冬の一戦

「ハリー、ハリー!ジョージ!やめて!!」

遠くに見えるハリーとジョージが、マルフォイ目掛けて走っていく。ハリーはスニッチを握ったまま、その拳をマルフォイの腹部に埋めた。

「インペディメンタ!」



―――…



「ウィーズリーこそ我が王者」

スリザリンから響く大合唱の中行われたクィディッチは、酷くグリフィンドールを苛立たせ、ロンを焦らせた。

ゴールを上手く守れないロンだったが、何とかハリーがスニッチを握った事で、グリフィンドールが勝利を掴んだ。試合が終わり皆が握手を交わす中、ハリーに近付く緑色のユニフォームを纏った人物。

「ねえ、あれ、ちょっとまずいんじゃない?」
「負け犬の遠吠えはいつもの事だけど…何か様子がおかしいわね」
「ここからじゃ聞こえないけど―――」
「ハリー!ジョージ!」

二人が一斉にマルフォイに飛びかかった。何があったとしても、ここはクィディッチの神聖な闘技場だ。先生が収拾をつけた所で、二人はフーチ先生に城へと連れて行かれた。

「ハーマイオニー、先に談話室へ戻っていてくる?」
「ええ…どうかしたの?」
「ちょっとね」

騒然とする中、私はこっそりと抜けだし小鳥になってハリーを追いかけた。

「ハリー」
「…コウキ?」

城の入り口辺りにいたハリーの肩に乗り、そっと囁くと、今だ興奮を抑え切れていない様子で返事をくれた。ハリーの表情は重い。これから下される処罰を考えているのだろう。

「人前であんな恥曝しな行為は、見たことがありません!」
「マルフォイが挑発してきたんです!」
「あの子は負けたばかりだったでしょう。自分達のやったことの意味がわかって―――?」
「ェヘン、ェヘン」

は、と振り向くと、扉のすぐ傍にアンブリッジが立っていた。その表情は相変わらず吐き気を催す、嫌らしい笑みを浮かべている。

「実は、ミネルバ。先程コーネリウスが送ってきた…ああ、これ、これ」
「大臣が?」
「ェヘン、ェヘン…『教育令第二十五号』」
「まさか、またですか!」
「ええ、そうよ」

マクゴナガル先生の表情が酷く窶れたものになった。それもそうだ、この後発表される内容が私達にとって為になる物でも何でも無いのだから。

「高等尋問官は、ここに、ホグワーツの生徒に関するすべての所罰、制裁、特権の剥奪に最高の権限を持ち、他の教職員が命じた処罰、制裁、特権の剥奪を変更する権限を持つものとする。署名、コーネリウス・ファッジ、魔法大臣、マーリン勲章勲一等、以下省略」

読み終えた時、その場に居た全員が呆然とする中、マクゴナガル先生がハリーを厳しい目付きで見た。
いや、正確にはハリーの肩にこっそり乗っていた私を、だ。

動くな、何もするな。
そう言ったのだろう。

「さて…わたくしの考えでは、この二人が以後二度とクィディッチをしないよう禁止しなければなりませんわ」
「禁止?クィディッチを…以後二度と?」
「そうよ、ミスター・ポッター」

私達を嘲笑うかのような表情を残し、アンブリッジは部屋から出て行った。

「禁止…シーカーもビーターもいない…いったいどうしろって?」

アンジェリーナがそう呟いたが、誰も何も言えずにただ落胆するばかりだった。
あの時、フレッドは手を出さなかったものの、抑えつけられていなければジョージと同様に殴りかかっていただろう。その理由から、ジョージだけでなくフレッドまでも終身禁止を言い渡されたのだ。

談話室に戻り、暖炉の前で一旦腰を落ち着けた。暫く沈黙していたアンジェリーナが口を開いた。

「…コウキ、あなた箒は?」
「え、無理だよ、高所恐怖症だから」
「高所恐怖症だって?君乗れるじゃないか」
「乗れるだけであって、クィディッチ選手にはなれっこないよ…」

溜め息を残しアンジェリーナが自室へと戻り、皆それに続いて暖炉の前から退場していった。

「ロンは?」
「試合が終わってから姿が見えないの…どこに居ると思う?」
「こんな寒い中…」

その時、太った婦人が開く音がして、真っ青な顔のロンが入ってきた。その頭には雪が積もっている。

「どこにいたの?」
「歩いてた」
「凍えてるじゃない!」

ロンはハリーから一番遠い場所に座り込んだ。

「ごめん」
「何が?」
「僕はクィディッチなんかやるべきじゃなかったんだ…もう、辞めるよ」
「君が辞めたら、選手は3人しかいなくなる」
「え?」
「僕と、ジョージとフレッドは終身クィディッチ禁止になった」

ロンが帰って来るまでの間に、何があったのかをハーマイオニーが話した。もう、ハリーには思い出したくない現実だった。

「みんな僕の所為だ…」
「僕がマルフォイを打ちのめしたのは、君の所為じゃない」
「僕があんなに試合を酷くしなければ…」
「そんなの関係無いわよ」
「僕がもっとしっかりしていれば…」
「いい加減にやめてくれ!」

ハーマイオニーが窓際へ移動したので、私もそれに続いた。ハリーはソファにどっと寝転がり、ロンはしょんぼりと下を向いた。

「…あれ」
「うん?」
「ねえ、二人を元気付けられる事が一つだけあるかもしれないわ」
「へえ?どんな事?」
「ハグリッドが、帰ってきたわ」

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