恐怖の形

試験が始まり、5年生の間ではお祭りのように騒がしかった。もう駄目だと叫んだり、最後の悪あがきで教科書を大声で朗読したり。とにかく必死で勉強していた。それもあと1時間で終わる。最後の教科は魔法史だ。

大広間で全員が机についた。最終試験が始まる。視界に入るハリーはとても眠そうに船を漕いでいた。

「では、始め!」

先生の声を合図に全員が問題用紙をひっくり返した。カリカリと机を引っかくような音が大広間に響く。これが終わったら、うんと羽を伸ばそう。アンブリッジにバレないような作戦を練って、リーマスに会いに行こう。

試験自体はそんなに難しいものではなかった。あくまでも"私からみれば"だが。時間が半分過ぎたあたりで見直しも終わり、居眠りをしようか考えていた時だった。

「うわああああああああ!!!!」

ハリーが叫んだ。イスから転げ落ち、床でのた打ち回る。その手は傷口をかきむしるかのように強張っている。騒然となる中、私はハリーの下へと駆けていた。

「先生、私が医務室へ連れていきます。問題は全て解きました」

ハリーを抱え、医務室へと向かおうとした。しかし、ハリーは私の腕を抑え反対側へと促した。

「ハリー大丈夫?どうしたの?」
「大変だ、シリウスが…とにかく、マクゴナガル先生のところへ!」

マクゴナガル先生の姿は何処にも見当たらなかった。職員室も、教室も、自室にも…。

「どうしたんです?二人は試験中じゃ…」
「マダム・ポンフリー!あの、マクゴナガル先生を知りませんか?」
「マクゴナガル先生は、今ホグワーツにはいません。今朝、聖マンゴに移されました。あのお歳で「失神光線」を四発も胸に…命があったのが不思議なくらいです」
「先生が…聖マンゴに?失神光線…?」
「何があったんです?」
「昨晩、アンブリッジがハグリッドを解雇しようとした所、マクゴナガル先生が騒ぎを聞きつけて向かったのですが…」
「そんな…そんな事が許されるんですか…!」
「ダンブルドアがいなくなったホグワーツはめちゃくちゃです」

ハリーはまた走り出した。
授業終了の鐘が鳴り、ハーマイオニーとロンを探しに出た。

「ハリー!コウキ!」
「どこ行ってたの?大丈夫?」
「とりあえず、一緒に来てくれないか」

私達はハリーの後ろをついて歩き、やっとの事で見つけた空き部屋に腰を落ち着けた。

「シリウスがヴォルデモートに捕まったんだ」
「なんだって?」
「どうしてそれが?」
「さっき、居眠りをした時に夢に見たんだ」
「どこで…どうやって?」
「わからない。でも、神秘部の小さなガラスの玉で埋まった棚が沢山ある部屋だ―――そこで、シリウスを使って何かを取ろうとしてる。最後にはシリウスを殺すって!」
「でも、何だかおかしくない?まだ夕方よ?魔法省には…沢山の人がいるはず…なのに、どうやってシリウスを連れて神秘部に?」
「確かに、そうだね…辻褄が合わないところがある」
「何だよ、二人ともハリーを信じないのか?」
「そんな事言ってないわ」
「ハリーが見たんだ、それで決まりじゃないか!」
「っ…!」
「コウキ?」
「う、…っ―――!」

ど、という鈍い音を立てて私は床へ倒れた。
激しい吐き気と痛みに瞑っていた目を開くと、そこは見なれた白い世界だった。

「大丈夫ですか?」
「は、あ…はあ…だい、じょぶ…です…」

しかし、見なれたはずのその世界に異変が起きていた。空間が、黒く歪んでいたのだ。

「これは…?」
「時間がありません。リドル…ヴォルデモートが、動き始めました」
「魔法省には?」
「…わかりません。ただ、ヴォルデモートは、恐らく貴方を、魂を留める方法を見つけたのです」

いつもの白い世界は歪み、彼女の姿もはっきりとしない。これは真実なのだろうか?私の世界に、黒い影が現れるなんて、そんな事ありえない。

「それは…?」
「あの方の、貴方の恋人の、…」
「な…なん、ですって?」

私の世界が、意図的に歪んでいるのであれば、それは、

「愛するものです…それを武器とする―――」
「え?」
「―――時間が―――せん、もう一度――を―」
「待って、まだ、わからない…!!」

リーマスに、何か―――

「リーマス!!」

自分の大声に驚く。汗をかき、肩で呼吸している。くらくらとする頭を手で抑え、嗚咽を我慢した所で肩を誰かに押さえられた。

「落ち着け」
「セブルス…?」
「ブラックが捕まったと」
「本当に?」
「たった今ポッターが我輩にそう告げた。これから本部と連絡を取る」

周りを見渡すと、セブルスの部屋であることがわかった。私とセブルス以外、誰もいない。

「ハリー…ハリー達は」
「アンブリッジの部屋だ」
「っ…私は、どうしてここに?」
「グレンジャーが連れてきた」
「…それは、少なくともハーマイオニーがセブルスを信用してるってことね。迷惑をかけてごめんなさい―――私は、行く」
「…ルーピンの身も確認する。待て!」

セブルスの制止も聞かず、すぐに部屋を飛び出てアンブリッジの部屋に向かった。杖を握り締め、扉を開いた瞬間目に映ったのはマルフォイ達に拘束されるロン、ジニー、ネビル、ルーナの姿だった。

「離せ!」

そう叫んで杖を振り、まずマルフォイをふっ飛ばした。その隙をついて皆がそれぞれ攻撃を加え、その場を収めた。

「ハリーとハーマイオニーは?」
「アンブリッジを騙してどこかへ行った!」
「探そう」

アンブリッジの部屋から外を覗くと、禁じられた森へ向かう3人が見えた。とにかく走って、3人を追った。

「ハリー!ハーマイオニー!」
「コウキ、みんな、大丈夫?」
「ええ、コウキが来てくれて、みんなで倒したわ」
「それで、アンブリッジは?」
「ケンタウルスをバカにした所為で追われて何処かへ行ったよ」
「そう…それで、どうするつもりなの?」
「とにかく行かなきゃ…」
「まあ、全員で飛んで行くほかないでしょう?」

そう言ったのはルーナだった。

「…セストラル?」
「正解」
「もちろん、私も行くわよ」
「お前は駄目だ」
「どうして?私だって同じくらいシリウスを心配してるのよ!」
「DAは「あの人」と戦うためにあったんだろう?じゃあ、僕も行かなきゃ」
「そうよ」

ジニーも、ネビルも、ルーナも行く気だが、ハリーとロンは気が乗らないようだった。これから命を賭けて戦いに行くのに、3人を連れ大勢で行くのは不安に感じたのであろう。

「2頭来た」
「足りないわね」
「あと4頭来なくちゃ」
「ばか言うな、全員は行けない!」
「…ハリー、」
「コウキ?」

私に迷っている時間は無かった。シリウスが本当に捕まっているかどうかがわからない状況で、魔法省へ行くべきでは無い。セブルスを待った方が得策だ。でも、私は行かなければ。

そこにヴォルデモートの手掛かりが必ずある。私の世界に介入してきたのだ、リーマスを手に掛けられる前に、私が消えてしまう前に。

「スネイプ先生が、私達を探しに来てくれると思う。きっと、本当にシリウスが捕まっているかどうかもそこで教えてくれる」
「そんなの待ってる時間はない!」
「…もし捕まってなかったら?心配するのはわかる!でも、もし罠だった場合、危険なのはハリー貴方よ?」
「でも」
「私はやなきゃいけない事があるから」
「君一人で行かせるわけには!」
「私は貴方達とは違うの!…子供じゃ、無いの」

出来るだけハリー達の出発を遅らせたい。だけど、迫り来る頭痛に、私は恐怖を覚えていた。誰よりもはやく、ヴォルデモートと接触しなければ―――

「先に、行く」
「コウキ!」
「確認してからでも遅くない!そして、スネイプ先生に私が行った事を伝えて欲しい。そして、リーマスに来るなって事も」
「…コウキ」
「よろしくね、ハリー」

そうして、私はセストラルに跨り一気に暗い空へと飛び立った。

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