あやまらないで

「―――あ!」
「コウキ?」
「…ハリー!」
「ハリーがどうしたの!?」
「っ…ああ、どうしよう…!」
「コウキってば!」

嫌な予感が身体中を巡った。
これは予感所では無い、完全に今よくない事が起こったのだ。杖をしっかりと掴み、ハンガーから上着を引ったくる。

「あ、どこ行くの!?」
「説明は後!」

バシッという音と共に、私は姿現わしでハリーの元へと向かった。ここの地理はわからないが、嫌な物を感じる所に向かえば間違いない。とにかく、今すぐハリーの元へ向かわなければ。

「エクスペクト・パトローナム!」

私の杖から銀色の狼が飛び出す。駆ける速度をぐんぐんと上げ、その場に浮いていた吸魂鬼を襲った。
がしかし、時既に遅し。ハリーは1体の吸魂鬼に対し呪文を唱えた後だった。

「ハリー!」
「…コウキ!?」
「ハリー、無事?吸魂鬼に襲われたのね。怪我はない?」
「どう、して…ここに?」
「マンダンガスは?いない?直ぐこの場から離れよう」

ハリーを抱き締めた先に、こちらへ走ってくるフィッグさんが見えた。

「コウキ!どうしてあなたが護衛につかなかったの!あの役立たずなんか使って!」
「ごめんなさい、私じゃアルバスに信用してもらえなかったみたいで」

その後現れたフレッチャーがアルバスの所へと報告に向かい、ハリーと私はダーズリー家へと戻った。
招かれざる私は小鳥に変化し、話が終わるのを待つ。家に着いてからのハリーには尽く悲劇が舞い降りたが、彼らの前で姿を晒す訳にはいかない。ハリーが一人になるのをただ待つしかなかった。

「コウキ、一体どういう事なんだ!」
「ごめん、ハリー」
「どういう訳か、教えてくれ!」

ハリーの部屋である屋根裏部屋に防音の魔法を掛け、話は怒りを露にするハリーを宥める事から始まった。

「今、ここで詳しい話は出来ないの。」
「どういう事?僕はずっと!ここに一人で何も知らされずに閉じ込められていたんだ!」
「わかってる、わかってるよハリー」
「僕は、この4週間、どれ程!」
「ええ、その通りよ。ハリーの言う事は最もだし、私もそう思う。だから私もずっと外に出ることは許されなかった」
「どういう事?」

刺を含む声色が痛い。
アルバスの言う事は間違っていないだろうが、張本人であるハリーを蔑ろにしては規律を破りかねないのだし、現に今護衛が機能せずにハリーは襲われた。
ハリーの存在がいかに騎士団にとって、アルバスにとって必要不可欠かはわかっているつもりだが、守りに徹するにしてももう少し方法は無かったのだろうか。

「私は、今こちら側にいる味方を裏切ってここにいるの。それだけでは…気は休まらない?」
「え…?」
「フィッグさんの話で、ハリーにずっと護衛がついていた事はわかったでしょう?ヴォルデモートが復活したのに、アルバスがハリーをほっとくと思った?」
「…思った」
「そんな事あるわけない。必要な4週間だったの。もう少ししたら出られるから、後少しだけ耐えて欲しい」
「…君がそういうなら、本当なんだろうけど…でも、酷いじゃないか」
「うん、本当に申し訳無いと思ってる。詳しい話は出来ないけれど、その日が来るまで私はここにいるから」
「…わかったよ」

それから3日間、私達は他愛の無い話や、魔法省で行われる尋問の話をした。これから沢山の試練がハリーを待ち受けているのだ、少しでもハリーの負担を減らしてあげたい。

あれから私の所には誰からも連絡は来ていない。…怒られるだけで、済めば良いけれど。

「―――?」
「どうかした?」
「今、下で何か物音がしなかった?…もしかして、皆が来たのかも」
「皆って、」
「迎えに来た、皆よ」

次はヘドウィグに姿を似せた梟に変身し、ハリーが差し出した腕に乗った。
静かに階段の踊場を出て、物音のした方へと向かう。リビングは暗闇に包まれていたが、確かに誰かがいる奥を見据えた。

「ポッター?」
「…ムーディ先生?」
「お前さん達にものを教える事は叶わんかったがな?」

もっと人目に付かない動物になればよかったと思った時には、出来れば今一番会いたくなかった人の声が響いた。

「ハリー、大丈夫だよ。君を迎えにきたんだ」
「ルーピン先生!?」

続いてトンクスのルーモスを唱える声。光が灯り、その光の元には匆々たる面子が揃っていた。
ムーディ、トンクス、エルファイアス、ディーダラス、エメリーン、スタージス、ヘスチア。
そして…リーマスだ。

「リーマス、確かにポッターか?」
「ハリー、その腕に乗っているのは?」
「え?ヘ、ヘドウィグですけど…」
「うん?」
「コウキ、です…」

そう言われたからには、私は姿を現わさない訳にはいかなかった。腕から飛び立ち、次の瞬間にはハリーの横に人の影。

「マッド-アイ、間違いないよ」
「いつ見ても完璧な変身ね!惚れ惚れしちゃうわ!」
「誉めたって、何も出ないよ」
「余計な事は話してないだろうな?ん?」
「話してません」
「コウキ」

リーマスに名前を呼ばれ思わず身体が強張る。怒っているのだと、直ぐにわかった。

「まあ、まあ、リーマス。今はハリー優先でしょ」
「あの―――迎えにって、どこへ行くんですか?」
「今ここで話す事はできん、全部後でだ」
「じゃあ、ええと…どうやって行くんですか?」
「箒だよ。それしかないんだ。君はまだ姿現わしが出来ないからね」
「それじゃあハリー、荷造りをした方がいい」
「わ、わかった」
「手伝うね」

その場に残りたく無い事もあり、ハリーと共に部屋へ戻る。扉を閉めて大きく溜め息を吐いた。

「…リーマス怒ってる」
「あの、ごめんね?僕の所為で…」
「ハリーの所為じゃないよ。私の自己判断なんだから」

ひょいと杖を振って、必要な物をトランクに詰め込んだ。後ろ首引かれる思いで下へ降りて行くと、皆がリビングで好き勝手やっているところだった。マグル出身でないと、確かに面白いものばかりだろうが…自由奔放だ。

「じゃあ、準備しよう。庭に出て合図を待つんだ」

リーマスがそう言って、ムーディがハリーに目くらまし術をかけた。

「コウキ、こっちへおいで」
「…リーマス」
「先に戻るかい?それとも、ハリーの傍にいる?」
「ここにいる」
「なら、何か寒さに強い小さな動物に変化するんだ」
「え?」
「箒で空の上を行くんだ、自力で飛んでは身が持たないだろう。箒に予備は無い、二人乗りもリスクが上がる」
「え、でも、そしたらどうやって…?」
「私のローブの中にいるんだ」

寒さに強そうな小動物が多く思いつかなかったので、狐に変化しリーマスのセーターの中へ潜り込んだ。

「やだ!コウキ可愛い!」

ひょこりと襟口から顔を出せば、トンクスにぐりぐりと撫でられた。

「よし、合図だ!出発!」

リーマスの合図と共に、私達はダーズリー家を後にした。

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