貴方の中に生きる意味

「あれ…ここは?」
「貴女の心の内―――」
「精神世界?また戻って…ヴォルデモートは?」
「貴女には、本当はもっと早く説明をしなくてはならなかったの…」

真っ白な世界で、真っ白なワンピースに身を包んだ女性。一言で表すのなら、天使のようだ。やはり顔はよく見えないけれど、何度も私を助けてくれたあの人だった。

「あの…貴女は?」
「私は、この世界に残った想い、心。使命を果たせなかった者は、こうして次の生命をサポートする役目が廻って来るの」
「サポート…?よく理解出来ていないのだけど…私達は、スリザリンの血を絶やす為にいるの?」
「正確には、この世界を闇、恐怖に染めようとする者…スリザリンの血が世界を絶望へと堕とす未来を見た創設者が作った魂―――それが、私達」
「…そりゃ、大層な話で…」

実際、信じろと言われても世間一般極普通の高校生だった私がここまできてしまうと、映画や漫画のように現実味が無い。
魔法の世界があって、普通では考えられないトリップをしているのだから、もう何が起こっても驚きふためく事は無いのだろうが。

「赤子のまま殺された先代達は、この姿になって、どうしたらいいかを考えました。そして進化したのがこの世界。だけど…結局はその存在を嗅ぎつけられては殺されてしまうのですが…」
「私が見た、あの時のように?」

夢でみた過去のリドル。
託児所のような場所で出会った二人の、死が別つ瞬間を思い出した。眠る彼女と、憎しみを湛えたリドルの目。

「そう。でも、奇跡が起こった。貴女は、全く無関係の世界に転生したのです。全ての希望は貴女に託されました」
「あの…貴女は、あの時のリドルが、スリザリンの後継者だと…知っていたんですか?」
「…はい」

それでも、リドルに特別な感情を抱いてしまった。まだ共に幼い姿だったけれど、想いとは姿形に関係無く、そういうものなのだろう。

「だから…私は、抵抗せずに死を受け入れたのです―――ごめんなさい、それが全て貴女の負担になってしまった」
「人間ってそういう生き物だもの。でも…それなら尚更、いいの?」
「…はい。あの子は、沢山の罪を犯してしまったから」
「わかりました。私に出来るかどうかわからないけど…死なない程度に、頑張ります」
「私達は、いつもあなたの傍にいます」

気付くと、今まで話をしていた”その人”だけではなく、周りに何人もの人が立っていた。その人達の想いと、力が私の中に入ってくるのを感じる。

「―――あの子は、私達の本当の力を知っている訳ではありません」

貴女は、力を無くしてなどいません。貴女があの子から奪われたのは、人、肉体を保つ為の力。私達にしか無い力は、しっかりあなたの中に残っています。だから、貴女は人形を作り、呪文から逃げる事が出来たでしょう?

この力は―――”私達”の中でも貴女にしか、扱う事は出来ないのだから。

―――愛を知った魂は、闇の支配をも覆す。愛を知る貴女の中には、まだ力が、ある―――…

「コウキ?」
「あ、リーマス」
「入るだろう?」

名前を呼ばれ、思考の波から意識を戻す。もう殆ど片付けられた部屋が寂しさを生んだ。

「それで、何を考えていたんだい?」
「昨日話した事だよ、私の力の事。あの人達の話、中途半端なままヴォルデモートのところへ戻ってしまったから…」
「君達にしか、扱えない力の事?」
「そう、傀儡を作れるっていうのはわかったけれど…私にしか使えない力って何なんだろう」

あの世界は行きたい時に行ける訳でも、戻りたい時に戻れる訳では無いのだろう。ヴォルデモートと対峙しながら語り合い、そして逃げてきたのだから今一理解出来ないまま私はここにいる。

「学生時代や満月の前、私に力を与えてくれるよね?それは違うのかな」
「ああ、うん。あの白い靄みたいなものね」
「そう。それの事じゃないかな?普通の魔法使いに出来るような事じゃないよ、それ」
「…言われてみれば。セブルスにも言われたの、陽の力って」

あくまでも力とは放出するものであって、与えるものではない。守りの力もそうだ。それが盾になるだけで、個人の力として使える訳では無いが…

「それに、ヴォルデモートと君の呪文が重なり君に当たったような事を言っていたね?」
「そうそう。帰りたいと願ったらその光の玉が…ホグズミードに姿現し出来て…まさか」
「きっと、そのまさかだ。コウキは、魔力を吸収力と、与える力があるんじゃないか?」

という事は、散った魔力を帰りたいと思う一心で吸い取り、その力で姿現わしをしたという事?

「…最強」
「はは、違いないね」
「何が引き金だったのかわからないけれど、その力が自由自在に使えるようになったのかな」
「そうじゃないかな?それなら魔力が無くなる事も無いだろうし…もしかしたら、放たれた呪文を自分の力に出来るのかもしれない」
「…ちょっと、軽く私に呪文かけてみて」
「…抵抗あるけど」

リーマスが軽く杖を振り、私に向かい光線が伸びる。あ、えっとどうすればいいんだ?私の力になれとか思えばいいのかな?あ、駄目だ間に合わない。

「―――うっ、」
「大丈夫かい?」
「…駄目だ、集中力が足りなかった」

吹っ飛ばされる事は無かったが、私の杖はリーマスの手中にあった。ぴりぴりする手を振り、握りしめる。

「よし、休みの間これを練習する!」
「無理だけはしないでくれ」
「大丈夫。リーマスにやってもらうから」
「…気乗りはしないけれど、仕方無いね」
「あ、そうだ。私の言った通りだったでしょう?」
「うん?」

シャンと心地よい音を鳴らして、ポケットから懐中時計を出す。リーマスはにっこり笑って私を抱き寄せた。

「ん…そうだね。そのおかげで…少しは楽だった」
「一応、こうなる事を予想はしてたんだけど、予想外の展開が多すぎたわ」
「それならそうと、言ってくれればいいのに?」
「…ごめんね?」
「コウキは、秘密主義者だからなあ」
「今は、もう秘密なんかないって」

未来の事だって、今や断片的な記憶しか無い。
不死鳥の騎士団と、闇の陣営の決闘。セブルスの真意、アルバスの死。分霊箱の存在。

だが、今この世界には私が居る。
私がこの世界に引き戻された様に、変えられない運命は沢山ある。それを踏まえても騎士団にとって、ハリーにとって戦力になるだろう。段階を踏まずとも、ヴォルデモートに近付ける可能性が十二分にある。

「”私達の中でも貴女しか扱えない力”そう、言われたの」
「うん?」
「愛を知る私だけにって。ね、リーマス」
「…ああ」
「やっぱり、リーマスがいるから、私はここに戻ってこれたんだよ」

初めてヴォルデモートと向き合った時、私はまだリーマスに何も打ち明けず、一方的な想いで不完全な力のまま地に伏せた。だが今は違う。リーマスを受け入れ、私を受け入れて貰えた事で、私を守る力は完全な力を持った。

身の内を滅ぼしかねない闇、それが絶える事を願う者はいなかった。親の愛情すらも受ける事無く、一切の音も無しにその命を絶やす運命は、何度も繰り返される。それは、ここで終わらせよう。

「私、幸せ者だよ」
「私は、コウキのおかげでここまでやってこれた。前に、君がいなくても私はこうやって生きていると言ったが…それは違う、絶対に」
「え?」
「こんなに幸せに暮してなんて、いなかったよ」
「…よかった。それなら…普通じゃなくても、ここに来れてよかった」

こうやってホグワーツで過ごすのも今日で最後。
リーマスは、不死鳥の騎士団団員としてやらなければならない事が沢山ある。これからは私だけではなく、皆が動き、皆が危険に晒される。

どうか私に力を。
大切な人達を、守る為の力を。

「家に、帰ろうか」
「…うん」

私達の行く道が、光に照らされるように。私は、使命と運命すらも乗り越えて歩いて行く。

「コウキ、愛しているよ」
「…私も、愛してる」

ここで生きる意味があるとするならば。
それは貴方の中に生きる、意味でありたい。

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