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任務は無事成功した。
慣れない任務で疲れた様子のサクラちゃんを先に帰したあと、火影様に報告を終えたあたしとはたけさんはアカデミーの廊下を歩いていた。

「……」
「……」

無言で歩くあたしたちの間にはなんとなく気不味い空気が流れている。

あたしは、どうして引き留めたの?とか、あの人と付き合っていたの?とか、はたけさんに聞きたいことは沢山あるのに答えを聞くのが恐くて開きかけた口を何度も噤んだ。はたけさんは気の利く男のくせにこういうときに限ってなんにも言ってくれない……

「おい、あれってさ、苗字名前だろ?」
「色事のプロフェッショナルってやつだろ。思ったより童顔なんだな。あんな顔してエロいとかヤバくね?」

不意にすれ違った忍たちがあたしに好奇の目を向けている。こういうことはよくあった。……異性からは性の対象としか見られず、同性からは淫売女と罵られる。そんなこと一々気にしていなかったけれど、今日ばっかりは心無い声があたしの心に追い討ちをかけた。悔しいような泣きたいような気分になって唇を噛む。……やっぱりはたけさんもあたしのことを淫売婦と思ってたのかな。
あたしは自分で考えて、鼻の奥がツーンとしてくるのがわかった。もう、やだ!泣きそう!

「こーら、君たち。女の子にはもっと優しくしてあげないと。」

はたけさんは穏やかだけれど、どこか有無を言わさぬ声色であたしを冷やかした忍たちを一蹴した。彼らは「も、申し訳ありません!」と気まずそうに去っていく。

さっきまで黙っていたくせに………
はたけさんはどうしてこんなに優しいの……?あたしはますます困惑して本当に涙が出てきそうで鼻を啜った。

「あいつらに言われたこと泣くほど悲しかったの?」

その言葉を聞いた途端、我慢していた涙がどっと溢れだした。視界が涙でぐちゃぐちゃに滲んで前が見えない。はたけさんは「大丈夫?」とあたしの頭を小さい子供にするみたいにぽんぽんしている。優しくしないで!これ以上期待して傷つきたくないのに…!

「………っふ…ぅ……だって……はたけさん…何考えてるのかわかりません…!」

はたけさんはふぅ、と息をついて「名前、ちょっと来て。」とあたしを空き教室へ引っ張った。あたしは本当に意味がわからなくて睨み付けるようにはたけさんを見た。はたけさんは顎に人差し指を当てて眉を下げると「流石にあんなところで10歳も年下の女の子泣かせてるの見られちゃまずいでしょ。」と困ったように言った。

「で、名前は何がわかんないの?」

もう涙はひっこんでいたけれど急に真剣な顔になったはたけさんは妙な色気を孕んでいて心臓がばくばく音を立ててた。どきどきして言葉が出てこないし、はたけさんの質問になんて答えればいいのかもわからなくてあたしは部屋の隅っこを見詰めた。

「おーい、名前ちゃん?」

はたけさんは石になったみたいに硬直しているあたしの頬っぺたを人差し指でつんつんしながら、あたしの顔を覗きこんできた。

「…………やめてください。」

その顔があたしの反応を愉しんでいるような、にやっとした表情であたしはなんだか悔しくなった。そう思うと、うじうじ悩んでいるのが急に馬鹿みたいに思えてきて、思いきってはたけさんに疑問をぶつけた。

「……ねえ、はたけさん。任務のときどうしてあたしを引き留めたの?」

はたけさんは「はあぁ〜」と大きなため息をついて自分の額に手を当てた。あたしは、やっぱり面倒な女だと思われたんだと、また泣きそうになった。

はたけさんはまた、ため息をついた。それからあたしに一歩近づいてきてーー
そのままあたしを抱きしめた。

「………っ!」

身長差のせいではたけさんの胸板しか見えないし、相変わらずはたけさんはあたしの頭の上でため息を漏らしている。不安になるから頭上でため息をつくのはやめて欲しい………

「あんな変態野郎共に抱かせるぐらいならあのとき無理矢理にでも自分のものにしとくんだったと後悔してるよ……」

ーーそれって、どういう意味?
そう聞きたいのにあたしははたけさんの胸の中にしっかり納められていて聞く事ができない。必死にじたばたして、やっとのことではたけさんの顔見上げるとはたけさんの片方しか見えていない瞳と視線がぶつかった。心を射抜かれてしまったみたいになって、あたしは息を呑んだ。

「名前が好きってことだよ。」

聞く前に答えられてしまった。
はたけさんはいつものようにちょっぴり困った顔をしているのけれど、真っ直ぐあたしを見る瞳は熱っぽく揺れている。

あたしは信じられないのと、どきどきしているのとで言葉を発するまでにややあって……

「……え?ええ!?」

あたしが素頓狂な声を出してしまったせいか、はたけさんはあたしを抱きしめたまま「くくく!」と吹き出した。
あたしははたけさんのせいで泣いたり、どきどきしたり振り回されっぱなしなのにはたけさんときたら「ほんと、お前って可愛いね。」とあたしの頭をぎゅーっと抱きしめて笑っている。もう!絶対おもしろがってる!

「で、名前はどうなのよ?……好きでしょ、オレのこと。」

はたけさんはニッコリ笑って言った。……全くこの人は!あたしははたけさんに抱きしめられたまま、半眼になって不貞腐れた。

「…………もう、はたけさんなんか嫌いです。」
「え〜、傷つくなぁ〜」

はたけさんは、あたしの気持ちなんてとっくに分かりきっているくせに大袈裟に眉毛を下げて、悲しんでみせた。あくまであたしに好きと言わせたいらしい………

「……………まあ、好きですけど。」

自分でも可愛くないと思った。
だけど、はたけさんはそんなあたしの返答に満足気に笑って、抱きしめたままのあたしの腰を引寄せてさっきよりも体も密着させてきた。いつの間にか覆面を外したはたけさんの顔がぐっと近づいてきてあたしは少しも動くことができない。
……あたしとはたけさんの鼻先がぶつかりそうになったところで「キスしていい……?」と囁かれた。

「……っ、だ、だめ!」

口元の黒子が扇情的だし……というかはたけさんはイケメンすぎるし優しいし、断る理由なんてひとつもなかったのに、それでもあたしはなけなし理性を引っ張りだして、両手ではたけさんの顔を押し退けた。

「………あたしを抱いた夜、あの美人な人と付き合っていたの?」

一番聞きたかったことなのにずっと言う勇気が無くて、言えなかった言葉は案外、ぽろっと口から出た。それでもはたけさんの答えを聞くのは怖かった。

はたけさんはまた、ため息をついて「テンゾウのやつ……」と小さく言った。

あたしはさっきまでのどきどきとは違う、胸が切り裂かれるようなどきどきに襲われて、また泣きたくなった。

はたけさんは困った顔であたしを見た。そうしてきっぱりした口調で言った。

「付き合ってなかったよ。」

それから一呼吸置いて、こう続けた。

「……確かにアイツとは恋仲だったけど、名前の初めてを貰った頃には切れてた。」

あたしはにわかには信じられなくて疑うようにはたけさんを見上げると、はたけさんは相変わらず困った顔をしている。「信じてくれた?」と眉を下げたはたけさんはやっぱり格好いい。

はたけさんがあの日はあの美人と付き合っていなかったと分かって、ほっとした半面、あの人にもこんな風に優しさしくしていたんだと思うと、胸の奥の方から這い上がってくるような、もやもやとした感情が湧いてきた。
はたけさんの過去に嫉妬しても仕方がないのに、ついつい強がってしまうあたしは本当に可愛くない。

「 じ、じゃあ、キス…、してくれたら信じます…。」

キスして、と言うとはたけさんはにやりと笑って「ヤキモチ?」と言った。

頬っぺたをはたけさんの大きな手で包まれたかと思うと唇を重ね合わされる。

「ん…」

最初は唇をくっつけるだけのキスが、次第にお互いの唇を食むように変わっていく。あたしは薄っら目を開けてはたけさんの顔を覗き見た。すると、あたしの視線に気付いたはたけさんの目とばちんと視線がかち合う。ーーその瞬間、スイッチが入ったみたいに噛みつくようなキスをされた。

「…っ!?……んんっ…」

口の中にはたけさんの舌が入れられて、唇を離す度にちゅ、ちゅ、と濡れた音がする。はたけさんは驚くほどキスが上手で、あたしは段々と足が震えてきて腰が抜けそうになった。そんなあたしの腰をはたけさんはぎゅっと引寄せて、貪るようなキスを続けた。

「んっ…ふ……は…たけさん…もっ、むり…」

はたけさんとのキスはこれが初めてじゃないし、あの頃のようにキスの仕方を知らないわけでもないのに根を上げたあたしにはたけさんは「もうギブアップ?」と愉しげに言った。

「だって、はたけさん上手なんだもん。」

そうしたら、はたけさんは「名前も上手になったよ。」とふんわり笑った。それから、はたけさんは人差し指であたしの唇をふにっ、と押さえてーー

「でも、もう他のヤツには触らせないでね。」

あたしは未だはたけさんの腕の中から抜け出せないまま、これからもはたけさんに振り回されっぱなしの前途多難な未来を予感した。