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夜道に注意



いつものように夜も更けた頃、お店をでて帰路についた。夜中に女の一人歩きなんて危ないとみんな言うけど、お店から家までは歩いて10分もかからないし、比較的大きな通りを使っているから、と安心していたのが仇となったらしい……

水商売という仕事柄、ストーカーされるということは珍しいことではなかった。あたしは運良く恐ろしい目に遭ったことはないけれど、同僚の中には酷いことをされた子もいる。
それに木の葉の里は忍の隠れ里だ。
顔馴染みの忍のお客さんが用心棒を買ってでてくれたり、五代目火影さまが色々と根回ししてくれたりと助けられている。
どうして火影である綱手様がうちの店を贔屓にしてくれているかというとママと綱手様が酒を酌み交わす仲であるからだ。くのいち最強が綱手様だとしたら一般女性代表がうちのママだとあたしは思っている。
それに忍という職業は色々と秘密がつきまとうものだ。そういうお客さんたちの気の置けない店としてあたしたちは生計を立てている。

とにかく、いつもは何となく視線を感じるだけだったのに、今日はなんだかいつもと違った。殺気のようなものを感じる気がして少し怖い……
でも、あたしは忍じゃないし、殺気なんて感じ取れるわない。そう思って最初のうちは気のせいだと首を横に振っていた。けれど、歩みを進めるごとに背後の気配からひしひしと圧迫感を感じるのだ。

なんか、気持ち悪いな………

あたしはだんだん不安になってきて、早足で家路を急いだ。すると、後ろの気配もあたしに倣って歩くスピードを上げてきた。

「…っ!」

振り向いたらまずい、直感的にそう感じて、とにかく早くこの場から離れなきゃ、そう思った。
あたしは全速力で駆け出したーー

殺されるかもしれない、そんな恐怖から体が強張って思うように走れない。あたしはもつれる足を必死に動かした。
後からはザッザッ、と砂を蹴る音がどんどん迫って来ている。

お願い、誰か助けて……!

「ひっ…!」

突然、誰かに後ろから肩を掴まれて、恐怖で心臓が凍りつく。足が竦んで動けないーー

「名前、酷い顔してどうしたの?」

あたしは一体どんな顔をしていたのだろう……
頭の上から降ってきた声は聞き馴染みのある声だった。恐る恐る振り返ると、立っていたのはカカシさんだった。

「……っ……っう…ひっく…っふ…カ、カカシさぁん!」

見知ったカカシさんの顔を見た途端、涙がどっと湧いてきた。恐怖から解放された安心感で思わずカカシさんに抱きついてしまう。

「おっと…、」

抱きついたというより、突進したという方がしっくりくる。そのぐらい勢いよくカカシさんに飛びついてしまったのに、カカシさんはふらつきすらしなかった。それどころかあたしが抱きつくことを知ってたみたいに優しく抱き留めてくれた。

「……っう…だれかっ…いる……!」

しゃくり上げてうまく喋ることができなかった。
カカシさんの胸に顔をうずめたまま、カカシさんの後ろの街灯が疎らな暗闇を指差す。

「大丈夫だから、落ち着いて?」

カカシさんは小さい子どもをあやすみたいに泣きじゃくるあたしの頭をポンポンと撫でながら言った。
その手の温もりと規則正しく脈打つカカシさんの心臓の音が心地良い。あたしは無意識のうちに安心感を求めて、自分からカカシさんの厚い胸板に頬っぺたを擦りよせてしまっていた。

「ご、ごめんなさい……!」

カカシさんにポンポンされているうちにだんだん冷静になってきた。そこで、はっとして慌ててカカシさんから離れた。カカシさんの服に鼻水つけてしまっていないといいけど………
恥ずかしくて、カカシさんの顔を見れないでいるあたしの頭をもう一度ポンと撫でてカカシさんはにっこり笑って見せた。不思議と安心感が湧いてくる。

「落ち着いた?送って行くよ。」

そう言われて、あたしはまた現実に直面した。
だって、なんとなく視線を感じるようになったのは1ヶ月も前のことだったから。
最初は一週間に一度だけ、それがだんだんエスカレートしてここ最近は毎日後をつけられていた。
迂闊過ぎる自分をぶん殴ってやりたい………

「…………たぶん、家の場所…バレてると思う。」

こんなことになるまで放っておいた自分が悪いのだけれど、あの家に帰るのが怖かった。でも、どうしていいかわからなくて止まった涙がまた出てきそうになる。

「……っ」

怖くて不安で鼻の奥がツーンとしてきた。もう、涙がすぐそこまで込み上げてきている。
本当はもう少しカカシさんにそばにいてほしい……
けれど、そんな図々しいお願いをするのは憚られた。あたしはカカシさんの彼女でもなければ友人でもない。あたしはスナック木の葉の店員で、カカシさんはときどき同僚と来てくれるお客さん。そんな関係だった。

「うーん、困ったね…」

カカシさんは顎に手を当てて、眉を下げた。けれど目線はあたしではなくて、さっきあたしが指差した方を見ている。暗闇を見詰めるその目は鋭く光っていた。それから、あたしの方に向き直って、困ったように頭を掻きながら言った。

「あ〜、……ウチでよければ来る?」


こんな状況なのに不謹慎にもドキッとしてしまった、なんてカカシさんにはとても言えなくてあたしは誤魔化すように、ずびっと鼻を啜った。