『君は素直で強い。この木のように、真っ直ぐで。そうだ!君の名は…』


素直で真っ直ぐだなんて。彼は私に何を見ていたのか。


きみの名は_6


「それで、その彼…Nと名乗っているのだけれど。そのNが率いているらしいプラズマ団が、先日から各地で目撃されているわ」
「プラズマ団…」
「そう。聞き覚えは?」
「いえ…でも」
「『ポケモン達を解放する』?」
さぐるように私を見てきた彼女を、そのまま見つめ返す。
思い出されるのは、バトルが嫌いだと、何故傷つけ合うのだろうと苦しんでいた幼い顔。
「…何を考えているんでしょう」
「さあ…それは私にはわからないけれど」
あなたには、わかっているんじゃない?
覗き込むようにした彼女は、まるで背中を押すような、けれどどこか心配しているような顔だった。
「私、いきます」
「そう…大丈夫なのね?」
「……」
それはわからなかった。ずっと、もし会えたらと思っていたけれど。
「…まあ、迷うなんてあなたらしくないわよね」
苦笑交じりの声。その表情はどこまでも優しかった。
「…あの、」
「さ、でももう夕方になってしまったから、今日は泊まっていきなさいな。用意もしてある…」
「っ、あの!」
思ったよりも大きな声が出た。少し驚いた様子の彼女を見て、一瞬怯みそうになる。
けれど、今いわなければ。
「あ…ありがとう…お姉ちゃん」
今までの分は、これではとても足りないけれど。彼女が昔から望んでいた呼称で呼ぶだけで、精一杯だったけれど。
「これは…まあ…」
先ほどよりも驚いた顔の後、こちらこそ、と続いた涙声に、これで十分だったのだと悟った。
泣きながら、笑って私を抱きしめる背中に手を回しながら。
「そんなに泣かないでよ、お姉ちゃん」




「では、いってきます」
初めて言う言葉だった。羨ましいとおもいながら、感情と共に封印してきた言葉。
「いってらっしゃい」
にこりと笑って返されるのに、感じたことのないこそばゆさを覚えてつい目を逸らす。すると彼女だけでなく、普段感情を表に出さないメタグロスまで一緒になって笑った。
「…なんですか」
「いえ、別に」
ねえ、メタグロス?と結託して嬉しそうに笑う二人を睨めば、彼女らはさらに嬉しそうにした。
思えば、昔からメタグロスと彼女は仲がよかった。人見知りをする彼が、彼女には警戒心を持っていなかった。それどころか、まるで同じ目的でも持っている同志かのように。
「もう…いきますからね!」
「はいはい。気をつけてね」
くるりと背を向けて歩き出すと、彼女に一礼してからメタグロスがついてきた。
「いつでも帰ってらっしゃいねー!」
そう叫ぶ声に、立ち止まり、振り向いて。
「いってきます!」
もう忘れてしまった、作らない笑顔はちゃんと出来ていただろうか。
ちらりと見た横にいるメタグロスが、満足気な顔をしていたことによしとして。

「さあ、いくよ」

あの十年前と同じように、けれどあの時にはなかった安心感と共に、私は再び歩き出した。











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