序章

6月になると、じわじわと近付く第3の課題への興奮がホグワーツを包んだ。
私とハリーは沢山の呪文を練習しながら、沸き上がる興奮と不安を落ち着かせていた。

「ねえ、コウキがドラゴンの卵を奪う時に使った呪文って、何なの?」
「水の呪文かな?アグアメンティだよ」
「アグアメンティ…えい、アグアメンティ!」

ハリーの杖先から水鉄砲の様にちょろりと水が出た。何度も繰り返し、少しずつ勢いを増す水をインセンディオで回収する。

「ポンプ車くらいの水圧で出せたら、気絶くらいはさせられそうだけど、対人では不向きかもね」
「うーん、もう少し勉強しないと。図書館へ行こう」

マクゴナガル先生に許可してもらった空き教室を出て、図書館へと向かう途中。どこからとも無くあの冷たい視線が突き刺さる。

「コウキ?どうしたの?」

だけど、もう怖くはない。恐れず戦い、負けないと決めたのだから。

「―――ごめん、先に行っててくれる?」
「どうかした?」
「忘れものを思い出したの。すぐ追いかけるから」

ハリー達と別れ、今来た道を戻った。影より放たれる、その殺意の下へ。先程の空き教室を過ぎ、曲がり角に腕組をして壁に寄り掛かるムーディがいた。

「少し、聞きたい事があるんですけど」
「…」

にやりと笑い、その先にあるムーディの部屋へと招かれた。ホグワーツでは何も出来やしない。そう高を括ったが、緊張はするものだ。

「聞きたい事とは?」
「…貴方は、私のどこまで知っているの?」
「そんな事を聞いてどうする?」
「知りたいからよ」

ヴォルデモートに忠実なクラウチなら、私の事を聞いているかもしれない。

「お前に、言う事など何もない」
「もしかして、何も聞いてないのかしら?成る程、大して信用されてないのね」
「殺されたいか?」

私との間を詰めながら、ずいと杖を突き出した。私に侮辱された事がかなり勘に触ったようだ。不適な笑みを零しながら、魔法の目はこれでもかというぐらい動き回りあのトランクへ視点を定めた。

「あそこに何があるか、わかっているんだろう?」
「…」
「お前も、同じ様になりたいか?」
「ならないわよ。そして、絶対に助ける」
「お前が俺を利用しようというのなら、わかっているだろう?俺もお前を利用している。あのお方の餌だ…丁重に扱わなくてはな…」

ぐ、と小さく唸ったかと思えば、ムーディは身に付けていた水筒を取り出した。が、中身は無くなっていたようで、近くの棚へ向かおうと私に背を向けた時―――

「ロコモーターモルティス!エクスペリアームス!」
「貴様…!」
「隙だらけなんだよ」

足縛りの呪文を受けたムーディは、悲痛な叫びと共にじわじわと身体が変化していった。
―――これが、クラウチJr

「さあ、私がヴォルデモートのところへ出向く代わりに…知ってる事を、話してもらおうか?」
「く…俺は、何も知らない」
「何も知らない?」
「奴の魂を呼び、肉体を与えた。一度はしくじったが、再び戻ってきた。やはり”まだ使える”―――それだけだ!それだけを聞いた」
「必要…力…使える…」

何度も聞いた言葉だった。

「俺を、どうするつもりだ」
「今からあのトランクに詰め込んで欲しい?」

怒りに爆発しそうなクラウチの呪文を解いた。杖を投げ遣れば、そのまま私に向ける。

「私はヴォルデモートの”大事な餌”なんだから、丁重に扱って欲しいのだけど?」
「図に乗るなよ…いつお前を殺したって構わないんだ」
「残念ながら、そう簡単には死にません」

部屋を出て行く時、ちらりとトランクを見た。私はまた、こうやって誰かを犠牲にする。でも…その日もあと少しで終わるはずだ。いつか、ムーディに謝ろう。そんな事で済む訳ではないけれど。

「おい」
「…また面倒な奴と出くわした」
「何だと!?」
「うるさいなあ。何、何か用?」
「フン!そんな顔してられんのも今のうちだぜ?次はお前の番だ!」
「は?」

ふんと踏ん反り返り、ゴイルとクラッブを連れたマルフォイが目の前を塞いでいる。やれやれと手を振り、向かい合った。私はやれやれ系主人公では無いのだ。こういう展開に巻き込まないで頂きたい。

「何が私の番だって?」
「明日になればわかる」
「ちょっと、何してるのよ」
「あ、ハーマイオニー!助けてよーマルフォイがナンパしてくる」
「身の程をわきまえなさいよ、マルフォイ」
「するわけないだろ!身の程をわきまえろだと?穢れた血に言われたくないな!」
「貴方にコウキは高嶺の花だって言ってるのよ」
「あの煩い彼女がいるんでしょ?浮気はよくないわよ」
「彼女じゃない!ちっ…行くぞ!」

キッと私達を睨みつけ、早々に廊下の端へと消えた。やはり女は強い。

「ハーマイオニー、ナイスタイミングだったよ」
「どういたしまして。何かあったの?」
「”次は私の番”なんだって。よくわからないけど」
「何かしら…?どうせろくでもない事なんでしょうけど…」
「まあ、明日になったらわかるみたいだし。そうだ、図書館にはいい本あった?」
「ええ。きっと力になるわ!ハリーと一緒に見てみましょう」



次の日―――ついに、第3の課題当日だ。
朝食の席で、ハリーと私のところには沢山の応援カードが届いた。親も、知り合いも居ない世界でこんなにも知らない人達が応援してくれる。きっと、私は幸せ者なんだろう。

「ぶっ!」
「わ、ハーマイオニー!?」

日刊予言者新聞の朝刊を広げ、一面を見た瞬間、ハーマイオニーが口に入っていたかぼちゃジュースを吹いた。

「ご、ごめんなさい、飛んでない?」
「うん、大丈夫だけど…どうしたの?」
「なんでもないわ、気にしないで」

そしてこっそりと新聞を隠そうとするのをロンは見逃さなかった。

「何が書いてあるんだよ―――って、あのくそばばあ…よりによってこう言う日に…」
「なになに、私かハリーの事でも書いてあった?」
「何でそんなに嬉しそうなんだよ、コウキ」
「でっちあげ新聞が最近面白くてね」

ロンも新聞を隠そうとしたが、次は私がそれを引っ手繰る。その時、スリザリン席からマルフォイが立ち上がり、こちらへ向かって叫んだ。

「おーい!ポッター、ダンブルドア!頭は大丈夫か?気分が悪くなって、俺たちを襲ったりしないだろうなあ!」
「うるさいよマルフォイ!紳士らしく静かに朝食も取れないの?」
「コウキ、落ち着けよ」
「あれくらい言ってやらないと黙らないでしょ」

最初はスリザリン席からくすくすと嫌な笑いが響いていたが、次はグリフィンドール席がどっと沸いた。

「で?新聞は?」
「僕の事じゃないか…」

予言者新聞には、ここぞとばかりハリーの精神面を否定したものが書いてあった。そしてちらりと私の名前が。

―――と、数々のハリー・ポッターの危険を述べたが、それを理解し尚共にいる女性がいる。
コウキ・ダンブルドアだ。そう思うと、素晴らしく出来た女性のように思えるが、それはある証言により覆された。彼女もまた危険な奇行を見せている。

「あー、これ前におかしくなって走り回ってた時の事じゃん」
「誰だよ、スキーターに言いやがったの」
「あれは奇行過ぎて返す言葉もありませんね」
「貴女本当強いわね…こんな事書かれて笑っていられるなんて!」
「それはハーマイオニーも同じでしょ?」

―――ハリー・ポッターが闇の魔術を使うのではないかと恐れる者もいる。それと同様に第1の課題では、普通では考えられない程の力を見せてくれた彼女だが、それを踏まえ、闇の魔術に関しての知識があるのではないかとも言われている。

「お前ら、間違って闇の魔術をスタンドに飛ばすなよ!」
「飛ばされたくなかったら大人しくしてた方がいいんじゃない?」
「ポッター、ダンブルドア、代表選手は朝食後に脇の小部屋に集合です」
「っ!わ、わかりました」

悪態を付いている時にマクゴナガル先生に話しかけられ思わず驚いて立ち上がる。お転婆娘をたしなめるような表情で職員席に向かう先生。すいません、こんな育ち方をしてしまいました。

遂に、
最終戦だ。

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