警告を聞け

私達の目は教職員テーブルに向いていた。
少し高い位置にあるテーブルの真ん中に立つドローレス・アンブリッジ。

「あの人、誰?」
「アンブリッジって女だ!」
「誰?」
「ハリーの尋問の時にいた女でしょ?魔法大臣上級次官。ファッジの下で働いてる」
「魔法大臣上級―――どうして、そんな人があそこに?」
「…」
「コウキ?ハーマイオニー?」
「多分、ハーマイオニーの予感は当たってるよ」
「まさか…」

その時、大広間の扉が開いた。
マクゴナガル先生を先頭に、初々しい一年生が続いている。教職員テーブルの前に組分け帽子の乗った椅子を置き、マクゴナガル先生は脇に避けた。

―――昔のその昔、私がまだまだ新しく
ホグワーツ校も新しく
気高い学び舎の創始者は―――

帽子が歌い出し、大広間は一気に静かになった。
ずっと小さな頃から聞いていた帽子の声。フォークスと、帽子と、アルバス。私の小さな頃の記憶は、この3つが大きく残っている。

だからこそ、すぐに異変に気付いた。
帽子の歌声の違いに。

―――ああ、願わくば聞きたまえ
歴史の示す警告を―――

待ち受ける危機を皆の耳に知らせようと、警告の大切さを物語る、少し強張った歌い声。

―――ホグワーツ校は危機なるぞ
外なる敵は恐ろしや
我らが内にて固めねば
崩れ落ちなん、内部より
すでに告げたり警告を
私は告げたり警告を…
いざいざ始めん、組分けを―――

帽子の歌が終わり、拍手が湧き起こった。しかし、その中にこそこそと話声が混ざる。当然だ。帽子の歌に警告が混ざろうなど、ここにいる生徒は聞いた事が無いのだろうから。
ハーマイオニーが、ほとんど首無しニックに声をかけた。

「これまでに警告を発した事なんて、あった?」
「左様。あります」
「必要とあらば、自分の名誉をかけて歌に警告を含めるって聞いたことある」
「その通り。貴女はよくおわかりになっている」
「コウキは聞いた事あった?」
「ううん、初めて聞いた」

マクゴナガル先生が名簿を読み上げようとしたので、こそこそ話はそこで終わった。段々と一年生の列が少なくなり、各寮の空席は一年生で埋まった。

「掻っ込め!」

アルバスのその一言で空腹に耐えていた全員から拍手と歓声が起こった。テーブルには、毎度同じく豪華な料理が並ぶ。ロンと肉の取り合いをしていたところで、ハーマイオニーが再びニックに声をかけた。

「組分けの前に何か言いかけてたわね?」
「おお、そうでした」
「それで、帽子が警告を発するのは?」
「これまでに数回、学校が大きな危機に直面している時を察知した時です。団結せよ、内側を強くせよと」
「帽子なのに、学校が危険だって、どうしてわかるんだい?」
「私にはわかりませんな」
「帽子はアルバスの部屋に住んでいるから、そういうところで危険を察知したりするんじゃない?」
「へえ…」

話が終わり、ハリーの皿で糖蜜タルトが山盛りになっているのを見て思わず気が遠くなる。私は大体、出てくる品をちょいちょい取るくらいでお腹一杯になってしまう。皿に山盛りなんて、頑張ってアイスくらいしか出来ないだろう。

「さて、学年度始めのいつものお知らせに、少し時間を頂こう」

生徒達が夕食を終え、大広間のがやがやが大きくなってきた時、アルバスが立ち上がり話を始めた。毎年のように、この学校の規則などを半分程話した時、急に話を止め、アンブリッジを振り向いた。

「ェヘン、ェヘン」

アンブリッジが咳払いをしたので、奴が立ちあがっている事に気付いた。アルバスも一瞬驚いていたが、すぐに自分の席へと座った。私は思わずアンブリッジに野次を飛ばしそうになったが、他の先生達の驚いた表情を見て留まった。アルバスの話を途中で遮るなんて。

「校長先生。歓迎のお言葉恐れ入ります」

その気色悪い話し方に思わずハリーと目を合わせる。予想通り、お互い嫌悪の表情を浮かべていた。
アンブリッジのスピーチが始まり、私は思わず思考の彼方へ旅を始めた。

「開放的で、効果的で、かつ責任ある新しい時代へ」

アンブリッジが座り、アルバスが拍手をした所で意識を取り戻す。あ、全然聞いてなかった。

「いろんな事がわかったわ」
「何?」
「あら?コウキならわかると思ったのに…もしかして、聞いてなかった?」
「ごめん、ちょっと現実逃避を」
「それで?何がわかったって言うんだ?」
「たとえば、『進歩のための進歩は奨励されるべきではありません』それと、『禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て』…よ」
「どういう意味だい?」
「…魔法省が、ホグワーツに干渉する?」
「そうよ!―――いけない、ロン!一年生の道案内をしなくちゃ!」
「ああそうだった」

ハーマイオニーとロンが一年生のもとへと駆け寄ったところで、私とハリーは大広間から出て行った。
途中、またも囁く声、嫌な視線、指差す動きを感じたが、出来るだけ人気の無い近道を通って談話室へと向かった。

「僕、おかしくなりそうだよ」
「さすがにこれが毎日続くと鬱になりそう」

談話室も何だか居心地が悪い。

「もう寝るよ」
「おやすみ、ハリー」

ハリーを見送り、私もすぐに女子寮へと向かった。
トランクからパジャマを取りだし、着替えてベッドに落ちる。

これから、たくさんの罵声を浴びるのだろうか。ハリーをしっかり守ってあげなくては。それに、アルバスはどうするつもりなのだろう。これからの事、アンブリッジの事。きっと、アンブリッジはホグワーツを支配していくのだ。私も、下手な動きは出来ないだろう。

どんどん重くなっていく思考から逃げ出すように、眠りについた。

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