みえた道筋
消灯時間もとっくに過ぎ、皆が寝静まった頃。
私は一人で談話室に残り、窓から禁じられた森を眺めていた。暗闇に呆けた視界に見慣れた影が見え、すぐ鳥に変身し窓から飛び立つ。
「シリウス!」
「コウキ、か?何をやっているんだ、こんな時間に!」
「今談話室の窓から降りてきたところよ」
子鳥から狼へ体を変え、シリウスを背に乗せ禁じられた森の奥、忍びの地図の範囲外まで走った。
「今日は校内に居なかったの?」
「ああ、ダイアゴンに用事があってな。何かあったのか?」
「話せば長いんだけど…」
予想はしていたが、説明し終わった後の反応は酷いものだった。仕方無いのだけど。私とハリーの行動に対し怒鳴り散らすシリウス。
「いくらお前に力があったとしても、敵はどんな闇の魔法使いかわから無いんだぞ!」
「うん…」
「ついこの間も危ない所だったんだ、それなのに夜の森へ行くなんて、お前らは危機感が足りない!」
「ごめん」
「またここに戻ってきて…何があるんだ?」
「わからない、ただ…何かがあるのは確かなの」
クラウチ氏は、もう殺されてしまったのだろうか。忍びの地図が無い限り、こちらにクラウチ氏を探す術は無い。だが、もしかしたら…森の外れに転げられているかもしれないという期待だった。
「ごめん、シリウス。もう少し付き合って欲しいの」
「それはいいが、お前リーマスの事も考えろよ」
「うん?」
「またお前が命の危機に晒されているんだ。あいつは気が気じゃない」
「そう、だよね」
「自分の事で精一杯かもしれないが、もう何もお前一人で抱えなくたっていいだろ?またお前がいなくなってみろ、リーマスが後追いするんじゃないかってそっちも心配だ」
「うん…そうだね、ありがとうシリウス」
シリウスとはそこで別れ、再び鳥の姿でホグワーツ城を目指した。今日も森は嫌に静かだ。木々のざわめきすらも遠く感じる。
「ユウシ」
「―――!」
思わぬところから光線が飛び、それは避けきれず羽に当たる。体制を崩し、禁じられた森の中に落ちた。
「っく…」
地面にぶつかった衝撃で変身は解け、人間の姿へと戻ってしまった。腕の骨が折れている―――焦りと痛みで汗が滝のように流れた。
「ムー…ディ…」
「どうしてこんなところにいる?何があった?」
「っ!触るな!」
ムーディが私に触れようとした瞬間、ばちんと手が弾かれた。私が否定したとはいえ、守りの力が発動した。それは目の前に立つムーディが、ムーディで無い事を指している。
「どうした?」
「近寄らないで…クラウチ」
「―――…そこまで、わかっているのか」
「っ…!」
にやりと笑い、手が私の首をしっかりと掴んだ。
「始末するしかないようだな」
「待っ―――て…!私は、ヴォル…デ、モートの所へ…行き、たいの…!」
「なに?」
「離、して…っ」
ぼとりと体が土の上に落ちる。嫌なデジャブを感じるではないか。急に満たされた肺が悲鳴をあげ、咳き込みながら立ち上がる。しっかりと目を向ければ、クラウチJrは訝しげな表情で私を見ていた。
「あなたの事は、口外しない。これから起こる事も、わかってる。だから、普通にしていて」
「何が目的だ?」
「だから、ヴォルデモートに会いたいの。あいつに、用がある」
「―――面白い女だな」
「そりゃどうも」
そこでクラウチは私に背を向け、ゆっくり歩き出した。しかし、この独特な殺気に具合が悪くなる一方だ。
「お前は、本当にグリフィンドールか?」
「何…?」
「お前の行動…勇敢なグリフィンドールとは思え無いが」
にたりと笑って私に杖を向けた。距離はあるものの、脳内に直接響くような声が私の体を這っていく。
「目的の為なら手段を選ばない…そうだな、スリザリンがお似合いだ」
「黙れ」
「言い訳をするのが難しいだろう?」
私は今様々なものを犠牲にし、そして巻き込もうとしている。本来ならば今すぐクラウチをアルバスに突き出し、本物のムーディを助けるべきだろう。
背を向けたクラウチの姿が見えなくなり、やっと気持ち悪さから開放される。脂汗を袖口で拭き取り、折れた腕を見遣った。魔力の欠けた部分は、魔力で補う。左手を折れた腕に添え、元通りになる事を想像する―――
「っ…う!」
メキメキと音を立てて、腕が繋がる感覚を覚える。案外簡単なものだが、伴う痛みはかなりの苦痛だ。
安堵の溜め息を吐き、私も森を抜けた。
これで私の行く先は決まった。
どんなに逃げても、避けられない道が真っ直ぐと私の前に続いている。
守るものがあるから。
絶対に強くなって、ここに戻ろう。
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