勝つのはわたし

「待っていたぞハリー・ポッター」

ヴォルデモートが言葉を発するだけで、ハリーの傷は痛み私は呼吸を忘れる。ニタリと笑みを浮かばせた奴は、一歩また一歩と私達との距離を埋めた。

「コウキ…!」
「ぐっ…」

私の目前で軽く杖を振ったかと思えば、私の身体は宙に浮き、ヴォルデモートの手中に収まった。

「う…ぐっ…」
「やはり…お前は役に立ったようだな…」

首を掴まれ、抜け殻になってしまうのでは無いかと思うほど力が抜けて行く。ヴォルデモートが私の力を奪っている事など容易にわかった。
逃げなきゃ、逃げなきゃいけない!

「アバダ ケダブラ」

身体の内側に黒いもやもやとした何かが駆け巡り、時が止まった。奴の手を掴んでいた私の腕がだらりと落ち、視界が暗転した。

死にたく、ない。

「コウキ―――!」
「うわあっ!」
「…え?」
「…へ?」

私は吹き飛ばされる様にして後ろへ転がり、ハリーにぶつかり止まった。

「…え?あれ?私、今死んだよね?」
「コウキ、大丈夫なの…?」
「面白い…」

そう言ったヴォルデモートの足元には、ぐったりと力を無くした私の体が落ちている。
…私の体だって?驚いて今の自分の体を確認すると、元の姿――所謂大人の姿になっていた。転がっている私だったものは子供の姿の私だ。

「それこそが…魂の入れ替わり…お前の傀儡を作る力だ」

悦びに満ちた表情を浮かべ、ヴォルデモートが高笑いする。魂の入れ替わり、傀儡を作る力。パズルのピースが揃ったような感覚に身震いをした。それは私の不確かな部分が縁取され、肉付けていくような感覚だった。

「…私は、あのスリザリン家で輪廻する…陽の、光の力、生まれ変わりなのね?」
「その通りだ」
「でも、体が二つになるなんて…」
「俺様のように、儀式をしなくてもいい…お前がその力を発揮する事で、瞬時に傀儡を作る事が出来る」
「でも、いま、何で」
「お前達は魔力で傀儡を作る力を持ち、老いず死を知らず生きていく事が出来る。例え魂を奪われても、その魂は必ず同じ力を持ち、輪廻し時代を生きていくのだ」

―――あの子をお願い―――

「それが…私の本当の力…」
「孤児院で女が一人、殺された。コウキ…お前だ」
「…私じゃ、ない」
「同じ”モノ”だ。どこからか嗅ぎつけた者が、その危険性を悟り、殺した」
「あれが…あの、時の」
「そうだ。お前の存在を知るのに少々手間取りはしたが…お前はその力を見せてくれた。読みは当たったようだな」

私は、前世の記憶を見ていたのだ。何人も殺され、この世を去っていったこの魂。ここまで導いてくれたあの白い女性は、あの時孤児院で殺された少女だ。そして、私にリドルを託したのも。

「今も正にそうだ…瞬時に移る事によって呪いは受けない。お前の力は、この世の闇を滅ぼす為に生まれた。果ての無い魔力、転生の魂、生き延び姿を晦ます為の傀儡を作る能力」

あの時はそれが出来ず、守りの力によって死に切れなかったが為にあの時の狭間に落ちたのか。後は私が知る通り、この世界に戻る事を望み、無意識の衝動のまま傀儡を作り、またホグワーツへと還った。

杖を構え何か呪文をと思ったのだが、力が出ない。先程ヴォルデモートに根刮ぎ奪われてしまったのだろう。

「最後は、お前の全て、魂ごと俺様と一つになると…言っただろう」
「…魂だけは腐っても私のものだと、言ったでしょう!」

私は必死に願った。もうそれしかないのだ。貴女の力を、私に下さい。貴女が愛したリドルを、リドルが愛した貴女を救う為の力を。

「伊達に、魔王を滅ぼす為に生まれて来た訳じゃないのよ」

魔力が増幅したのを感じ、杖を振ればヴォルデモートが怯む。しかし、そんな事をやっている間に私達を囲むようにデスイーター達が集まっていた。

「っ!」
「俺様から視線を外すとは、愚か者め」
「コウキ!」

先程よりも頑丈な縄に縛り付けられ、トム・リドルの墓の下へと吹っ飛ぶ。どうやらこの縄は魔力までもを抑え込むらしい。いつもあと一歩だと言うのに!

「ハリー・ポッター。決闘だ」
「ぐ、ああっ!」

吹っ飛んできたハリーが私にぶつかり、二人共々墓の裏側に落ちた。

「ハリー、粉々呪文でこれを…」
「う、うん」
「ハリー!こっちへ来い!」

ヴォルデモートがハリーの身体を呼び寄せ、再び向き合う。ハリーとヴォルデモートの杖から放たれた光が繋がり、何本もの光が金色のドームと光の玉が生まれた。力を貸さねばと軋む体を動かそうとした時、また背中を押される感覚。

「貴女は…!」
「お願い…」
「…はい」

悲しき運命に縛られた私達。
幕を閉じるのは私の役目だろう。無作為に広がる私の道は、今一本になった。

「ハリー!」

杖を振りながらデスイーターの間をくぐり抜け、金色のドームに入った。後ろからしっかりとハリーを抱き締め、ハリーの杖を一緒に握る。

「離しちゃ、駄目だよ」
「う、ん…!」

するとハリーの周りに、次々と殺戮に合った人達が現れた。早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、深く息を吸う。ヴォルデモートの杖からもう一人、女性が現れた。

「お父さんが来ますよ」
「お母さん、」
「リリー…」
「コウキ、ありがとう」

私の知る彼女よりも少し大人びたリリーがハリーの肩を抱く。自然と、ハリーと私の身体に力が入った。そして、もう一人―――

「ハリー、時間を稼ぐ。少しの間だが、その間にポートキーのところまで行くんだ。わかったね?」
「はい」
「コウキ、君という友人を持って私達は幸せだ。ハリーとリーマスを、頼む」
「…ジェームズ、ありがとう」
「ハリー、絶対に忘れてはいけない。君を大切にしてくれる人達が、沢山居る事を」
「はい…!」

ジェームズとリリーに肩を抱かれ、私はもう一度深呼吸をした。

「ハリー、よく聞いて。私はジェームズ達と一緒にここを食いとめるから、私の抜け殻を持ってホグワーツへ」
「どうして!」
「ヴォルデモートを食い止められるのは私だけれど、滅ぼすのはハリー、君なんだよ」
「僕だけ逃げるなんて!出来ない!」
「二人で逃げる事は出来ないの。今の私にそれだけの力が残っていない」
「さあ、ハリー時間だ!」
「コウキっ!」
「私は、リーマスがいるから大丈夫だよ」
「いくぞ!」

ジェームズがそう叫び、ハリーは繋がりを絶った。

「走れ!走って、ハリー!」
「やつを失神させろ!」
「…そうはさせないよ」

私の体から現れた銀色の狼がデスイーターを薙ぎ倒し、その隙にヴォルデモートを抑え込んだ。力が出ないというのは焦れったいものだ。あと数秒、いやもう駄目かもしれない。

「貴様!」
「私の魂は、渡さない!」

…―――コウキがそう叫んだのを最後に、
僕はポートキーによってその場から飛び去った。

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