混乱が生む混沌

日曜日の朝から晩まで、ハリーとロンは談話室に篭りっぱなしだった。

「これで、宿題溜める事がどれ程大変な事かわかったでしょ?」
「ああ…」
「じゃ、もう反省したって事で。ね?ハーマイオニー」
「全く…貴女は甘いんだから」

夜も更け、ちらほらと自室に戻る人達が出始めた頃、宿題を前に頭を抱える二人を手伝ってあげていた。ふと視線を感じ窓を見ると、窓枠に1羽のふくろうが留まっている事に気が付いた。

「パーシーから?」
「パーシーがなんで僕に手紙なんか?」
「しかも随分長い手紙だね」

むすっとした表情で手紙を読み始めたロンだったが、読み進めるに従い段々その表情は険しくなっていく。一通り読んで、ロンは私達に見えるよう手紙を突き出した。

「えーと…たったいま、君がホグワーツの監督生になったと聞かされた―――」

手紙の内容は、ロンが監督生になった事へのお祝い、ロンがハリーや私と付き合いを続けている事への忠告。それと、何かあればアンブリッジに頼れと言う事、ホグワーツでのアルバスの体制がまもなく終えるという主張に、明日の日刊予言者新聞を読めという内容だった。

「あいつは世界中で一番の大バカヤロだ!」

ロンはそう言いながら手紙を粉々に破き、暖炉へ放り投げた。その時、怪訝な雰囲気を破るかのようにハーマイオニーが手を出した。

「終わった宿題、こっちによこして」
「え?」
「目を通して、直してあげる」
「ハーマイオニー…ありがとう!」
「もうこんなにぎりぎりまで宿題を延ばさないでよね」
「本当にありがとう」

それから真夜中を過ぎて、談話室に居座るのは私達だけとなった。本を捲る音や、羽根ペンを動かす細やかな音の中、ふと一瞬シリウスの気配を感じた。まさか、そんな事あるはずないのに。

「コウキ、」

シリウスの気配を感じたとほぼ同時、ハリーが不思議そうな顔で暖炉を見ながら私を呼んだ。私とハリーは暖炉マットに四つん這いになり、炎をまじまじと見る。

「何やってるの?二人して」
「今、シリウスの気配が」
「シリウスの顔が火の中に見えたんだ…」
「ええ?まさか、そんな事―――シリウス!」

ハーマイオニーに答える為後ろへ向けていた首を戻し暖炉を見た。そこには、紛れもなくシリウスの顔があるではないか。

「どうしたのよシリウス」
「ハリーの手紙に答えるにはこの方法しかなかったんだ。邪魔が入る前に…傷痕の事だ。そんなに深刻になる必要は無いだろう。そういう痛みはずっと今までもあっただろう?」
「うん。じゃあ、アンブリッジは関係無い?」
「無いと思うね。アンブリッジの事は噂でしか知らないが、死喰い人でない事は確かだ」
「死喰い人並に酷いやつだ」

ハリーが低い声でそう言って、私達はそうだと首を縦に振った。シリウスも微笑しながら頷いた。

「あの女は確かにいやなやつだ。リーマスがあの女のことを何と言っているか聞かせたいよ」
「え、私聞いてない」
「お前にはそういう事言わないんだろ」
「ルーピン先生はあいつを知ってるの?」
「いや。しかし、2年前に『反人狼法』を起草したのはあの女だ。それでリーマスは就職が殆ど不可能になった」
「だからアルバスがホグワーツに教師として招いたんだ」

そう言ってハリー達の顔を見ると、酷く嫌悪の表情を露にしていた。リーマスの事を聞いて、ますますアンブリッジが嫌いになったのだろう。そして、ハーマイオニーが怒った口調でシリウスに問い掛けた。

「狼人間にどうして反感を持つの?」
「きっと、怖いんだろう。あの女、半人間を毛嫌いしてる。それで?アンブリッジの授業はどんな具合だ?」
「僕達に一切魔法を使わせないんだ!教科書を読んでいるだけ」
「ああ、それで辻褄が合う。魔法省内部からの情報によれば、ファッジは闘う訓練をさせたくないらしい」
「闘う訓練!?ファッジは、僕らがここで魔法使い軍団か何か組織してるとでも思ってるのか?」
「まさにその通り。ダンブルドアがそうさせていると思っているんだ。私設軍団を組織して、魔法省と抗争するつもりだとね」

思わず私達は言葉を失った。アルバスが私設軍団を組織して魔法省と抗争する?そんな馬鹿げた話があるものか。

「ダンブルドアがファッジのでっち上げの罪で逮捕されるのも時間の問題だ」
「そうだ、何か―――明日の予言者新聞にどんな記事が出るか知ってる?」
「知らないね。この週末は騎士団のメンバーを一人も見てない。リーマスがそっちへ行って帰ってきたきりだ」

シリウスがつまらなさそうに吐き捨てた。あの屋敷に一人閉じ込められているのなら、それは可哀想な事だ。監視を受けながらも自由の身を持つ私の方が何倍もマシだと唸る。

「じゃあ…ハグリッドの事も、何も聞いてない?」
「ああ、ハグリッドはもう戻っているはずだったんだが、何が起こったのか誰も知らない。しかし―――ダンブルドアは心配していない。だから、そんなに心配するな」
「だけど、もう戻っているはずなら…」
「マダム・マクシームが一緒だった。我々はマダムと連絡をとっているが、帰路の途中ではぐれたと言っていた。いいか、あまり詮索するな。周りに、ハグリッドの事に関心を集めてはいけない」

マダムが一緒だったと言う事は、巨人の所へ行ったに違いない。ハグリッドとマダムは、こちら側に加勢するよう説得に行ったのだ。しかし、戻ってこない上にマダムと帰路の途中はぐれたとなると、全く無事だという事は保証されないのではないのか。

「ところで、次のホグズミード行きはどの週末かな?駅では犬の姿でうまくいっただろう?たぶん今度も―――」
「ダメ!」

ハリーとハーマイオニーが同時に叫んだ。シリウスは面食らった顔をしている。

「シリウス、予言者新聞を読まなかったの?」
「連中はしょっちゅう、俺がどこにいるか当てずっぽうに言っているだけで、本当はさっぱりわかっちゃ―――」
「だけど、今度こそ手掛かりを掴んだんだと思う。マルフォイが駅でそれらしい事を言っていたんだ」
「わかった、わかった。ちょっと考えただけだ。君が会いたいじゃないかと思ってね」
「会いたいよ。でもおじさんもでっちあげの罪でまたアズカバンに放り込まれるのはいやだ」

一瞬沈黙が流れた。シリウスとハリーはお互いを見ている。

「君は、俺が考えていたほど父親似ではないな」
「シリウス、」
「ジェームズなら危険なことを面白がっただろう」
「でもおじさん―――」
「さて、そろそろ行った方がよさそうだ。クリーチャーが階段を下りてくる音がする。次に現れることが出来る時間を手紙で知らせよう。いいか?その危険には耐えられるか?」

そう言い残して、シリウスは炎の中に消えた。

翌朝、パーシーの手紙に書いてあった通り、予言者新聞にはホグワーツの事が書いてあった。

「魔法省、教育改革に乗り出す―――」
「ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命!?」
「いったいどういう事なんだい?」

魔法省が、突然新しい省令を制定した。ホグワーツに対しての強い統制力を持ったのだ。アンブリッジが、他の教師を監視する権限を持つ…そんな事、許される話ではない。ここは学校なのだ。

「―――ん?狼人間…リーマス・ルーピン…」
「先生の事まで…」
「コウキ、落ちついて!」
「決めたよハーマイオニー」
「な、なあに?」
「全てが終わったら、まず魔法省を変える。その時にはきっとハーマイオニーの力が大切だから、助けて欲しいの」
「え、ええ…勿論よ」

午前中の授業にアンブリッジが現れる事は無かった。2時限続きの魔法薬の授業では、先日宿題に出されていた月長石のレポートが返された。OWLの基準で点をつけたらしい。

「な!」
「どうしたの?」
「Eだ…」
「凄いじゃないか!それの何が不満なの?」

これだから出来る奴はとか何とか言われたが、私は完璧に書いたつもりで、最高点を狙っていたのだ。
だが…思い返してみると、昔この月長石のレポートを書いた時に隣でアドバイスをくれたのは、セブルスだったような。もっと進歩した事を書けとでも言うのか。

「いまの時点で合格点なら、かなり見込みがあると思わない?」
「そうだね。これからの積み重ねもあるし、なまけなければ十分合格だろうね」
「最高点は期待してなかったわ。でも…取れたら、ぞくぞくしたでしょうけど…」
「ああもう、やめろよ二人とも」
「そういうロンはどうだったのさ?」
「僕はPだよ。満足?」
「セブルスの基準でPだったら普通だよ、普通!」

昼食の席でもハーマイオニーはOWLの話で興奮しきっているようで、早々に話を切り上げるつもりはないらしい。

「じゃあ、最高点はO(アウトスタンディング)の大いによろしいなんだね?」
「そう。で、Eの期待以上(イクシート・エクスペクテーション)、Aのまあまあ(アクセプタブル)、Pのよくない(プア)、Dのどん底(ドレッドフル)、Tのトロールの順番」
「トロール?そんなのがあるの!」
「みたいだけど、私も流石にまだお目に掛かった事は無いよ」

Dのどん底、と言った時にハリーは不自然に咽た。先程のレポート、どうやら評価はDだったようだ。

「どん底から這い上がるのが、弱きを慈しめる人間だよ」
「フォローになってないよ、それ」

数占いの授業はいつも通り終わり、私とハーマイオニーは防衛術の教室へ向かう。先に到着していたハリーとロンに、トレローニーとアンブリッジのやり取りを詳しく聞いた。

「アンブリッジはトレローニーが嫌いさ」
「きっと、その内辞めさせられるんじゃないか?」
「あの機嫌の良さがそれを物語っている気がするよ」

誰よりも先にこの教室にきていたアンブリッジが、
いつもの場所で鼻歌を歌いながら独り笑いをしている。

「今日は19ページを開いて、第二章を読みましょうね」

その言葉で教室中から溜息が漏れる。
私は、もう既に読んでしまっているそれを適当にぺらぺらと捲っていた。この本は全然面白くない。どんなに暇を持て余していたとしても、決して読み返す気は起こらないだろう。そう思っていると、またもやハーマイオニーが手を挙げていた。

「ミス・グレンジャー、今度は何ですか?」
「この本はもう全部読んでしましました」
「それでは、第十五章で逆呪いについて書いてあるか言えるでしょうね」

ハーマイオニーは間髪入れずすぐに答えを述べる。その対応に、アンブリッジは感心したようだ。しかし、その様子も直に取り払われた。

「この著者は、呪いそのものが嫌いなのではありませんか?でも、私は、防衛のために使えば、呪いはとても役に立つ可能性があると思います」
「おーや、あなたはそう思うわけ?ではミス・ダンブルドア、あなたはどう思う?」
「…それは」

ぐ、と眉間に皺を寄せた。
ここで私を試すとでもいうのか。

「呪文に限らず、全ては使い方だと思います」
「と、言うと?」
「この学校でもしばしば、何者かに呪いをかけられた時に、対抗できるものがあると便利です。それはこの教科書もそう。角を使って殴れば、相手は失神するかもしれない」

分厚い教科書を持ち上げ、振り下ろす。
角が机に当たり、ごん、と重たい音を鳴らした。

「呪いであろうが、物理であろうが、結局は全て使用者によって用途は変わる。なので、私は何が正しいか一概には言えません」
「…結構」

アンブリッジが何か言おうとして、諦め言葉を飲むのを私は見た。これは勝利だろう。しかし、ハーマイオニーに対する攻撃の種を潰す事は出来なかったようだ。

「ミス・グレンジャー、グリフィンドール寮から5点減点いたしましょう」
「理由は?」
「ハリー、関わっちゃだめ!」

怒って言ったハリーにアンブリッジがニタリと答えた。ハーマイオニーがハリーを抑えるが、私はその横で参っていた。どうしたら火種のついてしまったこの場を収められるだろう。

「埒も無い事でわたくしの授業を中断し、乱したからです」
「埒も無いだって…」
「ハリー、やめなよ」
「わたくしは魔法省のお墨付きを得た指導要領でみなさんに教えるために来ています。これまでこの学科を教えた先生方は、みなさんにもっと好き勝手をさせたかもしれませんが、そうですね―――クィレル先生以外で魔法省の査察をパスした先生はいなかったでしょう」
「ああ、クィレルはいい先生でしたとも。ただ、ちょっとした欠点があって、ヴォルデモート卿が後頭部から飛び出していたけれど」
「ハリー!」

サーっと皆の血の気が引くのを感じる中、私は思いきり机を叩き、声を掻き消すように叫んだ。

「あなたには、もう1週間罰則を科したほうがよさそうね、ミスター・ポッター」

prev / next

戻る

[ 86/126 ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -