残る闘志
「女って全然わからないよ!」
「君らが乙女心わからなさすぎなんじゃなくて?」
「君達が複雑過ぎるんだ」
「男が単純過ぎるだけ」
「「そうかなー」」
大広間で夕食を食べている時に、ふとハーマイオニーが発した一言によって私達は同じ討論を続けていた。
「そういえば、二人共どうしてあんなにはやく待ち合わせ場所に来たの?」
「んー…」
「それは…」
言葉を濁らす私とハリーに状況を把握したらしいハーマイオニーは気の毒そうにハリーを見た。極めつけは、仲直りしたセドリックとチョウが二人並んで大広間に入ってきたこと。
「女はチョウだけじゃないわ」
「そうかな。例えば?」
「ハーマイオニーとか?」
「そ、それはハリー、趣味が悪いよ」
「あら、悪かったわね!」
「もう、ロンったら…」
「前にもこんな会話した気がするな…」
昼、三本の箒で私達を待っていたのは、ハーマイオニーとルーナ、ネビルにリータ・スキーターだった。
ハーマイオニーの計らい(脅し)で、スキーターに記事を書いてもらい、それをルーナに頼んで「ザ・クィブラー」に掲載してもらうという事だった。内容はもちろん、ヴォルデモートが復活した夜の事。
事細かに記事にされるだろうソレを読んで、どれだけの人が私達の話を信じてくれるだろうか。一人でも多く、この現実に目を向けて欲しい。そして、どんな形でもいい、戦って欲しい。逃れられない運命から。
「みんな知らなくちゃいけないんだ。例のあの人の事も…デスイーターの事も…」
ネビルのその言葉にみんな頷き、その場は解散した。
ハリーと並んでクィディッチの試合を観戦する。そんな慣れない日も過ぎ、あの取材から1週間後、ついにハリーと私の写真が表紙になっている「ザ・クィブラー」が届いた。
その梟を先頭に、何通もの梟と手紙が一斉に私たちの朝食の上へと降り注いだ。
「信じる、信じない…色々あるけど、それでも何人もの人がこの記事のお陰で信じてくれたんだ!」
「ええ!よかったわ…」
「ありがとう、ハーマイオニー」
「ううん、あなた達のお陰よ」
「何事なの?」
思わずピクリと身体が反応したその声は、アンブリッジのものだ。ハリーが状況を説明すると、ものすごい表情でグリフィンドールに50点減点と、ハリーと私に1週間の罰則処分を言い渡した。
しかし、そんな事を気にさせない程、校内では「ザ・クィブラー」が有名になった。昼頃にはアンブリッジが所持を禁止させたおかげで、口伝いに記事は広まり、ついには全校生徒が読んでしまったようだ。
確実に、私達に向けられていた不信の目は輝きに満ちた視線に変わっていった。
「じゃあ今日も守護霊の呪文の練習をしよう」
「形がはっきりしてきたら色々動かしてみてね」
前回よりも輝きが増した部屋に、一つだけ違和感があった。チョウがいない。
「セドリック、チョウは?」
「さっき、アンブリッジに呼ばれたらしいんだ」
「アンブリッジに?」
「最近、色々な生徒がアンブリッジの部屋に呼ばれてるらしい。きっと、この会合の事を嗅ぎつけようと…」
「大変だ!!」
勢いよくドアが開き、そこから転がり込んできたのはロンだった。ロンはマクゴナガル先生に呼ばれていたので、少し遅れて来る予定だったのだ。
荒い呼吸を一生懸命落ちつかせようと胸を叩いている。真っ青になったその表情からは、「大変だ」と言う言葉が私達に危機が訪れている事がはっきりとわかった。
「ア、 アンブリッジが…アンブリッジが!」
「ロン、落ちついて、何?」
「アンブリッジがマルフォイ達を引き連れてこっちに向かってきてる!」
「なんだって!?」
「DAの事がばれたんだ!そう言いながらこっちへ、来てる!」
「みんな、逃げろ!」
ハリーがそう叫ぶと、身動き一つしなかった生徒が一斉にドアへと向かって走った。
「みんな、一斉に寮へ戻っちゃ駄目!どこか、バラバラに!」
「コウキも、はやく!」
みんなが廊下から見えなくなった後、私とハリーが必要の部屋から出た。誰とも鉢合わせしないようにしなければ。…しかし、もう手遅れなのはわかっていた。何者かが、こちらへ走ってくる気配を感じた。
「とにかく、校長室へ…!」
「わかった」
きっとアンブリッジであろう気配とは反対方向へ、出来るだけ足音を殺して走った。しかし、その角を曲がった時だった。
「うわあ!」
「っ!」
「足すくいの呪いだ、ポッター!ダンブルドア!」
「マルフォイ…!」
「先生!こっちです、二人捕まえました!」
「まあ、お手柄よマルフォイ、スリザリン寮に50点。あなたたちは私と一緒に校長室へ来るのよ」
「っ…」
がっつりと腕を掴まれ、半ば引き摺られるかのように私達は校長室へと向かった。部屋にいたのは、アルバスにマクゴナガル先生、ファッジ、キングズリーと知らない魔法省の役人…そして記録係なのか、羊皮紙と羽根ペンを持ったパーシーだった。
「さて。どうしてここへ連れてこられたか…わかっているだろうな?」
ファッジがいやらしくハリーと私を見て言った。少し口を開けたハリーはそのまま黙り、しかしすぐに「いいえ」と応えた。アルバスを盗み見すると、一瞬、それでよいという目配せをした。次々とファッジはハリーに問い掛けをしたが、それに対してハリーは全て否定を守った。
「いいでしょう、そこまで言うのなら彼女を連れてきましょう」
「彼女とは?」
「先ほどの通報者です」
「そうだな、そうしてくれ。その方が、話がはやいだろう。なあ、ダンブルドア?」
ファッジがそう言い、アンブリッジが校長室へ戻ってくるのはそう遅くはなかった。アンブリッジに手を引かれてやってきたのはチョウだった。
「…チョウ」
「彼女が全て話してくれましたわ。ねえ、そうでしょう?」
「…」
チョウはどんどん瞳に涙を浮かべ、次第にそれを零し始めた。しかし、彼女は一切口を開かなかった。その様子からもわかる。これはチョウの本心では無かったのだと。
「いいでしょう、いいでしょう。しかし、彼女が私に話してくれた事はしっかりと残っています。ホッグス・ヘッドでの会合も、学校での会合の意味も!先程『必要の部屋』で見つけたこの名簿があります」
「ほう…それでは、万事休すじゃな」
「…先生!」
名簿を受け取り、少し目を通した後、アルバスはそう言って微笑んだ。
「よく見るがよい。ポッター軍団ではない、ダンブルドア軍団じゃ。もちろん、そこにいるダンブルドアではない」
「し、しかし…あなたが?あなたが組織を…」
「そのとおりじゃ」
「だめです!先生!」
部屋の中が騒然となった時、ハリーがそう叫んだが、それをキングズリーとマクゴナガル先生が視線で警告した。私達はすぐにアルバスが何をしようとしているかを悟ったが、そうさせていいものか迷った。
「しかし、わしは逮捕されるつもりはない」
「何を!ドーリッシュ、シャックボルト、逃がすな!」
二人が目にも止まらぬ速さで真っ直ぐに杖を伸ばしたが、私とアルバスの速さには劣った。しかし一瞬、本当に一瞬であったが、私は魔法を唱える事を阻止されてしまった。
「やめるのじゃ、コウキ」
そう聞こえた時には部屋一面に埃が舞い、校長室はぐちゃぐちゃになっていた。ハリーとチョウはマクゴナガル先生に匿われ、私はアルバスに抱きしめられていた。
「大丈夫かね?」
「はい…」
「気の毒じゃが、怪しまれぬようキングズリーにも呪いをかけざるを得なかった。さて、わしはもう行かねばならん」
「アルバス…」
「大丈夫じゃ。わしの事は心配するでない。コウキ、後は頼んでいいかの?」
コクリと頷くと、アルバスはハリーの下へ行き、熱心に閉心術を学ぶように言った。ハリーとアルバスが目を合わせたのは、これが2回目だ。フォークスが舞い、アルバスと共にその場から消えた。
私の手中に残ったのは、1枚のフォークスの羽根だった。
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