過去と未来

「閉心術?」
「ダンブルドアが必要だと考えている」
「なるほど。ヴォルデモートがハリーの心に入り込まないようにって事」

ホグワーツに戻り、ハリーはすぐにセブルスに呼び出された。しかし、いくらセブルスが優秀な閉心術士でも、ハリーと1対1でうまく出来るのだろうか?…出来ない気しかしないのだが。

「それで?」
「ん?」
「何故貴様がここにいる?」
「私も閉心術を取得しようと思います」

ハリーとセブルスのワンツーマンに不安があったのも勿論だが、ここは私も便乗させて頂こう。セブルスに物凄く嫌そうな顔されたのは言うまでもないが。

「いくぞ」

セブルスがレジリメンスを唱えた瞬間、記憶の断片が飛び出してきた。少しずつ、遡って―――

「おい」
「え、はい」
「我輩はお前の思い出の映写機ではないのだが?抵抗する意志を見せないのなら二度とやらないぞ」
「す、すいません真面目にやります」
「…レジリメンス!」

無理矢理心を覗かれる感覚から、先程と同じように記憶が通り過ぎる。心の扉を閉じるイメージを膨らませると、記憶の断片が段々少なくなっていった。

「…やはり必要は無かったようだな」
「ううーん、こんなものか」
「さっさと帰れ」
「…もう一回だけやってもらえない?」
「何故だ」
「こう…パッとできるように!」

セブルスは不満げな表情を見せたが、もう一度杖を持ち呪文を唱えた。心を開かれる前に扉を開けないイメージですぐに閉心しようとしたが、一瞬。

もう見る事の無いだろう風景が現れ、思わずそのまま黙り込んでしまった。通いなれた道、雑踏の中を制服に身を包み、歩く。あの頃はただひたすらに、生意気に「生きている意味」を探していた気がする。

激しいクラクション、目が眩むほどのヘッドライトが私を照らす。鈍い音と共に、私は地面へと倒れ込み空を仰ぐ。目が覚めた場所はホグワーツの敷地、芝生の上。そこで、私はアルバス・ダンブルドアに拾われた。

場面は変わり、暗く狭い空間が映し出された。孤児院で暮らす二人。私にリドルを託し、命を奪われたあの人と、子供とは思えない力で私に呪いを掛けるリドル。

更に場面が飛ぶ。初めてヴォルデモートと対峙する私。あの時は見えなかったが、ヴォルデモートを止めようと、あの人が悲しそうな顔で懇願している。やめて、と声にならない声を上げ、倒れ込む私に涙を流している。

ああ、あの人は、いつでも私を見守ってくれていたのか。そして、ヴォルデモートはそれに気付けないでいる。すぐ傍に、彼女がいるのに。

「コウキ!」
「っは、はぁっ…は…」
「確りしろ」
「ごめん…」

何も知らない私が求めていた"生きている意味"は、今ここで見つかったと思う。想像していたよりも、ずっと重くて足が止まってしまいそうだが、一人じゃないという事が背中を押す。必要とされる幸せはここにきて沢山貰ったのだ。だから、みんなに恩返しをしなくては。

「予想外の展開だけど…これが、ヴォルデモートが私に執着する理由だよ」
「…まさか、」
「大切なもの程、近くにあって、気付けないのかもしれないね」

セブルスは黙り込み、何か思案している。
ヴォルデモートにその様な相手がいたとは知らなかったのだろう。私達は血の繋がりは無いが、魂という確固たるものを継承している。勿論、相反する道ではあるが、ヴォルデモートが私達の魂を求めない理由が無い。その中でも彼女は大切な人なのだ。亡くしても尚、執着する気持ちは私も、セブルスも、わかってしまう。

「セブルス、私は」
「お前は目の前に大切なものがある。それを蔑ろにしてまで他人を救いたいとでも?」
「蔑ろには…」
「後悔してからでは遅い」
「そうだね…でも、使命とかそんなんじゃなくても、きっと私は同じ事をしていると思う」

談話室に戻ると3人が暖炉の前で宿題をやっていた。私も席に着き、一緒になって宿題をやり始めたが、暫くしてハリーが宿題を中断し立ち上がった。その顔色は芳しくない…先程のセブルスによる閉心術の訓練がよくなかったのだろう。

「僕、もう寝るよ」
「ええ、おやすみ」

ハリーが自室へと戻って数分、嫌な予感が脳裏を通り抜けた。同時に腹部の傷が疼き、無心の私に喜びの感情が駆け抜けた。

「私、ちょっとハリーの様子を見てくる」
「どうしかした?」
「閉心術の後だし…嫌な予感がしたの」
「僕も行くよ」

ひんやりとした男子寮へと続く階段が妙にぬるい空気を含んでいる気がした。ヴォルデモートの行動は世界へと影響を及ぼすのだ。

「―――!!」
「…この声は…ハリー?」

男子寮のハリー達の部屋、そこから気が狂ったかのような笑い声が響いている。その声はハリーのものだ。

「っ…ハリー!」
「ハリー!ハリー!」

扉のすぐ傍、真っ暗な部屋の床の上で倒れ込み、狂った笑い声をあげている。身体を揺すり、叩き、飛んでいる意識を戻そうと躍起になる。

「っはあ…はあ…」
「ハリー…どうかしたの?」
「僕…僕が?なに…わからない…」
「大丈夫よ、落ちついて」
「…奴が、狂った程に喜んでいるんだ」
「ヴォルデモートが?じゃあ…今のはヴォルデモートの感情がハリーに流れ込んでいたのね」
「何か、奴の望んでいる事が叶ったんだ…」
「…とりあえず、休んだ方がいい」

次の日、ハリーの異変を解決する出来事が起きた。
日刊予言者新聞に恐ろしい記事が載っていたのだ

「…10人…だって?」

アズカバンに収容されていた10人のデスイーターが脱獄したというのだ。
そこにはシリウスの親戚であるベラトリックス・レストレンジの名前も載っている。ネビルの両親に磔の呪文をかけ廃人にした女だ。少し離れた席でネビルが真っ青な顔をして座っていた。

「ちょっと、これ見て!」
「なに?…ブラックを旗頭に集結…なんですって!?」
「これ、シリウスの無実を取り消すって事…!?」

今までにアズカバンを脱獄できたものはいない。シリウスがそれを可能にしたのは「無実」だったからだ。
2年前、ピーターを魔法省に突き付け、シリウスの無実は証明されたというのに、アルバスの味方をする者は全て消し去るつもりか?

「脱獄を可能に出来るのはシリウスだけ、ね…だからって、あんな断崖絶壁、ディメンターの巣窟にシリウスが入っていける訳ないのに!」
「こんな状況になってもまだ魔法省は奴の存在を否定するのか?」
「もちろんでしょう。どれだけ受けとめたくない現実なのよ…」
「私はともかく、まだ学生のハリー達ですら受けとめているのに、ね」

職員席では殆どの先生が深刻な表情で話をしている。アンブリッジだけ、落ちつきなく食事をとっていた。

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