私達の一歩

「ポッター!あんた、またやったんだってね!」
「ア、アンジェリーナ…」

ハリーが罰則を受けたという噂を聞きつけたアンジェリーナが、大広間で朝食を取りに来たハリーに襲いかかった。前回よりも酷い怒りようだ。

「あんた、自分がシーカーだっていう自覚はあるの!?2度も罰則を受けるなんて!」
「ミス・ジョンソン、こんな大騒ぎを…いったい何事です!グリフィンドールから5点減点!」
「でも先生!ポッターはまた罰則を食らったんです!」
「どういうことです?」

アンジェリーナだけでは無く、マクゴナガル先生までが酷い形相でハリーを見た。これはもう、助かりようが無い。

「罰則?どの先生ですか?」
「アンブリッジ先生です」
「先週の月曜日に私が警告したにも関わらず、また癇癪を起こしたと?」
「はい」

ハリーは下を向きながら返事をした。ハリーを一睨みした後、マクゴナガル先生は私を見た。冷や汗が背中を伝ったが、先生は溜息をついてもう一度グリフィンドールから5点減点した。

「ポッター、自分を抑えないといけません!」
「どうして先生まで減点を!」
「アンブリッジ先生の罰則が全く効いていないようだからです!」

そう言い放ち、先生は職員テーブルへ、アンジェリーナはふんと鼻を鳴らし大広間を出て行った。ハリーは理不尽だとぼやきながらロンの隣に腰を下ろした。

「僕が毎晩手を切られるから減点?」
「わかるぜ」
「気持ちはわかるよ。でも、アンブリッジの前で自分を抑えるのはハリーの課題だよ」
「そうね。あなたの事で減点したのは残念だわ」
「まあ、5点や10点くらい、すぐに取り戻せるからさ」
「コウキとハーマイオニーがね」

それからハリーは口を噤んでしまったが、変身術の時間になった頃には、朝の出来事など頭に無かったかの様に授業へ向かった。アンブリッジに対しマクゴナガル先生がどう対応するかが楽しみだったのだ。

「静かに。ミスター・フェネガン、宿題をみんなに返してください」

シェーマスがマクゴナガル先生から宿題を受け取った時、あの「ェヘン、ェヘン」というアンブリッジの咳払いが教室に響く。マクゴナガル先生はそれを無視し、授業の準備を始めた。

「わ、Oだ」
「出たよ、コウキの天才振りが」
「まあ2回目だし…なんだ、ロンだってAじゃない。よかったね!」
「さて、それでは、よく聞いてください。今日の授業では―――」
「ェヘン、ェヘン」
「何か?」

再びアンブリッジの咳払いが教室に響き、そこでやっと眉間に皺を寄せたマクゴナガル先生が答えた。

「わたくしのメモが届いているかどうかと思いまして。先生の査察の日程を―――」
「当然受け取っております。さもなければ、私の授業で何の用があるのかとお尋ねしていたはずです」

そう言って、マクゴナガル先生はアンブリッジに背を向け、説明の続きを始めた。教室中で尊敬の念を込もる輝いた瞳が交差する中、私達もにっこりと頬を綻ばせながら黒板に向かった。

「さて、消失呪文は―――」
「ェヘン、ェヘン」
「いったいそのように中断ばかりなさって、私の通常の教授法がどんなものか、おわかりになるのですか?」

アンブリッジはハーマイオニーが前回の授業で教科書を暗記していたのを知った時のような顔をして、すぐにクリップボード上の羊皮紙に書き込み始めた。一方のマクゴナガル先生は、そんな様子を気にも留めず、再び授業の説明を開始した。

「僕に癇癪を起こすな、なんてよく説教できるな!」
「いやーマクゴナガル先生は素晴らしい人だ」
「アンブリッジにあんな態度とれる先生なんて、他にいないよな」

声を潜めて話す私達の顔は緩みっぱなしだった。益々マクゴナガル先生を尊敬したのは言うまでも無い。それからは、誰もアンブリッジの存在を気にする事無く授業を受けた。

「ホグワーツで教えて何年になりますか?」
「この12月で39年です」

授業が終わり、皆が教室から出て行く時、アンブリッジが教壇の方へ向かったのを見て私たちは歩みを遅める。目的は勿論盗み聞きだ。

「結構です。査察の結果は10日後に受け取る事になります」
「待ちきれませんわ。―――そこの4人、はやく出なさい」

のろのろと教室から出て行く私達を追い越し、先生は少し私達と向き合った時、微かに微笑んでいたように見えた。

次の魔法生物飼育学の授業にもアンブリッジはいた。その存在を見るだけでも苛々するのに、こう1日の中に何度も視界に入ると、いい加減胃がきりきりしてくる。

「それじゃ、始めようかね?」
「どうぞ、そうしてください」

プランクリー先生も、大してアンブリッジを気にする事無く授業を進めた。この授業では、生徒に質問をする作戦のようで、今までの授業の話を歩き回って質問した。アンブリッジは長々と質問をした後、再びプランクリー先生のそばへ戻った。

「あなたはホグワーツをどう思いますか?学校の管理職からは十分な支援を得ていると思いますか?」
「ああ。ダンブルドアは素晴らしい!そうさね。ここのやり方には満足だ。本当に大満足だね」
「そうですか」
「…聞いた?」
「聞いた!」
「プランクリー先生って、良い人だね」
「ハグリッドの方がいい」
「そりゃそうだけど」

私達はプランクリー先生の言葉ににこにこしながら授業を受けたが、その後すぐにどん底へと落された。アンブリッジがゴイルに質問したのだ。

「このクラスで誰かが怪我をしたことがあったと聞きましたが?」
「それは僕です。ヒッポグリフに切り裂かれました」
「ヒッポグリフ?」

ゴイルの後ろからひょいとマルフォイが顔を出し、嬉しそうにアンブリッジの質問に答えた。

「それはそいつが―――」
「マルフォイがきちんとした説明を受けたにも関わらず、その通りにしなかったからです。もう私達は、それくらいの判断が出来る歳ですから!」

ハリーが再び食って掛かろうとしたのを引っ張り、私がにっこりと笑顔で答えた。アンブリッジはじっと私を見つめ、そのまま何も言わずクリップボードに書き込みをした。

「ハリーのばか!」
「だって―――」
「だってじゃないの!今の確実に罰則モノだよ?間違った事を言う訳じゃないのだから、冷静に堂々とすればいいの」
「…ごめん」

この調子だと、マルフォイはアンブリッジを利用するだろうし、アンブリッジもマルフォイのような奴らを利用してくるだろう。

その晩、ハリーが罰則に向かっている間に傷に効く薬を作り、3人でハリーの帰りを待った。

「みんな…もう寝てるかと」
「手をこの中に浸すといいわ」
「傷、大丈夫?」
「ありがとう」

ぐったりとソファに座ったハリーの膝の上にクルックシャンクスが座り、ハリーに少し笑顔が戻った。

「あのね、私達いま話をしていたんだけど、あの先生からは防衛なんて何も学べやしないと思うの」
「だけど、僕達に何が出来るっていうんだ?」
「あのね、私、今日考えていたんだけど…」

ハーマイオニーが少しためらいがちにぼそぼそと言った。

「自分達でやるのよ」
「…防衛術を?」
「そう!」
「いい加減にしろよ、この上まだ勉強させるのか?僕もハリーも、まだ宿題が溜まってるんだ」
「でも、これは宿題よりずっと大切よ!」

ハーマイオニーの言葉に私達は目を丸くした。ハーマイオニーの口から宿題より大切なものが出てくるとは思っていない訳で、私も驚きの余りすぐに声が出なかった。そんな私達を気にせず、ハーマイオニーは少し声を低めて続けた。

「自分を鍛える事よ。私達、この1年間何も学ばなかったら…」
「僕達だけじゃ大した事はできないよ」
「私達に必要なのはちゃんとした先生よ。呪文の使い方を教えてくれて、間違ったら直してくれる先生」
「君がルーピン先生の事を言っているなら―――」
「ううん、違う。ルーピン先生は騎士団の事で忙しすぎるし、そう何度も会えないわ」
「じゃあ誰の事を言っているんだい?」
「わからないの?」

ハーマイオニーはそう言ってハリーとロンの顔を見た。二人は一瞬眉間に皺を寄せて考えたようだが、直に閃いた表情を見せる。それを見たハーマイオニーがにやりと笑い、私を見て目を輝かせた。

「ルーピン先生と同じだけの能力を持った人がこんなに近くにいるじゃない!」
「…私?」
「そうだ!」
「コウキが、闇の魔術に対する防衛術を教えるのよ!」
「ええ、私が!?」
「でも、コウキだけじゃない。ハリーもよ!」
「僕も!?」

そこで、ハーマイオニーに続きロンまで目を輝かせた。

「よく考えてみなさいよ。あなたと―――ヴォ、ヴォルデモートの間を交わしたのは何だった?」
「でも、全部運が良かっただけだ!」
「そうだ、君は運が良かった。だけど、それだけじゃないだろう?」
「そうだね。ハリーに防衛術の能力が無かったら、きっともうここにはいないよ」
「…いい?二人とも、考えておいてね?」
「わかった」

ハーマイオニーがヴォルデモートの名前を口にしたのは初めてだった。そこまで真剣に考えているのだ。私も、ハリーもその気持ちを無碍にする事は出来ないだろう。

「じゃあ、私は自室に行くわ。コウキは?」
「私はもうちょっといるよ」

ハーマイオニーとロンが自室へ戻り、談話室には私とハリーだけになった。

「コウキは、やるって言うよね?」
「そうだね。ハーマイオニーの言っている事は正しいと思う」
「そっか…」
「ハリーは?」
「僕は…」

ハリーは少し黙り、暖炉をじっと見つめた。この間シリウスが出てきた事を思い出し、シリウスに問い掛けているのだろうか。

「そうすぐに答えを出す必要は無いよ。私達から学ぼうなんて思う人、いないと思ってるんでしょう?」
「…うん。だって、僕らは―――僕は、癇癪を起こすイカれたやつだって思われてるんだ」
「否定派もいれば肯定派もいるよ。そろそろ、寝ようか」

ずっと暗い顔をしていたハリーの頭を撫で、私達は自室へと戻った。

―――私が初めてみんなに授業をするのは、防衛術以外だと思っていたけれど。楽しそうに防衛術の授業をするリーマスの顔を思い出し、私はベッドに潜った。

今のこの状況下で、私達から防衛術を学ぼうとしてくれる人が、どれだけいるだろうか。ハーマイオニーの言う通り、この1年間全てがあのアンブリッジの授業では、私達がヴォルデモートに対抗する事はほぼ100%無理だろう。
アルバスや、帽子が言ったように、仲間で輪を作り、対抗する力を身につけなければならないのだ。

…私の事を、信じてもらわなければ。

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