看取るもの

「あ、あの、コウキ、ハリー?」
「うん?」
「私達―――えっと、ロンと私はね、監督生の車両に行く事になってるの」
「ああ!そうだったね。頑張って」
「ええ…」

ハーマイオニーがとても申し訳なさそうに言うので、私とハリーも思わず複雑な気分になってしまう。
二人と別れ、私とハリー、ジニーはコンパートメントを探しに歩き出した。

コンパートメントのガラス戸越しに中を覗きながら歩いていると、中にいる生徒達が嫌にこっちを見ている事に気付いた。私達というより、私とハリーを指差しコソコソ話をするのも何人かいた。

「コウキ…これって」
「あのばかな記事を信じてるのね」
「アルバスとハリーと私はホグワーツの三馬鹿とでも言ったところかしら」
「あなた達3人が一塊になったりしたら、勝てる人なんているはずないのに」
「ありがと、ジニー」

途中でネビルと会い、一緒にコンパートメントに押し入る。中には一つ後輩のレイブンクロー、ルーニー・ラブグットが座っていた。人の事言えないが、変人として有名らしい。

「こんにちは、ルーニー?」
「ルーナでいいわ。あんた、コウキ・ダンブルドア?」
「そうだよ、よろしくね」

真顔のびっくり顔が私をしっかりと見てそう言った。何だかそんなにじっと見られると、ムーディに見られている気分だ。

「あんたはハリー・ポッターだ」
「知ってるよ」
「こちらはネビル・ロングボトムよ。ルーナは私と同学年で、レイブンクローなの」

ジニーの紹介を受け、私達は席に座った。他愛も無い話をして、いつも通り車内販売の菓子を買い込む。

「あ、お疲れ様」
「腹へって死にそうだ」

蛙チョコのカード交換をしていた時、コンパートメントの扉が開きハーマイオニーとロンが入ってきた。ロンはハリーの隣にどっかと座り、いつも通り蛙チョコを頬張ったが、二人からは疲労の色が見えていた。

「あのね、5年生は各寮に男女一人ずつ監督生がいるの」
「スリザリンの監督生は誰だと思う?」
「マルフォイ」
「パーキンソン」
「はあ…大当たりよ」

私とハリーが声を合わせて二人の名前を出したが、まさにハーマイオニーの疲労を煽る人物だったようだ。まあ、よくアルバスもあの二人にやらせるよ。

「どうしてばかなのに、監督生になんてなれるのかしら…」
「まあ、スネイプが絡んだらあの二人が最適でしょ」
「そうだけど」

その時、またコンパートメントの扉が開いた。

「なんだい?」
「礼儀正しくだ、ポッター。さもないと、罰則だぞ」
「こんにちはマルフォイ。パーキンソンとペアだそうね?仲睦まじい事はスネイプ寮監の目にもとまっていたようね」
「うるさいぞダンブルドア…どうやら老いぼれに育てられたお前は監督生にもなれないようだな?」
「そうね、そんな上辺の肩書きは要らないの」
「…フン、気をつけることだな、ポッター。なにしろ僕は、君の足が規則の一線を踏み越えないように、犬のように追いまわすからね」
「出て行きなさい!」

ニタニタと嫌な笑いを見せながらマルフォイは出て行った。半開きの扉をハーマイオニーが閉め、私とハリーの方を真剣な顔で見た。

―――犬のように。
その言葉は単なる偶然だったのか、それともキングズ・クロス駅にいた、あの大きな黒い犬を指すものだったのか。

「大丈夫よ」

私のその一言は、虚しく響いたように感じた。
騎士団を、奴らに悟られるわけにはいかない。シリウスを、奴らの手に渡す訳にはいかない。

着替えを済ませた所で、いよいよ汽車が速度を落し始めた。汽車が止まり、ホームはホグワーツの生徒で溢れかえる。

「…ハグリッドは」
「声が、聞こえないね」
「コウキ、ハリー、ドアを塞いでるわ」
「あ、ごめん」

いつものハグリッドの声に代わって聞こえてきたのは、去年「魔法生物飼育学」をしばらく代行していたグラブリー・プランク先生の声だった。

その暗がりの中、大きなハグリッドの姿を探したが、何処にも見当たらない。あまりはっきりとは見えないが、ハリーの表情はかなり落ちているように見えた。

「ハグリッドは?」
「私も詳しくは聞いてないの。でも…新学期に遅れるなんて事」
「ハリー、コウキ!」
「ロン、ハグリッドの事、聞いてない?」
「さあ―――無事だといいけど…」

ハリーが辺りを見回し、ピタリと止まった。その先には馬車がいる。

「ハリー…?」
「これ…いったい何?」
「セストラルだったかな」
「セストラルって何?」
「確か、人の死を見取った人だけが見える馬だったはず」
「人の死?」
「ハリー、コウキ!何してるんだ、はやくしろよ」
「わかったよ、ロン」

セストラルの引く馬車に乗り、ホグワーツへと向かう。私が最初から見えていた理由は、何となくではあるが理解している。私は多くの死を背負い、引き継ぐ存在だからだろう。
本来であれば、ハリーはセドリックの死を見取り、見えるようになるはずだった。しかし今は違う。ハリーの目の前で誰かが死んだ訳ではない。ならば、何故?

「僕、誰かの死を見取った覚えはないよ」
「私も同じ事考えてた。憶測でしかないけれど、私の血の影響かも」
「血の影響?」
「あの墓場で、私を貫いた剣を使ってハリーにも傷を付けたでしょう?魔法族にとって、予想以上に血は重い存在だから」
「そうだね…なら、僕と君とヴォルデモートは、血で繋がっているかもしれないね」
「確かに」

ホグワーツに着き馬車を振り返ると、まるで骸骨のような、奇妙なセストラルがただ留まっていた。本当に不思議な世界だ、と思う私は―――やはりただのマグルだった頃が心の何処かにあるのだろう。

「ああ、帰ってきた」

久し振りの大広間のグリフィンドール席。
やはりここは落ち付く。だが、去年までとは違う視線がある。私と、ハリーを見る目。ひそひそ話は後を絶えなかった。

「…」
「コウキ?」
「ねえ、私が狼人間だったらどうする」
「え!どうしたのいきなり?」
「まあ、ありえない事は無いんじゃないか?ルーピン先生が―――」
「ルーピン先生はちゃんとコウキの作った脱狼薬を飲んでます!」
「たまにセブルスだけどね…」
「それで?何だってそんな話を?」
「今そんな話が聞こえたからさ」

いくつか席の離れたグリフィンドールの女の子達を見る。ばっちり目が合ってしまい、焦ったように目を逸らされた。
いつの時代も私は話題に事欠かない存在だ。

「コウキが人狼だって?」
「ルーピン先生が後見人だから?」
「そう言えば、予言者新聞にルーピン先生の事も書かれてたもんな…」
「リーマスは頼んでも同類になんてしてくれないのに」
「まあ、そりゃそうだろうね」
「満月の日に、あの子たちの部屋に忍び込んでやろうかしら」
「大騒ぎになる事間違いなしだね」


今学期も始まりから前途多難のようだ。

prev / next

戻る

[ 79/126 ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -