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「うう…お腹痛い……」

あたしはベッドに丸まったまま今日が非番で良かった、と安堵した。
初めての性行為というものはこんなに疲れるものなのか…と驚くほど体が怠い。

こういうときは寝るのがいちばんの特効薬だと分かっているのに、眠ろうと目を閉じれば昨晩の情事が瞼の裏に浮かんでなかなか寝付けないのである。

はたけさんは最初から最期まで紳士的で素敵だった。
ベッドに優しく押し倒されて、キスされて……
息の仕方も分からない濃厚なくちづけに戸惑うあたしをオッドアイの双眼で熱っぽく見つめて「大丈夫…?」と笑うはたけさん…

「ああーーーー!もうっ!なに考えてんのあたし!」

脳内で自動再生される映像にひとりで恥ずかしくなって頭をぶんぶんと振る。
火照った頬に両手を当てると冷えた手が気持ちいい。なんか、熱でてきたかも………

ぼんやりと部屋の中を見廻すと、いつもと変わらない自分の部屋のはずなのに目に映るものがいちいちはたけさんを彷彿させた。
キッチン、お風呂場の磨硝子…
何を取ってもはたけさんのことばかり考えている自分が滑稽だ。
好きにならない、なんて言っておきながら一度、抱かれたぐらいで恋する乙女のようになるなんて……

「違うってば!好きとかそんなんじゃない!」

本当に好きなんかじゃない。
ただ、処女を奪われた相手があまりにもパーフェクトすぎるから、余韻に浸っているだけ…

ふと視線を移したベッドのサイドテーブルの上には水の入ったグラスと鎮痛剤が置いてある。早朝任務が入っていたのに「辛くなったら飲んでね。」と、あたしの家を出る前にはたけさんが用意してくれたものだ。

「ほんと、はたけさんってズルい……」
「ん?なんのこと?」
「ぎゃ!は、はたけさん!?」

「体調はどう?」と突然現れたはたけさんに素頓狂な声を上げてしまう。て言うか、この人どこから入って来たの?

「まあ、なんとか…」
「ウソでしょ。戸締まりもしないで寝てたのに?」
「……」

どうやらあたしは今朝、はたけさんを見送ったあと玄関の鍵を閉め忘れていたらしい。確かに、怠いし、お腹も痛いし、慣れない行為のせいで上手く歩くことさえ出来なくて、壁を伝ってずるずるとベッドまで行ったんだっけ…

「ま、ムリしないでちょうだい。」

レトルトのお粥やゼリーの入ったビニール袋をあたしの目の前に掲げて、ニコッと笑うはたけさんはやっぱりイケメンすぎて、やっぱり熱も出てきたような気がする……

「……任務はどうしたんですか?」

非の打ち所のないはたけさんを恨めしく思って、精一杯の皮肉を込めてみたけれど、ふんわりと笑って「終わったよ」と言われてしまった。
任務が終わってからわざわざ来てくれるなんて優しすぎるんだってば!本当にズルい!好きになっちゃうじゃない!

こんな事をされたらこの優しさはあたしだけに向けらたものかも、なんて見当違いな錯覚まで起こしてしまいそうだ。

「……はたけさんって誰にでもこんなに優しいんですか?」

あたしの質問にはたけさんはちょっと困った顔して「そんなわけないでしょ」って言うから益々、自惚れたくなってしまう。

「ま、名前は可愛い後輩だから、かな?」

軽くウィンクでも飛んできそうなぐらいにっこり笑うはたけさん……
淡い期待をしていなかったわけじゃないけど、でも、こんな躱し方ってズルくない!?