「先輩、」
「へっ?」
「これ、落としてる。」
例にも漏れず、複写室で会議用資料のコピーをせっせとしていたら、カカシくんに声をかけられた。また、何かやらかしてカカシくんを呆れてかえらせてしまったのかと思ってひやりとして振り返った。
「うわーーーー!カカシくん見ちゃだめーー!」
カカシくんが持っていたのはあたしの社員証で、あたしはそれを慌てて奪い取った。それから窺うようにカカシくんの顔をみたら―――にやり、悪戯めいた笑みを浮かべていた。……これは、嫌な予感がする。
「ふーん?オレに見せられないような訳があると。」
「い、いや、その…訳っていうか……」
あたしはしどろもどろになった。そりゃあ、カカシくんに見せられないような大層な理由があるわけではないけど。
………社員証の写真うつりが恐ろしく悪いのだ。そんな顔写真付きの社員証を首からぶら下げているのだって気が気じゃないのに、好きな人に見られるなんてとんでもない。
「だ、だめっ!」
気分良さげに口の端を吊り上げて、にじり寄ってくるカカシくん思わず後ずさる。後ろのコピー機にぶつかりそうになって、このままじゃ、またカカシくん壁ドンされちゃう!なんとしてもそれは回避しなきゃ!
「だって!写真写り悪いんだもん!カカシくんはイケメンだからあたしの気持ちわかんないでしょ!?」
考えあぐねてやっと出た捨てゼリフにカカシくんはぴたっと止まった。口元を押さえて一瞬、目を泳がせるように反らしたカカシにちょっぴり不安はあるものの、一件落着とほっと息を吐いていると―――
「なにそれ、萌えるんだけど。」
ばちっとカカシくんと目が合う。真っ直ぐあたしを見つめるカカシくんの視線に射抜かれて動けない。カカシくんから目を離せずにいると―――突然眉根を緩めて優しく微笑まれた。
思わず、呆気に取られていたら―――
「カ、カカシくん!?」
突然ガバッと抱き締められた。
「はあ、ほんと癒しなんだけど。」
訳が分からず、あたふたしているあたしをよそにカカシくんはあたしの肩におでこを寄せて感嘆混じりに溜め息をついている。カカシくんの髪が首筋を掠めてくすぐったい。
「カカシくん、あの……離して?」
とにかく、カカシくんから離してもらわなきゃ。わかっているけど離れがたくて。どきどきして、上擦った声でカカシくんを呼ぶ。
「分かってる。でも、もうちょっとだけ。」
そう言って、ぎゅうぎゅう抱き締めてくるカカシくんの背中にそっと手を回した。