後悔をしないために

「さあ、ここだ」
「ここは…?」

快適とは言えない寒い空の旅を終え、あの廃墟のような屋敷へと戻ってきた。

「ハリー!よかったわ、無事ね。それにコウキ駄目じゃない、勝手な行動をとったら!」
「ごめんなさい…」

囁きながらも強くウィーズリーおばさんが言った。
ハリーはそのままハーマイオニーとロンの部屋に向かい、私は大人達と会議に出席する事となった。
が、最後にはきっちり皆から耳の痛いお言葉を頂戴するのだ。

「それで?どうして勝手な行動をとったりしたの」
「ハリーが吸魂鬼に襲われたのを感じたから」
「貴女は"特に"大きな行動を許されてなかったはずよ?ハリーだけじゃない。例の―――あの人に狙われているのは、貴女も同じなのだから!」
「…わかってます」
「まあ、過ぎてしまった事を責めても仕方あるまい。二人とも無事だったんだ、今はそれでいいんじゃないか?」
「でも、ありがとな。ハリーをほおって置くのを俺は賛成じゃなかった」
「シリウス!あなたとコウキは、甘いんです!」

こってりとおばさんにしかられている間、リーマスは一言も口にしなかった。
会議は終了。静かに屋敷を出て行こうとするセブルスを玄関ホールまで見送った。

「セブルス…あの」
「なんだ」
「気を付けてね」
「…お前に心配される筋合いなど無い。まずは、自分の行動を見直したらどうだ」
「わかってるけど…」
「用が無いなら立ち去りたいのだが」
「あ、待ってよ!」

うるさい、と目で制止させ、セブルスは屋敷を出て行った。
暫く扉を見つめていると、後ろから肩を叩かれた。

「コウキ」
「あ―――リーマス」
「…もう十分絞られたのだから、私から特別言う事は無いけれど」
「その、えーと…ごめんなさい」
「さっきモリーが言った通りだ。君も命を狙われている事を忘れないでくれ、絶対に」
「…うん」

リーマスは一度視線を外し、再び私に瞳を向けた時にはいつもの優しい色を浮かべていた。

「ハリーを優先する気持ちもわかるし、何があっても無事だと信じてる。けれど…すまない、君を信用しているんだが、どうしても、」
「うん…ごめん、ごめんね」

辛そうに顔を歪めたリーマスに対し、もうしないとは誓えず、謝る事しか出来なかった。
慎重に行動しなければと思う気持ちと、何よりも私が動かなくてはと思う気持ちが交差する。
今度からは、しっかりリーマスに伝える事を優先しよう。

「穢らわしい!クズども!―――」

急に、大音量の言葉が屋敷に響いた。
またトンクスが何かやらかしたのだろう。
音の元へと急ぐと、床に突っ伏しているトンクスと、カーテンの奥で叫ぶ老婆の肖像画が晒されていた。

「黙れ!」
「ああ、もう…トンクス大丈夫?」

シリウスが負けじと肖像画に叫びながらカーテンを引っ張り、リーマスもそれに参戦してカーテンを元の位置に戻していた。

「シリウスおじさん!」
「やあハリー、久し振りだ」

全員で厨房にあるテーブルに向かい、夕食の準備を始める。久し振りの顔合わせだったが、ハリーは二人とうまくいかなかったのか、未だ不機嫌そうな表情だ。

「ハリー、夏休みは楽しかったか?」
「ううん。全然」
「そう言うなハリー。今回辛い思いをしていたのはお前ばかりじゃない」
「どういうこと?」
「俺もコウキもだ。君はまだ自由に外に出られただろう?私達に至っては、屋敷を出る事だって許されなかった」
「今の段階で出来る仕事も無かったし、私もまあ、ワケアリだからね」

そこでハリーは押し黙ってしまったが、おばさん達がテーブルに食事を並べ始め話は反れた。

「さて、ハリー?質問があるんだろう」
「うん!何が起きているのかと、ヴォルデモートの事―――」
「駄目よ!まだあなたは若いの!」
「ハリーには、知る権利がある!」
「ちょっと待った!僕達だって、ずっと聞き出そうとしてたのに、何一つ教えてくれなかったじゃないか!」

シリウスの言葉を皮切りに、学生陣がこれでもかと食って掛かる。フレッドとジョージも立ちあがり、怒声を響かせた。

「まだあなた達は若いの!騎士団に入っていないわ!」
「俺はハリーの保護者として知る権利があると思っている。君達がどうなのかは、ご両親が決める事だ」
「ハリーに対しても、決定をするのはあなたではないわ!」
「まあちょっと、落ちつきましょうよ、ね?」

シリウスの頭を軽くたたき、ウィーズリーおばさんを宥める。
本来ならば私も一緒に不平不満を言いたい所だが、ハリーは危険に足を突っ込みがちで、おばさんは過保護だ。
どちらの気持ちもわかる分、ここは宥める事が最適だろう。

「シリウスはアルバスの言った事を忘れた訳ではないし、ハリーは私と同じで狙われている身。知る権利はあると思うの。私個人としては、全体的な状況を、ハリーは知っておくべきだと思う」

そこで、おばさんは大きく息を吐き、イスに座った。

「そう。でも、一つだけ言わせてもらうわ。ハリーにとって何が一番よいかを考える者として―――」
「ハリーはあなたの息子じゃない!」
「息子も同然です。あなたがアズカバンに入っていた間、しっかりと面倒を見ていたわ」

シリウスがその言葉にイスから立ちあがろうとしたが、その間にリーマスが入り込み、二人を落ちつかせた。

「ハリーも、意見を言う事を許されるべきだろう」
「僕、知りたい!」
「保護者では無いけれど、一応ジェームズとリリーにハリーを任された者としても、ハリーには真実をきちんと伝えたい」
「ジェームズとリリーに?」
「いつ?」
「ついこの間。ハリーと私がヴォルデモートと対峙した時」

この言葉はみんなに効くだろうと思ったが、効果は抜群だったようだ。
おばさんは諦め、ジニーを連れて部屋へと上がって行った。

皆少しずつハリーの質問に答えていったが、それも長くは続かず、おばさんの声で小会議は終了した。

「もうたくさんよ!これ以上何かを言うくらいなら、いっそ騎士団に引き入れたらいいでしょう」
「そうして!僕、入りたい、戦う!」
「だめだ」

そう言ったのはリーマスで、ハリーをこれ以上の危険に晒したくないという気持ちが伝わった。

「コウキは、」
「彼女はもう成人だ」
「でも、学校を卒業していないだろ?」

そう言ったのはジョージ。

「例外なんだ、君達も話を聞いているだろう」
「私は、」

少し、言葉を選んだ。
どう言えば皆に正しく気持ちが伝わるだろうか。

「私は、ヴォルデモートのような闇の陣営と戦う為に、生まれたから」

ごめん、と小さく聞こえたのはきっとハリーだ。
私が笑うと、ジョージとフレッドも仕方ないという顔で厨房から出て行った。

「コウキ」
「うん?」

残ったリーマスに呼ばれ、振り向く。
さっき私が言った言葉を否定したいんだと思い、笑い掛けた。ゆっくりと伸びてきた手に引かれ、私はリーマスの腕の中に納まった。

「そんな顔しないで、リーマス」
「君がさせてる」
「そうでした…」

大きな手が優しく私の頭を撫で、体に沿うように降りた手はあやすように背中を叩いた。

「生まれた意味はそうだとしても、生きる意味は別だよ」
「ああ、そうだね…」

リーマスに手を取られ、私達も寝室へと向かった。

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