血の知らせ

暗い廊下。

ずるずる、
這い擦る音。

見付けた。
会いたかった、

「約束、守れなかったね」

ずるずる、
ずるずる、

「ごめんね」

ねえ、せめて同じ所に行けたらと、
思っているんだよ―――

「 」



床を這う大蛇。
その存在に気付いたウィーズリーおじさんが立ちあがり、杖を手に取った。

駄目、

言葉を発する前に、大蛇は私の身体を突き抜け、おじさんに食いついた。

「――――――!」

身体中が熱に侵され、零れ落ちる程の汗が身体を湿らせていた。ここは、ベッドの上。ホグワーツの、グリフィンドール寮の…

「…おじさん」

ぐっすり眠るハーマイオニーを横目で見て、起こさないよう談話室へ、そして男子寮へ走った。扉を開くと、上半身を起こしているハリーとその横でハリーを覗き込むロンがいた。

「ハリー…ハリー!」
「コウキ、僕、見たんだ、違う、僕が!」
「わかってる。アルバスは?」
「今ネビルが先生を呼びに行ったよ、一体どうしたんだい、二人して…」
「ロン、落ちついて聞いて」
「先生、こっちです!」

ネビルの声の後、階段を駆け上がる音と共に、マクゴナガル先生が入ってきた。事の深刻さを悟ったのか、私達を連れすぐに校長室へと向かった。

「ウィーズリー、あなたも。それで…どうしたんです?」
「眠っていて、だけど、現実の事です。ウィーズリーおじさんが眠っているところに僕がいて、それで巨大な蛇に襲われて…」
「私も、おじさんが大蛇に襲われる夢を見ました。勿論、単なる夢ではなく」
「こうしている間にも、おじさんが!信じてください!」
「わかってます、二人の事は信じていますよ」

校長室の扉を開くとそこにはアルバスがいた。その姿を見て私は緊張が解け、ふらりと目眩を覚える。

あの巨大な蛇はヴォルデモート、そしておじさん共々貫かれたのは私では無く先代だ。ハリーも同じく、ヴォルデモートの意志に入り込んだのだろう。色濃く繋がるその血で。

「座りなさい」

ハリーの口から状況を聞いたアルバスが、歴代校長の肖像画に指示を出し私達を椅子に座らせた。

「ダンブルドア、みんながその男を聖マンゴに運び込みました…血だらけで、酷い状態です…」

そう言ったのは、先程この部屋の肖像画から姿を消していた歴代の校長だった。ズキズキとあの傷が疼く。
ウィーズリー家の兄弟とマクゴナガル先生が揃ったところで、アルバスは移動キーを出した。
皆で移動キーとなったヤカンに触れた瞬間、言い知れない恐怖が背中を走る。驚きハリーを見ると、アルバスを見つめる目には狂気が宿っていた。ああ、アルバスがハリーと目を合わさなかった理由は、これだったのか。

「それで、どうしたんだ?」

ぐい、と引っ張られた後、シリウスの声が聞こえた。移動した場所は騎士団本部の厨房だったようだ。

「俺たちが聞きたい、なんだっていうんだ?」
「ハリー、コウキ、どういうこと?」
「特別な力を持った人が、私の意識だけをその場に引っ張り出して…おじさんが襲われる瞬間を、見たの」
「蛇が、大蛇がおじさんに噛み付いたんだ、僕は、夢の中…いや、その幻を見たんだ」

双子とジニーは黙ったまま、その目はどこか私達を非難しているように見えた。ハリーが自分が襲ったと言わなかったのは、その目を恐れていたからであろう。

「聖マンゴに行かなくちゃ…」
「まだ駄目だ。モリーに知らせが行って、モリーの報告を受けてからだ」
「どうして!俺たちの親父だぞ!今すぐ行って何が悪いんだ!」
「アーサーが襲われた事をモリーも知らないのに、どうして君達が知っているというんだ?その説明が出来ないうちは、動く事は出来ない」
「そんな事はどうだっていいだろ?」
「何百キロも離れた場所の出来事を二人が見ていた事をどう説明する?その事が魔法省に知れたら、二人がどういう扱いを受けるか、わかるだろう」

ずきずきと頭が痛む。あの時、彼女はリドルを呼んでいた。なのにリドル、いやヴォルデモートは…彼にはもう彼女の声は届かないのだろうか。

「シリウス、おじさんは騎士団の任務中だったんでしょう?」
「ああそうだ。いいか、君達のお父さんは秘密組織の任務中に負傷したんだ、これ以上怪しまれるような事があっちゃいけない」
「騎士団なんかクソくらえ!俺たちの親父が死にかけているんだ!」
「アーサーは、騎士団は危険を承知で任務を行っているんだ!それを君達が台無しにするつもりか?君達はわかっていない―――世の中には死んでもやらなければならない事があるんだ!」

シリウスのその言葉を最後に、私は前触れも無く意識を手放した。



―――



「無事、ですか?」
「はい、大丈夫です」

目の前に広がる真っ白な世界。先程まで薄暗い場所にいた私には眩しく目が眩む。

「ありがとうございます。教えてくれたんですよね」
「何も力になれず、申し訳ありません」

彼女は傷を負っただろう。貫かれたのは身体ではなく、心だ。―――リドル。そう呼んだ彼女の声は、とても悲しそうだった。

「わかっていた事ですが、私の声はもう届かない」
「…そんな事、無いと思います」

彼女は悲しげな顔を少し歪ませ、笑った。まだ幼き頃、孤独を共にしたリドルを想っているのだ。

「死んでもやらなくちゃいけない事、か」
「私達は、その身が滅んでも使命が残る。それは時に苦痛をもたらし、死して尚、己の魂を呪いたくなる事でしょう」
「私、」
「…ですが、貴女は私達にそのような苦しみを与えた事はありません。知り得なかった心の暖かさ、情熱。それを教えてくれる」



―――



「コウキ、わかるか?」
「…ごめんシリウス。どれくらい経った?」
「少しだ。モリーから手紙が届いた」

意識を飛ばしていたのは数秒だったのだろう。崩れた姿勢を正し、シリウスに寄り掛かっていた身体を立たせた。

おばさんから届いた手紙は、命に別状は無いとは言いきれない内容だった。しかし動く事の出来ない私達はここに留まり、ただひたすら時間をやり過ごすしかないのだ。

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