羽根の向かう先

ハーマイオニーが防衛術の授業の話をしてから2週間たった。

その間、一切その事には口を出さなかったハーマイオニーが、図書館で見計らったように切り出した。

「あの事、考えてくれた?」
「防衛術の授業の事?」
「ええ」

ハーマイオニーがそう言った時、ハリーは本に熱中しているフリをしていた。まだ少し迷いがあるのだろう。

「そうだね。考えたよ」
「よかった、それで…?」
「私は、私で良ければ受けるよ。皆の力になりたいし」
「本当!?」

私の手を両手で包んで喜んでくれた。ハリーはそこでやっと顔を上げ、言葉をもごもごと発した。

「…僕から学びたいと思うやつなんていないと思うよ」
「そんな事ないわ。あなた、きっと驚くわよ」
「アンブリッジと私達を天秤にかけて、どっちに傾く方が多いと思う?」
「それは…」
「じゃあ、10月最初の週末のホグズミードで、関心のある人を集めて検討しましょ」

その日の夜は、満月の前日だった。皆が自室に戻り、談話室には私とハーマイオニーの二人になった。

「本当に行くの?危ないわ」
「夜ならアンブリッジの監視も薄いだろうし、すぐ帰ってくるから」
「まあ、この事に関しては、私の言葉には聞く耳持たずでしょうね」
「ふふ、ごめんね」

女子寮の窓から外を見渡し、人の気配がない事を確認してから飛び出した。梟の姿で向かう先はホグズミード。そこから、姿現わしをしてロンドン、グリモールド・プレイス12番地へ。

「よっ」
「…!?」
「なにその阿呆面」
「んだと!…じゃなくて、何でここにいるんだ!」
「リーマスに会う為に決まってるじゃない」
「そんな事を聞いているんじゃない!」
「私が急に現れたからってそう不思議な話じゃないでしょう」
「…そりゃそうだな」

そこで納得してしまうシリウスが阿呆なのか、納得させてしまう存在の私が奇特なのか。

「それにしても、どうしてリーマスがここだとわかったんだ?」
「セブルスが脱狼薬を届けるなら、ここかなって」
「たまげた洞察力だ」

リーマスは二階にいる、と伝えてシリウスは奥の部屋へと消えた。扉を開けると中は暗く、部屋の隅に見えるベッドが、丁度良い大きさに膨らんでいた。

「…リーマス?」

返事は無い。寝ているのだろう。ベッドサイドに立ち、少し汗ばんだ額を撫でると、何かが胸の奥から込み上げてきた。

久し振りに会ったからなのか、その唇を割って私の名前を呼んで欲しいと…心の底から願ってしまう。

「コウキ…」
「っ!」
「―――」

そっと顔を覗くとその瞳は閉じたまま。あまりのタイミングの良さに、思わず赤面してしまった。そんな私に対しリーマスはこの暗い中でも解る程、顔色が良くない。ゆっくりと体を折り、その唇に静かに触れた。

「っ―――」

息を吹き込むように、私の力を流し込む。どんな悪夢に魘されていても、必ず私が手を差し伸べられるように。

「ん―――」
「リーマス?」
「う…」

うっすらと目を開けるが、寝起きでこの状況を把握するのは難しいだろう。何度か瞬きをして、飛び起きた。

「っ?コウキ!?」
「他に夜這いするような女がいるの?」
「よばっ…」
「よかった。元気だね」
「え…あ、本当だ…すまない…じゃなくて!また、無茶をして」
「リーマスに会わない方が無茶だもの」

引き寄せられ、リーマスの首に手を回しもう一度口付けた。一瞬、脳裏に先代の彼女が浮かぶ。幸せそうに微笑んでいるように思えて、私はリーマスの背中に回していた手の力を強めた。

「来たばかりだけど、そろそろ帰らなきゃ」
「ホグズミードまで送ってあげたいところだけれど…」
「大丈夫だよ。もうすぐ満月になるんだから、ちゃんと休んで」
「ああ、すまない」

名残惜しいが、深夜とはいえ長時間不在にする訳にもいかない。少し黙った後、笑顔でホグズミードまで戻った。

「わ、と…」

妙に足場の悪いところに現れてしまい、ふらついた背中にゾク、と冷気を感じた。杖を握り振り返ったが、何もいない。これは忠告だろうか。

物陰に隠れ、私はホグワーツへと飛び立った。

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