抱えた頭

朝早く目が覚め、早々に着替え談話室へと向かった。誰もいない談話室のソファに腰掛けたところで、シェーマスが男子寮から出てきた。

「おはようシェーマス」
「…」

シェーマスはちらりと私を見て口を開けたが、何も言葉を発する事無く談話室から出て行った。シカトか!それに続いてハリー達も男子寮から出てきた。

「…おはようハリー、ロン」
「おはようコウキ」
「どうしたの?そんな浮かない顔して」
「いや…もしかして、シェーマスと何かあった?」
「ちょっと、ね。どうして?」
「シェーマスの様子がおかしかったから」

ハーマイオニーも女子寮から出てきた。いつも通り挨拶を交わし、私が一瞬安堵の表情を浮かべたのだろう。

「何かあった?」

ハーマイオニーが目をぱちくりさせて言った。

「シェーマスが、『例のあの人』のことで、ハリーが嘘をついていると思ってるんだ」
「ラベンダーも同じ事言ってたわ」
「私の事も?」
「ええ。でも、その事についてはあんたのお節介な大口を閉じろって、そう言ってやったわ」
「さすが」

ハーマイオニーがラベンダーを論破している場面が簡単に想像できた。この状況下で神経が磨り減っているのだろう。ハーマイオニーの言葉にハリーは少し落ち着いた様だったが、大広間の入り口で私達を避け道を開けた女子生徒を見て、また苛立ちを取り戻したようだ。

今日の授業は魔法史、魔法薬学、占い学、防衛術―――ロンががっくりと項垂れている。

「やあ君達。鼻血ヌルヌル・ヌガーはいかが?」
「ジョージ、フレッド」
「この一年は悪夢だぞ。俺たちの学年じゃ、OWLが近づくと、半数が神経衰弱を起こした」
「ジョージとフレッドは?そういえば大丈夫そうだったけど」
「僕たちの将来は、学業成績とは違う世界にあるからね!」

愉快に宣伝を終えた二人は颯爽と大広間を出ていった。

「今年はとってもきついっていうのは本当かな?試験のせいで?」
「そのはずだろ?」
「コウキはどうだったの?」
「私は実際に試験を受けた訳では無いけれど、試験に備えた勉強はかなり根詰めてたと思う」
「君でも?そりゃ大変だ!」
「今学年の後半には進路指導もあるんだろ?相談して、来年どういう種類のNEWTを受けるかを選ぶんだ」

朝食を済ませ、大広間から魔法史の授業に向かう間にも将来の話は続いた。

「ホグワーツを出たら何をしたいか、決めてる?」
「いやあ、まだ―――でも、闇祓いなんか、かっこいい」
「うん、そうだよな」
「でも、あの人達ってかなりのエリートだろ?うんと優秀じゃなきゃ…ハーマイオニーは?」
「わからない。本当に価値のあることがしたいと思うの」
「コウキは?」
「そうだなあ。とりあえず、権力が欲しいかな?」
「十分偉いと思うけど?」

ロンの突っ込みを受け私達は笑いに包まれたが、権力を持つ人になりたいというのは本当だ。どのくらいかと言うと、物凄く。

「権力だなんて、どうしてなの?」
「差別を無くすのは難しい。だけど、存在そのものの正しい知識を世に広めたい。その言葉が発言力を持つ為の権力、かな」
「ルーピン先生への愛がそこまで君を動かすんだねえ」
「い、いやあ…お恥ずかしい」
「そんな事無いわ!それだったら、私のSPEWをもっと推進できそう!」

今日の魔法史もいつもと変わらず眠たい授業だった。今年は記憶に一番新しい年だ。特に頑張る必要も無いだろうという気持ちが眠気を煽る。

「今年は私のノートを貸してあげないっていうのは?」
「僕達OWLに落ちるよ。それでもハーマイオニーの良心が痛まないなら―――」
「あら、いい気味よ。聞こうと努力もしてないでしょう」
「してるよ!」

これまで魔法史の成績は落第ギリギリを歩いてきたロンとハリーにとって、ハーマイオニーのノートを見せてもらえないという危機は、命綱を着けずに崖を登るのと同意だ。私はノートをあまりとらないが、案外教科書をぱらぱらと読むだけで点数は取れる。記憶力とは侮れない。

「僕達は君達みたいな頭も、集中力も無いんだよ」
「まあ、バカなこと言わないでちょうだい」
「コウキ…!」
「ごめん、私今年はノート取る気あんまり無い…」
「そんなあ!」

霧雨の降る中庭の一角で、私達は固まって今年の勉強について話し合った。このとんでもなく恐ろしいテストが待ち受けているというのに、先生方はまたとんでもない課題を出してくるんだろう、とか、2ヶ月ぶりの学校で気が緩んでいるところを、セブルスは超難題な課題を出してくるだろう、とか。どちらにせよ楽しく勉学に勤しむ余裕は無さそうだ。

重苦しい雰囲気のまま一行は魔法薬学の教室へ。そしてその教室は、私達の低いテンションを更に急降下させた。

「静まれ」

セブルスの声がかかり、一瞬で教室が静かになる。これからの魔法薬学の授業について一通り話し、今日の授業である『安らぎの水薬』の作り方を黒板に記した。

これは得意分野だ。元々魔法薬学は得意な上に、リーマスの満月対策を考えていた時に作った事がある。手際よく済まされた私の鍋からは、しっかりと銀色の湯気が立ち昇った。

「薬から軽い銀色の湯気が立ち昇っているはずだ」

私の出来上がりから間を置いてセブルスがそう告げた。因みに私が出来上がっていた事は完全にスルーされている。教室を見回すと、大体の人はヘンテコな色の湯気や火花を散らしている。同じくハリーの鍋からは灰黒色の湯気が出ていた。

「先生、」

出来上がったハーマイオニーの鍋を覗いた後、黒い煙を出すハリーの鍋に近付いた時、私はセブルスを呼び止めた。ハリーの鍋に何か言う予定だったのだろう。眉間の皺を深め、私を振り向く。

「質問があります。二行目の行程の事で」
「何だね」

特に必要の無い質問である事を気付かれないように重ね、悪戯に時間を経過させる。ある程度の所で遂に気付かれていたのか、手にしていた名簿帳でごすりと頭を叩かれた。痛い。

「危ない所だったわね」
「コウキは何をしようとしてたんだ?」
「多分、あのままだとハリーの鍋、中身消されていたわよ」
「まさか、だから君が時間を稼いでいたの?」
「バレて叩かれたけどね」

ハーマイオニーは周囲を見渡してからこっそりと言った。

「…スネイプは騎士団員なのに」
「スネイプを信用するなんて、ダンブルドアはどうかしてるんだよ」
「ダンブルドアにはスネイプを信用する十分な証拠があるのよ。ね、コウキ」
「私達に証明して見せる証拠があるかどうかは知らないけれど」
「え?」
「ん?」
「それじゃあ、ダンブルドアもコウキも…何の証拠も無しにスネイプを信用してるのか?」
「まさか、アルバスとの間には何かしらの契約があると思うよ。私は、私の知るセブルスに疑いの余地が無いだけ」
「…絶対おかしい」

ロンとハリーはあからさまに軽蔑するような目を向けた。何も知らなければ、ただの意地悪で嫌味な先生だろう。そこは否定しないし、私もついうっかり罵倒してしまった件もある。だが、憎しみも相まって更には遠回し過ぎて解りにくいだけで、セブルスはハリー達を守る行動をしていると思う。

ハリー、ロンと別れ、私とハーマイオニーは数占いの教室へと向かった。ハーマイオニーは数占いを『きちんとした教科』と言っていたが、私は元々占いと言うものを大して重要視していなかったので、どっちもどっちだった。―――まあ、死ぬ予言ばかりされはしないけれど。

「さあ、こんにちは!」

そしてついにあのガマガエルの授業だ。
闇の魔法に対する防衛術の教室では、既にアンブリッジが教壇に立っていた。ぼそぼそと何人かが「こんにちは」と返すと、アンブリッジが舌を鳴らす。

「それではいけませんねえ。みなさん、どうぞ、こんなふうに。『こんにちは、アンブリッジ先生』もう一度いきますよ、はい、こんにちは、みなさん!」
「こんにちは、アンブリッジ先生」
「そう、そう」

アンブリッジの声を聞いていると、トレローニー先生の声を聞いているよりも遥かに吐き気を催した。
早速リーマスが恋しい。

「では、杖をしまって、羽ペンを出してくださいね」
「は?」

これは大波乱が待っている。
私達は、そう心底思った。

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