よりそう心
「ルーピン、コウキ」
「どうも、キングズリーさん」
「ダンブルドアは何故ポッターを監督生にしなかったのかね?」
「あの人にはあの人の考えがあるはずだ」
先ほど話していた話題だったので、私とリーマスは苦笑を漏らす。
「しかし、そうすることでポッターへの信頼を示せただろうに」
「自分への信頼よりも大切な物があるんですよ、きっと」
「ふむ。流石ダンブルドアに育てられたと言うところか、君も大層な魔女になりそうだね?」
「ありがとうございます」
「さて、寝る前にまね妖怪を処理してくるわ。アーサー、みんなをあまり夜更かしさせないでね。おやすみ」
ウィーズリーおばさんが厨房を出て行き、その扉のすぐ横でハリーとムーディが話をしていた。
リーマスとキングズリーは話し込み始めたので、私はハリー達に近付いた。
「何見てるの?」
「あ…コウキ。写真だよ」
「不死鳥の騎士団創立メンバーだ」
「へえ…沢山いるんだね」
―――もし、あのまま生きていたら、
私もここで笑って手を振っていたのだろうか。
黙ったままのハリーの顔を伺うと、思いつめた顔をしている。きっと、リリーとジェームズの事を考えてるのだろう。
「ね、ハリー借りてもいい?」
「ああ、構わん」
「じゃあ、ちょっと上行こう」
「うん…?」
周りに気付かれないように、そっとハリーの手を引き厨房から出て行った。
「コウキ―――ごめん」
「ううん、大丈夫?」
「僕―――よくわからないんだ。どうしてこんなにショックを受けたか…」
「ハリーの立場だったら、きっと誰だってそうなる」
「うん…」
ホールから階段を上がり、最初の踊場に出た時、客間の方から何か激しい音が聞こえた。
「…誰か、いたっけ?」
「おばさん?」
私とハリーは残りの階段を走った。
客間に近付くにつれ、おばさんのすすり泣く声が聞こえてくる。急いで扉を開くと中は暗く、部屋の中心には―――ロンが。ロンが大の字になって倒れていた。
「おばさん!大丈夫ですか!?」
「リ―――リディクラス!」
おばさんが杖を向けた先でロンがビルに変わった。次々と、ウィーズリー家の子供達の死体が現れ、ついにはハリー、私までもが現れた。
「おばさん、ここから出るんだ!」
「ハリー避けて、」
おばさんとハリーの前、まね妖怪の前に立つとそれは―――私になった。
「っ―――」
「リディクラス!」
一瞬身を固めてしまった私の横を光線が走り、まね妖怪は消えた。
扉の方を見ると、騒ぎを聞きつけたリーマス、その後ろからはシリウスとムーディが続いた。
「…リーマス、」
「コウキ」
「大丈夫かい?」
「う、うん…」
後ろではシリウス達が泣き崩れたおばさんを介抱していた。心臓が大きく鼓動を繰り返す。私が、自分自身を恐れている事を知られてしまった。
「コウキ、君も休もう。さあ」
「うん…」
「シリウス、後は頼むよ」
「ああ、任せておけ」
抱えられるようにして、私はリーマスの部屋へ向かった。まだ心臓は落ち付かない。おばさんが見せた、あの転がる仲間の死体。闇に染まり、嘲笑うように顔を歪めた自分自身。現実を叩きつけられたようだった。
重たく圧し掛かる使命。
計り知れない自分の力。
―――この世界を破滅へと導いてしまったら。
「コウキ」
「ご、ごめんね、まさか私になるなんて、思っていなくて、」
「まね妖怪に直面したのは、初めてじゃ無いはずだ」
「っ―――」
「力は時に、人格をも破壊する」
まだ欠けている月を見上げて、そう言った。
振り向いたリーマスは、月明かりに照らされとても綺麗だった。
「君は、弱くない」
「私は、」
「でも強くも無いんだ。ね?」
「リーマス…っ」
闇夜に消えてしまいそうなリーマスが怖くなり、しがみつく様にして抱き締める。
「どうして自分が怖いんだい?」
「私が、壊すんじゃないかって、全部私が」
「うん」
「強くいなくちゃいけないって思ってるのに、抑えられなくなりそうで、怖い」
「君が全てを背負う必要なんて無いんだ。君に与えられた使命は重い。だからこそ、たった一人では発揮されない力なんじゃないかな?」
「一人では…」
「そうだろう?」
早く言えば良かったのだ。
私はいつだってリーマスに伝えなかった事で後悔していると言うのに、何度同じ事を繰り返せば気が済むのか。
「皆不安で、出来るものなら家に篭っていたい。でも私たちが動かなかったら、誰が平和を守る?コウキは、その中の一人なだけだ。特別、唯一じゃない…輪の中の一人なんだ」
「ん…ありがとう、リーマス」
「本当に君は―――」
リーマスが俯き、唇が首元に触れた。
「君はいつも、急に何処かへ消えてしまいそうなくらい…覚悟した表情をしているんだ」
「え?」
「不意に手を取りたくなる。君が、全てを背負う姿なんか、私は見たくない」
「リ―――」
ゆっくりと、だが確実に私はベッドとリーマスに挟まれていた。
「ちょ、リーマス!?」
「静かに―――」
「う…ん?」
苦しいくらいに抱き締め、リーマスは溜め息を吐いた。
「やっぱりここが…一番落ち付く」
いつもどこか余裕で、私の事など全て知っているようで。いつも心配してくれていて、いつも見ていてくれる。リーマスが甘えてくれる時は、私が甘えられていない時だ。
「私、間違ってたかも」
「何がだい?」
「ううん、何でも無いの」
守るというのは、敵から身を守るだけでは無い。
そう、思った。
「少し、ここで寝ても良いかい…コウキはこのまま朝まで寝ていいから―――」
「うん?」
「後で…私は下へ行く、けど…」
「うん…リーマス?」
「…」
私の胸の中から規則的な呼吸音が聞こえてきた。ここ数日、まともに寝ていなかったのかもしれない。
「…おやすみ」
シーツをしっかりと被せ、私もすぐに眠りについた。
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