「大丈夫……じゃなさそうだね。」
高熱に浮かされて夢と現実の狭間を彷徨っていたら、突然、カカシ先輩の声がした。
幻聴まで聴こえてくるなんてあたしほんとにヤバイかも……布団から顔を出してみると、確かにカカシ先輩が立っている。え、幻覚?
「……あれ…先輩…本物?」
「熱で頭までおかしくなったの?」
病人に対して、少々手厳しすぎる発言にやっぱり本物のカカシ先輩だと確信した。
「今日…任務……すみません。」
「はあ…任務の心配はいいから自分の心配しなよね。」
呆れた声色の先輩に申し訳なさが湧き上がってくる。
今日はテンゾウ先輩と一緒の任務が入っていたのだけれど、夜中に急に寒気に襲われて、一晩中ぞくぞくして全然眠れなかった。明け方、体温を測ってみたら39.1度。頭はガンガンするし、起き上がろうにも力が入らない。
それで、カカシ先輩に任務を代わってもらったという訳だ。
「熱は?」
「……朝は39度だったけど、わかんない。」
「はあ…」
呆れ返った、ため息と共にカカシ先輩の腕が伸びてきた。そのまま先輩の冷たい手があたしのおでこに触れる。
「あー、こりゃ相当熱あるね。」
「ん……先輩の手、冷たくて気持ちいい……」
「そ?」と、いつも通りの簡潔な返事が返ってきた。ベッドの側に立つカカシ先輩がすっと屈んだ気配がしてーー熱で火照る頬っぺたをカカシ先輩の両手に包まれた。
「気持ちいい?」
いつも冷たいカカシ先輩の、突然すぎる行動に少なからず動揺したものの、今はそんなことにいちいち噛みつく元気もなくて黙って頷いた。けれど、確かにあたしの心拍数は上昇して、また熱でも上がるのではないかと思ってしまった。
「なんか……カカシ先輩が優しい。」
「……オレはいっつも優しいと思うけど?」
頬っぺたに手を当てたまま、上からあたしを見下ろすカカシ先輩の顔が見たこともないくらい優しい顔をしている。
「先輩がこんなに優しいなら風邪引くのも悪くないかも……」
「……なに馬鹿なこと言ってるの?」
「えへへ」
「はあ…これだから病人は…」
ため息をついて立ち上がった先輩は、あたしのおでこに冷えピタを貼ると「お粥なら食べられる?」と聞いてきた。あたしが黙って頷くと「大人しく寝てなよ。」と言ってキッチンへ向かった。
部屋のドアを締める直前、カカシ先輩は何かを思い出したみたいにピタッと足を止めた。それから、あたしの方を振り返ってこう言った。
「お前も、いつもこのくらい素直だったらかわいいのにね。」
素直になれないあたしたちがお互いの気持ちに気付くのはもう少し先になりそう。