迫りくるもの

第2の課題が終わり、緊張から放たれて以来呆けて毎日を過ごしていたある日の魔法薬学の授業。

地下牢の教室の前でスリザリンの愉快な仲間達が群がっていた。席に着いた私達へパンジーがにやつきながら週刊魔女を投げて寄越す。

「何?一体…」
「代表選手の密かな胸の痛み?」

内容は簡単に纏めるとハーマイオニーがハリーとクラムをたぶらかし、ハリーを奪われた私は後見人のリーマスに泣き付く毎日、という内容だった。

「泣き付いているのは否定しないけどね」
「くだらない内容だこと」

目を付けられているハーマイオニー自身はその記事を鼻で笑い、空いた椅子に雑誌を投げ捨てた。

「でも、どうして私とクラムの会話を知っているのかしら…」
「会話の内容は合っているの?」
「ええ…」
「我輩の授業で私語とは、随分と余裕な様子だ。グリフィンドール、10点減点」

驚いて振り向くと、音も無く迫っていたらしいセブルスが私達を見下ろしている。

「げ」
「名の知れ渡ったポッターとダンブルドアはまだ有名になる為の話題が欲しいのかね?恋愛事情に悩んでいる暇があるのならば授業に集中して頂こうか」
「すみませんでした。私語は慎みます」

こういう場合はさっさと謝ってしまうのが得策だ。セブルスはぎろりと私を睨んだが、悪いが私は怖くない。セブルスが何か言おうと口を開いた瞬間、教室にノックの音が響いた。訝しげに入室を促すと、カルカロフが教室に入って来た。

「話がある」

クリスマスの日の様に、セブルスに近付きぼそぼそと話を始めた。距離が離れている私に会話は聞こえなかったが、どうやら良くない内容の様だ。二人とも顔が険しい。
セブルスに一喝されたカルカロフは、結局授業の終わりまで教室の後ろをうろうろしていた。授業が終わって直ぐにセブルスを捕まえ、また話を始める。

「これだ。こんなにはっきりしたのは―――」
「しまえ!」

カルカロフが左袖を捲り上げ、セブルスに見せた。
ぞわりと寒気が背筋を走る。あれは、あの位置は闇の印がある場所では無いだろうか。

「スネイプ先生!」
「君、今私が話をして、」
「もういいだろう。後で話そう」

カルカロフは怒りを露わにしたままの表情で出て行き、後を追う様にこっそり話を聞いていたハリーも出て行った。

「今の、本当?」
「…お前は、それを聞いてどうするのだ」
「私はヴォルデモートに会わないといけない。だから、それが本当なら、準備をしないといけないの」
「会うだと?また殺されるつもりか?」
「だから殺されない為の準備でしょ。私が何者かを奴は全部知っている」
「知らないといけない事なのか?また、危険を犯す必要があるのか!」
「…知らないと、いけない。私にはやらないといけない事がある」
「奴よりも、お前に必要な事か?」

その言葉に驚いた私は捲し立てていた口を紡ぐ。
奴とはリーマスの事だろう。まさか私とリーマスの事まで心配してくれるとは。

「リーマスは、わかってる」
「我輩は賛成し兼ねるがな」
「ありがとう、セブルス」



翌日、穏やかな天気の中ホグズミードへと繰り出した。
ある程度買い物を終え、シリウスと待ち合わせしている叫びの屋敷の近くへと向かう。話の内容は、クラウチ氏の事だ。下手に口を出すと墓穴を掘りそうだったので、ほとんど黙っていたのだが。

「シリウスは、スネイプが何か企んでいるって思うの?」
「ハリー、ダンブルドアがスネイプを信用している限り、そんな事―――」
「ハーマイオニー、いい加減にしろよ!スネイプ程の狡賢い闇の魔法使いだったら、ダンブルドアだって騙されるかもしれないだろ!」
「じゃあ、1年生の時に、ハリーを殺す事だって可能だったじゃない?でも、助けた」
「もう、知るかよ!見たまんま、あいつは最低な奴だ!」
「シリウスはどう思う?」
「私も、ダンブルドアがどうしてスネイプを雇ったのか、不思議だったんだ。スネイプはいつも闇の魔術に関わり、気味の悪い、嫌な子供だった」
「そんな事無いって」

私が口を挟んだ事でその場は静まり、次の言葉を待つ。ああ、と溜め息を吐きながら私は口を開いた。

「セブルスは優しかった、今だってそう。一方から見れば確かに嫌な奴よ。だけどそれだけの人では無い」
「コウキ…」
「それに、闇の魔術に関わっていた事なら私だって同じじゃない」
「それはお前、ヴォルデモートを倒そうとしていたからだろ」
「さあ、わからないわよ?皆を騙して、死んだ振りをして、ここに戻ってくるまでの間ヴォルデモートの下にいたとしたら?私の今までを証明出来る人なんて居ないでしょう」
「コウキ、何言って―――」
「目に見える物が全てじゃないの。アルバスとセブルスの信頼は本物よ。過去と、今、小さい頃から見てきた私が断言する」
「ダンブルドアと信頼しあってる…か」
「そう。今回の事、セブルスは関係ない」

セブルスがやってきた事、やろうとしている事。それは最期の時まで人目に触れることは無いのだろう。それが、少し寂しい。



次の日の朝、ハーマイオニーの所へ沢山の悪戯手紙が届いた。週刊魔女を読んだ人達からの批判が殺到しているのだ。
それからもハーマイオニーへのいやがらせは続き、精神的に追い詰められていると思われたが、実際はスキーターのしっぽを掴む為にどんどん強くなって行く。彼女はいつだって真っ直ぐだ。

「うわ、吠えメール!」
「よっしゃ任せて、消えろ!」
「おお…見事だよ、コウキ」

数日も続けば周りも慣れたもので、グリフィンドールの席で爆発を起こす手紙などが送られて来る度、私やハーマイオニーが杖でさっと対応する程になった。逆に注目を浴びる様になった気もするが、嫌な気持ちになるよりはマシだろう。

「コウキは何を調べているの?」
「次の課題の為に出来るだけ難易度の高い魔法を覚えておこうと思って。昔の私じゃ、出来ない物もあったから」
「良い事だわ、コウキ!それでこそ代表選手よ!」
「君たち、勉強しなくていいのかい?」
「何言ってるの?ちゃんとしてるわよ」
「コウキは?」
「まあ…4年生は2回目だから」
「ずるい…」

イースター休暇も終わり、夏学期が始まる。
5月の最後の週、やっと代表選手の収集がかけられた。集合は夜の9時、クィディッチ競技場だ。

そして集まったクィディッチ競技場は、生垣が生え、競技場としては見るも無惨。私とハリーがピッチの真ん中へ行くと、バグマンが嬉しそうに話を始めた。

「第3の課題は迷路だ。迷路の中心にある三校対抗優勝杯に触れた者が満点。速さを競うわけではない」
「迷路にはなにが?」
「障害物だ。色々な生き物や、呪いが待ちうけている。これまでの成績順でスタートの順番が決まるからな!」

説明が終わり、城へ帰ろうとした出前でクラムがハリーを呼びとめた。

「ちょっと話があるんだけれど」
「いいよ、コウキ―――」
「大丈夫だよ、一人で戻るから」
「でも…一人で戻るのは危ない」
「じゃあ、ハグリッドの小屋の所で待ってるから」
「うん、わかった」

遠目で二人を見守っていると、急にハリーがクラムを引っ張り、森へ真っ直ぐ杖を向けた。その先に目を凝らすとクラウチ氏が居るではないか。

「ハリー!」
「コウキ、クラウチさんが!」
「ここは見てるから、アルバスを呼んで来て!」
「わ、わかった!」

ハリーがここに戻ってくるまで、どうにかしてクラウチ氏を抑えていなければならない。仕切りにアルバスを呼ぶが、一変し仕事の話を始めたりもする。

「この人、狂ってる」
「大丈夫、抑えていてくれる?」
「わかった」

やけに静かな辺りを見回す。
クラウチ氏は、どうやってここまで来たのか。

「!!」
「クラム―――っ!」

クラムの一瞬の叫び声と、背後から感じた殺気に振り返った時にはもう遅かった。

「―――クラウチ…!」

受けたのは失神呪文。痺れた身体は動かないが、意識だけは残っている。呪文に失敗したのだろうか?呪文を当てられ吹っ飛んだ私の身体は、木に寄りかかるようにして座っていた。

―――ムーディの姿をしたクラウチJr.がクラウチ氏を引き摺る音だけが耳に入ってくる中、

「コウキ・ユウシ…」

確かに、確かに彼はそう呟いた。
そうして間もなく、ハリーとアルバスの声が届き、私とクラムは自由を取り戻した。

「コウキ、何があった?」
「後ろから、」
「クラウチ氏が?」
「違う…クラウチ氏は、ちゃんとクラムが抑えていたから―――」

アルバスの目がしっかりと私を捉える。ムーディの魔法の目で見据えられた時のように、息が詰まる感じがした。駄目だ、今ここでは言えない。
そうしている内に、何事も無かったかのようにムーディ、続いてハグリッドがやって来た。

「ハグリッド、コウキとハリーを城まで送ってやってくれないか」
「でも―――」
「生徒の安全が最優先じゃ。コウキ、ハリー、今日は絶対に動いてはならん。すぐにグリフィンドール塔へ戻るのじゃ」
「はい…」

クラウチJrは、ヴォルデモートは、私の存在に気付いている。

「コウキ、ハリー、他の学校の奴らには気をつけるんだ!」
「わ、わかったよ…」
「おやすみハグリッド」

とにかく今は、先程の出来事をハーマイオニーとロンに話すのが最優先だろう。私とハリーは談話室の暖炉前を陣取り、話を始めた。

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