地に届くほど伸ばされた闇に溶けるような髪。気持ちが悪くなるような青白い肌。その中で浮かぶ、深紅の瞳。

ひとは、私を『魔女』と蔑んだ。

父も母も覚えていない。赤子の私を拾った修道女達は、薬でトんだギャングに押し込まれ、皆陵辱されながら殺された。残った私はまだ幼かったからだと、人々は好意では言うけれど。

「あの見た目に怖気づいたのよ」
「暗闇の中に赤…ああ恐ろしい!」
「あいつが厄災を招いたんだ!だからこんなことに…!」

『きっとあの魔女の仕業なのよ』

だから、わらってやったのだ。声も立てずにただにやり、と。
戸を立てられなかった音がどこへ行っても耳を掠めたから。

ああ!それを見たヒトのかおといったら!


きみの名は_1



「いたか!?」
「いや、こっちにはいない!」
「くそっ!どこへ!」
「所詮子供だ。遠くへは行けまい」
「よし、俺はこっちを」
「わかった、また!」

ばたばたと走り回る音。足なんか私に及ばないくせに、デカい家に住むやつは数であぶりだそうとする。広いせいで、出口もわからない。
「…くっそ…何もやってないじゃない!」
もちろんまだ、だけど。内心でそう呟いて辺りを見回す。息はこの程度ではまだ上がらないが、そろそろ出られなければまずい、と場数を踏んだ勘がそう言っていた。
「もうちょっと下調べすればよかったかな…っと」
身を隠していたシャンデリアから音もなく飛び降りる。物心付いた時からの『日銭稼ぎ』は、私に人並み外れた体力と能力をもたらした。おかげで、街ではもはや化け物かなにかだとうわさされているらしい。もはや慣れ切って、知ったことではないが。
「でも、本当に広い…」
周囲には気を配りながらも、最悪の場合は窓から出ようと階段で上へ向かう。あまり見たことのない様式の屋敷は物珍しいから、本当ならゆっくり見て回りたかったのに。
「一体なん部屋あるんだか…ん?」
いくつか見て回るうちに一つだけ、なんだか違和感を感じたドアがあった。言うなれば、隔離されているような。部屋の場所もドアの様子も、まるで他とは変わらないのに。

(なんだろう…)

「…って、え」
ためしに、と回したノブはあっさりと回った。他はびっくりするほど鍵がかかっていて、苦労させられたのに。
気付けばドアを開けていて、私はそっと部屋へ入り込んだ。

と同時、息を飲む。

(なに、ここ…!)
子供部屋、と一言では言い切れなかった。散らかった、見たこともない玩具。壁に掛けられた、たしかバスケットと言われていた遊びに使う籠には、抜ける穴を塞ぐほどに積み木が詰められていた。
そしてなによりも篭りよどんでいる、複数の生き物の殺気。
「きもちわるい…」
散々吐かれた言葉を、よもや自分が吐き出すとは。当てられるような狂気の中で立ち尽くしていると、殺気とまた違う気配が闇の中で動いた。
それはまるで緩慢に。ゆっくりと体を起こして、目を開ける。
そして私と変わらない年頃の声で

「だれか…いるの?」











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