫉妬して逃げてきたなんて。

「ったく、お前がいねぇとつまんねぇだろ。」



あぁ、そうやってお前が言うから。


俺はお前から逃れられなくなる。冷たく突き放してくれたなら、踏ん切りが付くというものを。


だけど――





男鹿が少しでも、俺といて楽しいと思ってくれてるうちは













傍にいさせて下さい。





ーーーーー

ちょっと病み気味?古市
もやもやしてる古市が私は大好きらしい。けど、気持ち的にはおが→←ふるです。
ってか古市が好きなせいか古市視点が多い
次は男鹿視点でも書いてみよう

[ back to top ]

「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -