×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




半透明な同居人

暗殺戦術特殊部隊―――通称暗部の任務内容は正規部隊よりもはるかに機密性、隠密性を要する。自ずとその任務に就く忍の精神的負担は大きくなる。そんな部隊に所属しているカカシくんの勇名は、生身の人間のときはしがない中忍だったあたしの耳にも届いていた。

明け方、血塗れで帰ってきたカカシくんに思わず息を飲んだ。ゾンビでも見たかと思って一瞬心臓が止まりそうになった。(ゾンビっていうか幽霊なのはあたしの方だけど。それに心臓だってもう止まっている。)

カカシくんの容貌から任務が過酷なものだったとすぐに分かって、あたしはそっと気配を消した。
普段からカカシくん以外の人間にあたしの姿は見えない。だけど気配を消すと写輪眼のカカシくんでもあたしの姿を見ることができなくなる。

とにかく、返り血塗れでピリピリしているカカシくんには関わりたくない………触らぬ神に祟りなしというやつだ。(むしろ、あたしが祟るほうか。)
それに、感情の籠らない冷たい瞳をしたカカシくんになんと声をかけていいのかも分からなかった。





気配を消せるというのは便利だ。都合が悪くなったらすぐに隠れられるから。
あたしの部屋……もといカカシくんの部屋はお風呂とのキッチンの他には部屋が一つしかない。この奇妙な同棲生活が始まって一番最初に恨んだのは、こんな間取りの部屋に住んでいた死ぬ前のあたしだ。幽霊になってしまったあたしは着替えやお風呂は必要ないけれどカカシくんは違う。
カカシくんはちゃんと生きていてご飯も食べるし、着替えもするしお風呂も入る。なのにこの間取り。当然、望んでもいないラッキースケベに遭遇してしまうわけで。この間のお風呂事件然り、うっかりカカシくんの裸を目撃してしまわないようにあたしは細心の注意を払って生活しているのに……カカシくんときたら!
あたしが居るのに何食わぬ顔で着替え出す。それでぎょっとしていたら……あたしの方を半裸で振り返って、にやり。「レイ子ってさ、ほんと覗きが好きだよね。」って。あたしは、はっとして身体中の熱が顔に集まってくるのが分かって羞恥心で消えてしまいたくなる。ていうか、本当に気配を消して隠れてしまうのだけど。とにかくカカシくんはちょっと意地悪だ。意地悪だけど……ちょっとカッコいい。でもそういう気持ちには気が付かないようにしている。だって、あたしは死んでいてカカシくんは生きている。もし万が一にもこの恋が実ってしまったら……それってカカシくんが死ぬってことだ。あたしはそんなB級ホラー愛憎劇なんてまっぴらごめんだ。

そんなくだらないことを部屋の隅っこで考えてぼんやりしていた。どのくらいの時間そうしていたのかわからない。でも、カカシくんが帰ってきた時にはまだ真っ暗だった部屋の中は太陽の光でほんのり明るくなっている。もうお昼か、思ってカーテンの隙間を除くと西日が傾いていた。あたしはぎょっとしてカカシくんを見た。いつから寝ていたのか正確にはわからないけれど……まさか、死んでないよね?
泥のように眠るカカシくんが心配になって、そっとカカシくんのそばへ寄る。あたしを見ることのできる色違いの瞳は閉じられて、銀色の睫毛が影を射している。すっと通った鼻梁に口元の黒子。端正な寝顔を少し長めの銀髪が隠してアンニュイだ。

「ん……」

眠っているはずなのに物憂げに眉をひそめるカカシくんに胸がぎゅっと締めつけられた。あたしは切なさで堪らなくなって、そっと手を伸ばす。すり抜けてしまうのは分かっているけれど、寄せられた眉根に触れた瞬間―――・・・

「えっ……?」

あたしは強い力に引っ張られた。