夢を見る未来

アルバスが消えた。今の状況下で一番頼れる人物が。
アルバスは何も残していかなかったわけではない。けれど―――ホグワーツに出来た隙を、アンブリッジはここぞとばかりに突付いた。もちろん、校長はアンブリッジになったし、「尋問官親衛隊」なんてものまで作り出した。中心人物はマルフォイ。彼らに他の生徒の減点をする権限まで与えたのだ。

「これからどうするんだい?」
「今は…どうしようもない。大人しくしていなければ…」
「あ…僕、スネイプのところへ行かなきゃ」
「途中、マルフォイ達に気をつけてね」
「うん」

気が乗らなさそうなハリーの背中を見送ってから、そっと後ろを着いて行った。今、ハリーの閉心術はどのように進んでいるのか気になったからだ。

セブルスの研究室の扉周辺には本棚が沢山ある。その影に隠れて、少し時間が経つのを待った。すると、そこにマルフォイが現れ、中からセブルスだけを連れ出した。しかし、時間が経ってもハリーが出てくる様子が無い。何か嫌な予感のした私はそっと研究室へと入った。

「ハリー…?」

ハリーはセブルスの憂いの篩に頭を突っ込んでいた。もう一度名前を呼ぼうとした時、後ろの扉が開いた。

「…セブルス!」
「何をやっている!」

すぐに私は弾き飛ばされ、セブルスはハリーの頭を篩から上げた。

「愉快な男だっただろう?お前の父親は」
「ぼ、僕は…」
「誰にも喋るな!」
「はいっ…」
「出て行け!!」

ハリーをありったけの力で投げ飛ばし、走り去ろうとする後ろ姿に杖を向けた。

「ちょっと! セブルスっ―――!」
「…」
「…っ、大丈夫?」
「ほう?その状況で我輩の心配を?めでたい奴だな」
「今の、セブルスの、ジェームス達の…」
「その通りだ」

ハリーと杖の間に入った私は、セブルスの杖から放たれた光線に吹っ飛び、何個か瓶を割ってしまった。普段蒼白なセブルスの顔は今や怒りの赤に染まっている。

「なぜ庇った?奴はしてはならん事をしでかしたと…お前も理解できるはずだ」
「ハリーは、十分に傷ついて反省してる」
「いつお前を沈めても構わんのだぞ」
「…セブルス」
「出て行け、お前も出て行くんだ!」
「セブルス!!」
「っ…」
「…ごめん」

立ち上がり、セブルスに近付くも怪我をした足ではおぼつかず、抱き留められる形になってしまった。流れ出した涙に視界は歪み、痛みを伴う足ではうまく立つ事すらできない。

「ハリーが悪いんじゃない」
「…」
「ごめん、」
「お前が謝って何になる?」
「私が、いなくならなければ、」
「お前が我輩の人生にそこまで影響を及ぼすとなど思っていない」

扉が閉まる時、セブルスはあの印のある場所を強く握り締めていた。



セブルスの忌わしい記憶を覗いてしまったあの日から、ハリーはずっと上の空だ。しかもずいぶんと滅入っている様子である。

「ねえ、コウキ」
「うん?」
「コウキがホグワーツに来た時には、もう父さんと母さんは、付き合っていたの?」
「ええ、私が来た時には誰も邪魔出来ない程仲が良かったよ」
「父さんは…どんな人だった?」
「皆が言う通り、素晴らしい人だったよ。悪戯も大好きだった」
「シリウスは?シリウスも、父さんと一緒に悪さをして…」
「ねえハリー、ジェームズとシリウスは特別だったの。何でも出来て、誰にだって好かれてた。…スリザリンとは仲が悪かったけれど」
「誰にでも悪戯を?」
「そんな事ない。セブルスに関しては、お互い様の所もあるの。でも、段々変わっていった」
「…僕、今は父さんに対してどういう気持ちを持って良いか…わからない」
「ハリー…あのね」

言いかけた時、大粒の涙を流しながら、チョウが中庭へ飛んできた。その後ろからは、いつも仲良く一緒にいる女の子が数名。

「何か用?」
「ハリー、あの…」

冷たく言い放つハリーに、チョウはまた涙を流した。アルバスがいなくなってから、何度かチョウがハリーに話しかけようとしているのは見ていた。しかし、その度ハリーは冷たく避け、チョウは泣いていた。

「君と話すつもりは無いんだけど」
「ハリー、聞いてみるくらい、してみたら?」
「その…私っ…」

チョウの声を掻き消すドタドタという音をたてながら、次はセドリックが現れた。彼は息切れ切れでその場に膝をついた。

「チョウ、ここにいた…ハリー、コウキ、聞いてくれないか」
「セドリック、どうしたの?」
「あの日、DAの会合がアンブリッジに知られた日…チョウはアンブリッジに真実薬を飲まされていたんだ」
「…なんだって?」
「本当に?」
「ああ、アンブリッジが色々な生徒を呼び出していただろう?あの時、紅茶に真実薬を混ぜていたんだ」
「生徒一人一人に…!?」
「そうらしいんだ」
「チョウ、そうなの?」
「っ…ごめ、なさい…」
「なんてこった…」

わっとチョウが顔を覆い、セドリックがその肩を支えた。何日も泣きつづけたのであろうその顔は酷く腫れていた。

「いつも…僕にそれを謝ろうと?」
「でも、紅茶を飲んでしまったのは…私の不注意だからっ…何て謝ったら…」
「チョウ、もういいんだよ。終わった事なんだから…ね?」
「でもっ…」
「これからの事を考えよう。ヴォルデモートが復活したのは真実で、それに対抗する為に学習していたんだから」
「僕らが動く時、一緒に戦ってくれるかい?」
「もち、もちろんよ…ごめんなさいっ、ハリー、コウキっ…」

それからチョウはセドリックと友人に支えられ、中庭を後にした。残った私とハリーはしばらく黙っていた。空を、城を見つめ、これからどうするかを、働かない頭で必死に考えた。

「ハリー、閉心術をやらなきゃ」
「僕に、またスネイプのところへ行けって?」
「…私には、開心術の心得が無いから…」
「無理だよ、もう、無理だ」
「…」



ホグワーツの5年生は、各寮監に進路について面談を受ける時期となった。ロンとハーマイオニーは、まだはっきりとした職が決まっていないらしい。

「ハリーは?」
「うーん…闇祓い、なんて格好良いよねって」
「ああ、前にリーマスと言ってたね。マクゴナガル先生にもそう伝えるの?」
「そのつもりだよ。」
「コウキは?やっぱり魔法省に?」
「もちろん。あわよくば大臣!」
「君なら本当になりそうで怖いよ」
「あら、どうして怖いのかしら?」

久しぶりに私達の間で笑い声が響いた。

私の面談の日が来た。
ある日の魔法史の時間に、マクゴナガル先生に呼び出された。他の生徒の場合アンブリッジが同席していたらしいが、私は特殊なので、アンブリッジにばれないよう密かな進路相談となった。

「さて、あなたはホグワーツ卒業後、どう…生きるのですか?」
「そうですね…本来の私の姿でいるつもりです」
「日本に戻る事は?」
「それは考えていません。この時代の日本と、私の生きていた日本は違いますから」
「そう…では、ルーピンのところへ?」
「はい。でも、夢があるんです」
「それは?」
「魔法大臣上級次官…もしくは、魔法大臣に」
「それは…本当に?」
「はい。アルバスが魔法大臣になってくれるのが一番いいんでしょうが、きっと望まないと思うので。私では…色々足りないと思いますが」
「そう…そうですね…しかし、貴方は沢山の経験をしています。それを活かせれば、他の生徒よりも難しい話ではないかもしれません。成績も、申し分無いです。」
「頑張ります」
「贔屓目で見るつもりはありませんが、貴女は、アルバス・ダンブルドアと同じ目をしています」
「マクゴナガル先生…ありがとうございます」
「では、進路相談は終わりです」
「ありがとうございました。―――先生、」
「はい?」
「もし、私が必要の無い世界にこれから変わるのならば…ホグワーツの教員にもなりたいです」
「わかりました」

マクゴナガル先生が微笑むのを見るのは、いつ振りだっただろう。もうすぐふくろう試験だ。アンブリッジさえいなければ―――

prev / next

戻る

[ 102/126 ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -