『じゃあね、ミキ…』

まるで消えて行くように離れて行く背中に、かける言葉を持ち合わせてはいなかった。
後にも先にもない、私がヒトのために声をあげて泣いた日。


きみの名は_4


「捜している人がいるの」
鋼タイプばかりのゴツイ見た目の彼らは、真剣な、それでいて優しい目で私の声に耳を傾けていた。
「今までは当てもなくて、ただ旅をしていただけだったけれど…」
もちろん、それが無駄だったとは思っていない。彼らに出会え、仲間としてついて来てもらえたことには、本当に感謝しているから。そう先に伝えると、彼らは嬉しそうにしてくれた。
「今回、イッシュに来たのには明確な理由があるの」
明確な理由。それはあの博士からの一報だった。



『もしもし、ミキ?』
まだ最新機器だったポケギアが不意に鳴ったのはジョウトにいた時。ラジオ塔の一件に決着がついたころだった。
「え…もしかして…」
『そう、アララギよ』
ちょっとした縁があるアララギ博士。その娘が、どこから聞いたのか私のポケギアにかけてきたのだ。
「…どんなご用でしょうか」
『そんなに警戒しないで。実は突然なんだけど、あなたにイッシュに帰ってきてほしいのよ』
帰ってきてほしい、とはおかしな話ではないか。誰に言われたわけでもなく、自分の意志で私はいい思い出のないあの地を離れたのだ。しかも、彼女は私の保護者でもなんでもない、ただ関わりがあっただけの関係なのに。
「帰ってきて欲しい、とは変わった言い方ですね。あなたの許可をとって私はこの場にはいませんが」
『もう、相変わらずね。…あなたに知らせたいことがあるのよ』
知らせたいこと、と少し声を落として言われた言葉に不信感を抱く。たとえそれが波風を立てるよような内容でも、彼女はきっぱりと言い切る性格だ。それでも言いにくそうにしているとは。
「なんですか。今知らせてください。それが重要なことでなければ、私は戻りません」
それでも構わず促すと、通話相手は苦笑したようだった。そして、いつものはっきりとした口調で。
『あなたのさがしていた人が、見つかったわ』
私の、さがしている人。たった一度、会えるなら会いたいヒトがいる、と話しただけだ。それ以上はなにも、そのひとの特徴も、性別すら話していない。それもしたのは彼女の父親にで、探しているといったことはないのに。
「…なぜ」
『どれに対する質問かしら。さがしていることを知っていること?それとも、さがし人を見つけられたこと?』
「っ…」
こういうとき、頭が良い相手は厄介だ。舌打ちしかけたのを堪えて、私はただ一言と答えた。
「行きます、イッシュへ」
『そう。ヒウンへの客船のチケットは送ってあるから、ポケモンセンターで受け取ってね』
断るはずがないと読んでいたのか。そう残して切られた通話に、今度こそ舌打ちした。



「だから、私はここにきたの」
十年という時を経て、私がいたころとは変わってしまったこの地へ。
「…さがしている人については、追い追い話すけど」
とりあえず、今は彼女の話を聞きにいかなくては。
ただ静かに私の話を聞いていた彼らは、こくりと頷いて私に笑いかけた。それに、私も笑い返す。
本当は、なにも話していない。それをわかっていながら、彼らは私についてきてくれるのだ。それがわかって、らしくなく安心したから。
「じゃあ、行こうか」
この私を、遥か地から呼びつけた彼女のの元へ。












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