希望の一滴

「コウキ!」
「わあ!」
「もう!はやく起きないと遅れちゃうわ!」
「あ、ご、ごめん!」

急いで支度を済ませ談話室へ下りると、ハーマイオニー同様、急かすロンがいた。いよいよ今日を迎えた。ハリーの言葉を借りるならば、私達が教鞭を取る事をどれだけの人が望むだろう?

「それで、今日はどこで集まるの?」
「ホッグズ・ヘッドよ。あそこは少し…胡散臭いじゃない?だから、盗み聞きされることもないと思うの」
「へえ」

朝食を済ませ、ホグズミード行きの生徒を確認するフィルチの前を通った時、フィルチがハリーに向けて鼻をフンフンと鳴らした。シリウスに手紙を出したあの日、誰かがフィルチに「ハリーが糞爆弾を注文した」と嘘の告げ口をしたらしい。

「一体誰がそんな事?」
「さあ、マルフォイじゃない?」
「マルフォイ…そうかもね…」
「どうかしたの?ハーマイオニー、何か気になった?」
「ううん、何でもないわ」

ハリーが手紙を持っていったのは朝早い時間だった。そんな時間からマルフォイが徘徊し、直接ハリーに手を下す事などあっただろうか。アンブリッジが監視しているのは私だけでは無い―――。

「さあ、行きましょうか」

店内に入る事を躊躇わせるような入り口だったが、中も相当胡散臭いものだった。まるでノクターン横丁の一角のようだ。

「ん?」
「コウキ?どうしたの?」
「いや―――」

カウンターで店主が出てくるのを待っている時に目に入った店の一角、全身を分厚く黒いベールに身を包んでいる魔女…に私は既視感を覚えた。多分、マンダンガスだ。

「あの魔女がどうかしたのか?」
「もしかしたらあのベールの下はアンブリッジじゃないかって?」
「ま、そんなところ」
「アンブリッジはもっと背が低いから大丈夫よ」

まだハリーの監視が付いていたのか。きっと私達の話を盗み聞きし、騎士団に報告するつもりだろう。この話を聞いたシリウスはきっと喜ぶ。

「それで、どれくらい集まる予定なの?」
「ほんの数人。でも、きっとやれるわ」

扉の開く音と店内に挿した光で、誰かが入ってきた事がわかった。ぞろぞろと中に入ってくる行列はもちろんホグワーツ生。
ネビル、ディーン、ラベンダー、パーバティ、パドマ、パチル、チョウ―――セドリック。

合わせて26人だ。
私は、この場にセドリックがいる事が何よりも嬉しかった。スリザリン以外の全寮生が混ざっている。これは…驚きだ。

「こんなに…いやはや、ハーマイオニーはみんなに何て言ったの?」
「まあまあ、それじゃあ…えー、こんにちは」

皆、私達を交互に見る。ハーマイオニーが演説のような説明を始めると、やはり途中で意見を挟む生徒がいた。しかし、ハーマイオニーの言葉で皆は凍り付く。

「私達は―――私は、きちんと身を護る訓練がしたいの。なぜなら…なぜなら、ヴォルデモート卿が戻ってきたからです」
「例のあの人が戻ってきたっていう証拠がどこにあるんだ?」
「まず、ダンブルドアがそう信じてますし―――」
「ダンブルドアがその人達を信じているって意味だろ―――それに君はダンブルドアだ」
「君、一体誰?」
「ザカリアス・スミス」

ハッフルパフの生徒だ。
早速ロンと睨み合っている。

「それに、僕達はどうしてその人達がそんな事を言うのか知る権利があると思う」
「ちょっと待って、その話をする為の会合ではないわ」
「構わないよ、ハーマイオニー」

真面目に防衛術を学ぼうと思いここに集まった気持ちもあるだろうが、それよりもだ。私達の口から、私とハリーの騒動の発端を聞くために集まったメンバーも少なくは無いだろう。

「僕らはあいつが戻ってくるのを見た」
「それだけじゃ、証拠にならないだろ」
「証拠ねえ…あるよ」

そこで顔を合わせたのは集まった生徒だけではなかった。ハリー、ハーマイオニー、ロンも驚いて私を見る。

「みんなは、ハリーの額の傷がヴォルデモートによって付けられたものだと、実際にその場にはいなくても信じてるよね?」
「あ、ああ…」
「それと同じ事」
「どういう意味?」
「刺された傷が、治らない」

傷口なんて、いくらでも消せる。だが、これだけは治らなかった。体を変えても必ず残るそれ。きっとハリーが私と同じ能力を持っていたら、額の傷は同じく姿を変えてもそこにあるのだろう。

制服を捲り横腹を曝す。そこには刃物を突き刺した傷がある。

「っ…」
「強い憎悪―――私達がヴォルデモートと対峙した時、その場には操られたデスイーターが居た。そいつの恐怖が、あいつの魔力が、この傷を癒さない」

その傷口は古傷になる事を知らない。今にも血が溢れそうなそこから、黒い蛇が這うような痣が伸びる。闇の印のようで、不快だ。

「コウキ、」
「あ、ごめん。気持ち悪いよね」
「そうじゃないよ―――とにかく、僕らを信じる気が無いなら、ここから出て行けばいい」

ハリーがそう強く言ったが、席を立つ者は誰もいなかった。

「それじゃ…本当に防衛術を習いたい人だけなら、これからどうするかを決めるわ」
「あの、本当なの?守護霊を創り出せるって…」

ハッフルパフの女の子が口を挟んだ。
その事実を知らない生徒がざわめく。

「うん」
「有体の守護霊を?」
「あ―――もしかして君、マダム・ボーンズを知っている?」
「私の叔母さんなの、それであなたの尋問の事を話してくれて…牡鹿の守護霊を創るって、本当に本当?」
「ああ。僕だけじゃない、コウキも創れる」
「本当かよ!すごいなハリー、コウキ!」

リーが手を叩いてそう言うのに合わせ、皆の目も尊敬の輝きを放ち始める。テリーも少し腰を持ち上げて言った。

「ダンブルドアの部屋にある剣で、バジリスクを殺したっていうのも?」
「本当よ。それにあの剣はゴドリック・グリフィンドールのものだし」
「うわあ…本当に!?すごいや、」
「それに1年生の時に賢者の石を守ったのもハリーだ」
「他にも―――」

皆が噂として知っている話を口に出し、それはもう大騒ぎになった。ハリーも少し顔を赤らめて嬉しそうにしている。

「なあ、君凄く強いって聞いたんだけど、本当?」
「あなたの言う強さっていうのが何を示しているのかわからないけれど」
「決闘クラブは負け無し、課題も常に完璧って聞いた」
「まあ、うん。でも偶然もあるよ」
「スネイプ先生に楯突いたって本当?怖くないの?」
「怖くは無いよ。生まれた時からずっと私の先生だし」

彼等の中で本当に怖い存在は、ヴォルデモートでは無くセブルスの様で思わず笑いを漏らす。この場はハーマイオニーの指揮で何とか収まった。参加者リストを作り、集会の日時は後日連絡。ばらばらと帰路に着く皆の顔は、何処と無く光を取り戻したように見えた。

ハーマイオニーの提案は、きっと私達の未来を作っていく事になるだろう。

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