『君は強いね。バトルだけじゃない。心が強い。やっぱり、君の名前は”ミキ”だ」

名もなかった私を、そう呼んでくれたヒト

きみの名は_3


「くそっ…なんなんだお前!」
「何って、喧嘩を売った相手でしょうが」
昼間でも少し薄暗い路地裏。渡されたお金を数え、思ったよりも多かったことに思わず笑った。それに怯えたような顔にするから、余計に虐めたくなってわざと悪そうな笑みをつくってみせる。
「駄目ですよ?喧嘩を売る相手は選ばないと」
「ひぃっ!」
「あら…お仲間にも言っておいてくださいねー」
この辺のとはみんな遊んじゃいましたけど。そう呟きを付け足して、逃げて行く男の後ろ姿を見送る。傍らには、相手に止めをさしたボスコドラが同じように笑って見ていた。
「たのしかったねえ、ボスコドラ」
私を見て笑みをにやりとしたものに変えた彼。まったく、持ち主に似るとは良く言ったものだ。
「歯応えなかったなかったけど、良いストレス発散と準備運動にはなったかな」
ひょい、と私を持ち上げ大通りへと歩き出したボスコドラの上で言えば、彼も頷いて同意した。
やはり、何かあったときはバトルに限る。そう同じことを考えたのか、私を支える手から嬉しそうにしたのが伝わってきた。
「うちの子たちはバトルが大好きで困るなあ」
笑い出すのを堪えていうと、お前が一番そうだろう、と声が聞こえそうな、
笑を含んだ目で見上げられた。

『僕はバトルが嫌いなんだ』

と、不意に思い出した言葉に、彼から視線を反らす。
あの時の彼はそう言った。私には良くも悪くも、ずっと一番近くにあった表現方法だったから、理解は出来なかったけれど。
「って、うわ!?」
突然襲った浮遊感と急激な視界の変化に対応できず、ただ横たわった。その地面の感触に振り落とされたのだと遅れて理解する。見上げれば、素知らぬ顔で私を見下ろすボスコドラ。と、いつの間にかボールから出たらしいパーティーの面々。
「君たちねえ…」
私の思考が下降したことに気づいたのだろう。乱暴な励ましに、苦笑するしかなかった。
けれど、それでも理由を聞こうとしないのだから、本当にいい奴らに出会ったと思う。仲間になった彼らはみな、私の旅の目的を知らない、聞こうともしない。そんな不器用な優しさで、それぞれが私について来てくれたのだから。
「…ありがとう」
けれど、そろそろ話さなければ。
もう、察してくれているだろうことに、甘えてばかりはいられない。












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