短編 | ナノ


「ほら、べる坊。ひな人形だぞ。」

「だー!!」

そういった古市の目の前にあるのが、七段のひな人形だ。それをべる坊は嬉しそうに見ていた。

「悪ぃな、わざわざ。」

「別にいいって。ほのかの出さなきゃいけなかったんだし。」

事の発端は昨日に遡る。





昨日は買い物に出掛けた。珍しくヒルダも着いてきていて、少し広めのデパートに行った。デパートにはひな祭りが近いとあって桜餅や雛霰、さらにひな人形まで飾ってあった。するとそれに気づいたべる坊が、ひな人形に手を伸ばした。

「だー!」

「何だ、べる坊。…あぁそれか。」

「何だこれは。」

「ひな人形だよ。」

「ひな人形?」

ヒルダもべる坊も分かっていないようなので説明してやった。

「こどもの日の女版みたいなもんだよ。んで、兜とかこいのぼりの変わりに飾るもんだ。」

「ふむ…。」

「分かったら行くぞ。」

そういってひな人形から離れようとすると

「だ!」

べる坊が嫌がった。

「だ!じゃねぇ!さっさと行くぞ!」

「だー!」

無理矢理行こうとしたが、泣きそうになったので止めた。

「なんだよ。まさか…買えって言うのか?」

「だ!」

そう聞くと、目をキラキラさせて嬉しそうに頷いた。

「マジかよ…。」

まさか当たるとは思わなかったので焦っていると

「よし、買ってやれ。」

ヒルダが追い打ちをかけた。

「買えるかー!!」

「何故だ?」

「高いわ!」

「坊ちゃまが買うことを望んでおられる。」

「無理に決まってんだろ!そもそもひな人形くらいなら、家にあるっつーの。」

「それは本当か。」

「姉貴いるしな。」

「だ。」

「今度こそ帰るぞ。」

そんなやり取りをして帰ってきた。ところが

「はい、べるちゃん。これがひな人形よ。」

そういってお袋が出してきたひな人形をべる坊は気に入らなかった。

「おい、何が気に入らねぇんだ。」

「もしかして…べるちゃんが見たのって、七段のひな人形じゃないかしら?」


確かに家にあったのは三段のひな人形で、デパートにあったのはこれよりも大きかった気がする。

「なら古市君ちに見せてもらいに行ったらどう?どうせ今日も遊ぶんでしょう?」

「マジかよ…。」

確かに今日も遊ぶ約束はしてある。しかしそれは自分の家でだ。古市の家に行くのが面倒臭いので、大抵の場合は古市に来てもらっている。

「ったく、面倒臭ぇな。」

「ごちゃごちゃ言うな。早く古市の家に行け。」

ヒルダに刀を向けられたので、仕方なく古市の家に行くことにした。

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