視線

土曜日の朝。
まだ皆が寝息を立てている頃、私は静かに女子寮を抜け談話室へと姿を現した。

「あれ、早起きだね」
「コウキ!」
「ん、もしかしてタイミング悪かった?」
「いや…大丈夫」
「手紙?シリウスに?」
「うん。もし何かあってもいいように、暗号みたいに書いてるんだ」

宛名は“スナッフルズ”と表記されていた。ファッジがシリウスを恐れている―――と言うより、アルバス側の人間全てを排除したがっている。再び無実の罪を着せられないよう、ほとぼりが冷めるまで身を隠すのが安全、というのがアルバスの出した答え。(勿論シリウスは不満たらたらだ)

「あ、それでね、昨日言いかけた事なんだけど」
「アンブリッジの事?」
「そうそう」

昨日、私は医務室から直にアンブリッジの部屋に向かっていた。受けていなかった分の罰則をどうするか聞きに行ったのだが、なんと罰則はいらないと言われたのだ。

その代わり―――背を向けた時、ねっとりとした視線を向けられた気がした。アンブリッジは、私を探る気だ。これから私は様々な所から監視される事になるだろう。

「―――だから、ひっそりと動きたい時は、私を連れない方がいいと思うの」
「でも…僕ら君の力が必要だよ!」
「人間の姿で一緒にいる訳ではないって事。ムーディ以外で、私の正体を見抜く人はリーマスくらいよ」
「そっか、わかった…」
「だから、あまり私といる時に聞かれたくない話はしない方がいいわ」

手紙を出しに行ったハリーを見送り、私はソファに深く座り直した。ハーマイオニーが起きてくるまで、ここで待っていよう。



「スタージス・ポドモア?」
「アズカバンに6ヶ月!」
「スタージスが!?どうして…」

朝食の席。
ハーマイオニーに届いた予言者新聞の記事を見て、思わず前のめり、記事を何度も読み返す。

―――午前一時、最高機密の部屋に押し入ろうとしているところを、ガード魔ンのエリック・マンチに捕まった―――最高機密の部屋って事は、神秘部?押し入ろうなんて、そんな事あるはずはない。これは嵌められたのだろう。

「わかったぞ!―――魔法省は、スタージスがダンブルドア一味じゃないかと疑った。それで―――わかんないけど―――連中がスタージスを魔法省に誘い込んだ。スタージスは部屋に押し入ろうとしたわけじゃないんだ!」
「…私も、同じ様な意見だわ」
「どうしてこうも魔法省は邪魔をするかな…」
「僕もコウキも、変に動けないようにするし、どうかしてるよ」
「ヴォル―――ごめん、あの人の存在を否定したところで、何にも良い事なんて無いのに。ばかだわ」

朝食を終えたハリーとロンはクィディッチの練習へと向かい、私とハーマイオニーは宿題を終わらせる事に専念した。

「やっぱり、貴女と宿題をやると捗るわね」
「そう?ありがとう」
「ねえ…どう思う?」
「スタージスの事?」
「ええ…」
「ロンの言った通りだと思う。魔法省…どこまでアルバスを失脚させたいんだろう」
「私達、何も出来ないのよね」
「今はね。私ももう少し役に立ちたい所だけど。こっちでアンブリッジの目を引く事が私の役目かな」

何も出来ない事を歯がゆく思うのは、ブラックの屋敷に引き籠っていた休暇中と同じだ。切り札は最後まで温存しなければならない。そんな事わかってるのだけれども。

「っ!」
「コウキ?どうかした?」
「い、いや…寒気が、ちょっと」
「風邪引いたんじゃないの?大丈夫?」
「大丈夫だとは思うけど…ちょっと、トイレ行って来るね」
「ええ、いってらっしゃい」

図書館を出て、私は真っ先に人気の無い方の廊下へ向かった。確かめたい事がある。

「―――アンブリッジ先生」
「あら、奇遇ですね、ミス・ダンブルドア」

この女独特のあまったるい匂いに、喋り方。私の向かった先には、予想通りアンブリッジの後ろ姿があった。

「そうですね。この時間帯は滅多に先生方と廊下で出会す事はありませんから。散歩ですか?」
「ええ…そんなところよ。貴女は、お勉強はよろしくて?」
「はい、先生に罰則を免除して頂いたお陰で、しっかりと進んでいます」
「貴女なら、私の言いたい事をわかってくれると思ったからですのよ。―――期待していますからね。それで、今は?」
「ありがとうございます、先生。先ほどまで図書館で宿題を。今は少し外の空気が吸いたくなったので」
「そう、よろしいわ」

アンブリッジは廊下の奥へ消えた。図書館で感じた視線はアンブリッジの物だ。いずれはマルフォイ達を使って来るに違いない。

「あ、おかえり!」
「練習はどうだった?」
「めちゃめちゃさ」
「そりゃ、初めての練習じゃない」
「めちゃめちゃにしたのが僕だなんて言ったか?」
「言わないわ」
「まあまあ、お疲れでしょ二人とも」

クィディッチの練習から戻ってきた二人を談話室で迎えた。ロンは腹立たしげに、宿題をすると言って男子寮へと向かった。ハリーもロンの後を追う。

きっと二人とも宿題になんて全然手をつけていないだろうから、明日あたり一緒にやってあげよう。
ハーマイオニーも、結局は二人の面倒見るんだしね。

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