いってきます!

「代表選手の家族が招待されて、最終課題の観戦に来ています」
「僕、家族なんて」
「みなさんにご挨拶する機会ですからね」

ハリーが考えられない、という顔で立ち尽くしている。まあ、確かに唯一の血縁であるダーズリー一家が来るはずもない。

「僕、家族なんて、いないよ…僕の事心配してくれる人なんて」
「まあまあ、行けばわかるよ」
「でも…」
「アルバスがハリーにそんな思い、させる訳無いでしょう」

ハーマイオニーは図書館へ、ロンはテストを受けに教室へと向かう。私は一足遅れて朝食を食べ終え、腰の重いハリーを引っ張り小部屋へと向かった。

扉の先にはビクトール・クラムの両親、フラー・デラクールの母親と、妹ガブリエル。私とハリーに気が付いたガブリエルは手を振ってくれた。

「ハリー!コウキ!」
「おばさん!」

その横でハリーを待っていたのは、ウィーズリーおばさんと長男のビル、そしてシリウス。私を迎えてくれたのは、勿論リーマスだ。

「やあ、コウキ」
「やっぱりリーマスだ」
「駄目だったかい?」
「まさか!」

午前中はウィーズリーおばさんやビル、リーマスの昔話を聞いて校内を巡る時間となった。

「それにしても、本当の親子みたいね」
「え?」
「何だか顔立ちも似ているし、年齢的にも問題無いわね」

おばさんが考え込むようにそう言い、隣でハリーが笑う。リーマスは困ったように照れているし、私は私でここぞとばかりにリーマスの手に絡み付く。

「だって、リーマス。実はそうなの?」
「そんなはず無いだろう?君なら大歓迎だが、事実無根さ」
「でも、リーマスとダンブルドアがいてくれれば安心ね」
「うん、本当によかった」
「偉いわね。ハリーにも、シリウスという理解者が出来てよかったわ」

おばさんの言葉にふと考え込み、リーマスの裾を引く。

「私がリーマスを想って作ったのだから、強ち間違いでも無いわね」
「恋人と娘が同時に帰ってくるなんて、夢のような話だ」
「この狭い世界で独身子持ちってスペックが普通みたいに溢れている…」
「それに、コウキとハリー…」
「…はい?」
「いえ…」

思わずハリーと顔を見合わせてしまった。
…もしかして。

「あの、おばさん?僕達、付き合ってなんていませんよ」
「ここ最近の日刊予言者新聞とか、週刊魔女とか…全部でっち上げですからね?」
「あら!あら!そうだったの―――いえ、あの記事は信じてませんよ?」

きっと、ハーマイオニーの事を思い出して記事を否定したんだろう。イースター休暇に届いたハーマイオニーへの卵はかなり小さかったのだ。

午後はハリー達と別れ、私はリーマスの部屋へと向かった。

「ううん…ついに今日なんだな」
「どうだい?調子は」
「うん、大丈夫だよ。でも…」
「コウキ」
「うん?」
「何が、待っているんだい?」

真っ直ぐな瞳が私を捕らえ、目を逸らす事さえ叶わなかった。

「真実かな」
「コウキ」
「リーマス…」

立っていた私を引寄せ、強く抱き締めるリーマス。
全身からリーマスの気持ちが伝わってくるようだった。

「出来れば、このまま君を連れ去ってしまいたい」
「リーマス…」
「言い様の無い不安と恐怖が、私にも、君にも迫っている気がするんだ」

私の首筋に顔を埋めている所為で、リーマスの表情はわからない。だが、そのぽつりぽつりと零れる言葉からは悲しみが伝わってきた。

「あのね、リーマス」
「うん…」
「どうしても知りたい事があるの。それは…この先にきっとある」
「君の命と引き換えに?」
「引き換えには、ならないよ。私は死なない、もうリーマスを残して死んだりしない」

ヴォルデモートを目前にするのだ。死なないとは言いきれない事なのかもしれない。
それでも、私は。

「死なないんだよ」
「どうして?」
「ちょっとした自信があるの」
「止める事は、出来ないんだね」
「ごめんね、リーマス。でも、私、帰って来れるの。何があっても」
「うん…?」
「私が帰ってくる場所は”ここ”なんだよ」

そう言って、リーマスの胸を指す。リーマスが顔を上げ、近距離で目が合った。やっと見せてくれた瞳には、言い表せられない、複雑な感情が渦巻いている。

私が彼を縛り、捕らえた。
これがどんな理由を持ち、どんな結果をもたらすのだろう。

「前に言ったよね。ヴォルデモートから私を守ってくれたのは、リーマスだったって」
「ああ…そうだね」
「それはヴォルデモートだけじゃない。リーマスはありとあらゆる物から守ってくれるんだよ。だから、今回も守ってくれるよね?」
「…勿論」

合わせていた目を閉じ、唇を合わせた。
私の心の奥深く、未だ見たことも無いような場所の扉が開く。そんな不思議な感覚と共に満たされていくのを感じた。

頭の中で弾ける音。
それは確実に、言葉となった。

―――愛を知った魂は、闇の支配をも覆す。

「…っ―――」
「コウキ、」
「大丈夫、リーマス。もっと、して」

なんとなく、わかった。
そういう事だったのか。

「ねえリーマス」
「うん?」
「これ…」

そう言ってポケットから取り出したのは、クリスマスにリーマスから貰った懐中時計。もう一度ポケットに仕舞い込めば、しゃん、と音を鳴らした。

「本当の私は、ちゃんと、これを持っているから」
「本当の君?」
「もしその時が来たらわかるよ、きっと」

首に腕を回し、リーマスの首筋に顔を埋め囁いた時、ぐるりと視界は転回した。

「生徒を押し倒しちゃ、駄目なんじゃないの?」
「そう言う事、言わないでよ」

こんなリーマスは初めて見た。
余裕が無いというよりは不安―――だろう。

絶対置いていったりなんてしない。
そんな事をしたら、きっとあの世で皆に怒られる。ジェームズに怒鳴られて、リリーに追い返されて、レギュラスに馬鹿にされて、ふくろうに突付かれて。ピーターは、もう改心しているだろうか?そしたら、僕より馬鹿だ、なんて言われるかな。

「コウキ」
「うん?」
「他の事考えてる」
「―――ぷ、やだなあ…リーマスの事、考えてたんだよ」
「本当かな…」

どんな形であろうと、
おかえりって言ってね。

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