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「はたけさんって料理も手際いいんですね。」

大根をおろすあたしの隣でさっき魚屋さんで買った秋刀魚を焼くはたけさんにそう言うと、「料理も、ってどういうことよ?」と怪訝な顔をされた。あたしの家の台所ではたけさんと並んで料理をしているなんて何だか変な気分だ。

「だって、殺しも手際いいじゃないですか。」
「大根おろしながら殺しの話するのやめてよ。」
「すみません、つい。」

確かに料理をしながらするような話題じゃなかったな、といまさら思った。それにしたって、料理まで卒なくこなしちゃうはたけさんってどんだけ才能に恵まれてるの…
あたしは悔しいようなむかつくような気分になって、はたけさんに見つからないように小さく肩を竦めた。それからまた大根をおろすことに集中した。

しばらくして魚の焼ける香ばしい香りがたち込めて、自然と口の中に唾液が押し寄せてくるのを感じた。そのあまりにもおいしそうな匂いに気を取られてうっかり魚を焼くはたけさんを凝視ししていたみたいで、わたしの視線に気が付いたはたけさんにちょっぴり困ったようなあきれたような顏で「もーちょっとだよ。」と言われて恥ずかしくなった。





はたけさんが焼いてくれた秋刀魚に大根おろしを添えれば秋の味覚、秋刀魚の塩焼きの完成だ。

「おー!いい感じ!おいしそう!」

目を輝かせて言うあたしを見て、はたけさんはやっぱりちょっと困ってるみたいなあきれてるみたいな顏をしてあたしの向かい座っていた。なんだかお母さんみたいだ。それからふたりで揃って手を合わせる。

「「いただきます!」」
「んー!おいしー!」
「やっぱり、秋は秋刀魚だね。」

はたけさんと食卓を囲むなんて不思議な感じだ。秋刀魚をつっつきながら目の前に座るはたけさんをチラリと盗み見る。
……やっぱり、覆面を外したはたけさんイケメンだ。

「どーしちゃったの?また、ぼーっとして。」

あたしははっとして誤魔化し笑いを慌てて取り繕って、もっともらしい言い訳をひねり出す。

「あはは、すみません。なんか、はたけさんと兵糧丸以外のものを食べてるって不思議だなぁと思って。」
「確かに、そうかもしれないね。名前とは呑みに行ったこともないしね。」
「なに言ってるんですか、これでもあたしまだ未成年です!ピチピチのティーンエイジャーなんですから!」

暗部という部隊の性質上任務によっては時折、飲酒することもあった。けれど、あたしまだ未成年で公には飲酒は禁じられている。

「うわぁ…、なんか今、自分の歳を感じちゃったよ。」
「まあ、10も離れてますもんね…やっぱあたしなんて子供ですよね。はぁ〜あ…」
「溜息ばっかりついて、今日はどうしちゃったのよ。」

溜息の理由をはたけさんに打ち明けたかったはずなのに、いざとなると「任務を失敗ました。」なんて、はたけさんに言うの少し気が引けた。だけど、今、言わなければ今夜、はたけさんを呼んだ意味がなくなってしまう。

「実は、任務をしくじりまして…」
「名前が?珍しいね。」

珍しい、そう言われて急にはたけさんがあたしの悩みの核心に迫ってきたように感じて心がざわめく。実際あたしは任務でミスをしたことなどほとんどなかったし、あったとしても仲間を庇ったとか、そういう類いだ。でもあたしが今回失敗したの暗殺ではなかった。女の武器を使いあの手この手で情報を集めるーーいわゆる、色事任務というやつだった。

「あ、えっと… その… い、色で…」

色という言葉を口に出すだけ急に恥ずかしくなってしどろもどろになる。こんなことだから任務も失敗してしまうんだ。今回ばかりは修行に明け暮れて、大した恋愛をしてこなかった自分を恨んだ。

「五代目から色の命を受けて、もちろん五代目はあたしの意思を尊重するって言ってくれてたんですけど… 暗部に入って2年になるし、任務の幅も広がると思っていたんですけど、いざとなると怖くて気持ち悪くて… 結局、殺しちゃったんですよね…」

どんよりした気持ちで重たい口を開いた。ぽつりぽつりと話している間もはたけさんは箸を止めて、きちんとあたしを見据えてくれていた。
もちろん、必要な情報は引き出した上で殺しているから結果的には失敗というわけではないのだけれど、殺す予定のない人間を殺してしまったから他の部隊の動きが制限されてしまった。
本当に情けない話だ。
男女の情事がどんなものなのか知識の上では知っていたけれど、小太りで薄くなった頭に脂汗を滲ませている男に馬乗りされた途端に怖くて気持ち悪くて全身が粟立った。日頃あれほど他人の血肉を浴びているというのに…
けれど、正直、あんな男とヤらなくて良かったとさえ思えてくる。

「ま!気にすることないでしょ。結果的に任務は成功したんだし。それに暗部に2年いるって言っても名前はまだ16歳なんだしムリして色に出る必要ないよ。」
「…五代目にも同じこと言われました。はあ、こんな事なら彼氏のひとりやふたり作っとくんだった…」

「いや、ふたりいたらダメでしょ。」と眉毛を下げて苦笑するはたけさんは手を伸ばしてあたしの頭をぽんぽんしている。なんだか、子供扱いされているみたいだ。はたけさんから見たらあたしなんて子供なんだろうけど!

「子供扱いしないでください!」

はたけさんから見てもやっぱりあたしはお子さまで色気とは無縁なんだ…。そう思ったら悔しくて思わずむすっとしてしまったけれど、はたけさんの手は心地良い。当のはたけさんは「ごめん、ごめん。」なんて全く悪びれもしないで笑っている。

10歳も年下のくのいちが色事任務に失敗した、なんて話、色気も何もないし、下手すればロリコンなどと言われそうなものなのに…
はたけさんは穏やかな微笑を湛えて、あたしの話を最後まで聞いてくれていた。本当に紳士的だよなぁ、しかもイケメンだし。あたしの初めてもこんな人だったら良いのに。
思考回路があらぬ方向へ脱線したついでに、ふと、五代目の言葉が脳裏を過った。


「まっ、1発ヤれば、100だろうと1000だろうと変わらないんだがなぁ…」


さすが綱手姫というか…
ものすごく爆弾発言だけれど、目の前にいる顔良し、実力良し、性格良しの非の打ち所がない、はたけさんを見ていたら彼にだったら処女を捧げても良いような気さえする。

いやいやいや!なに考えてんのあたし!そんなのダメに決まってる!
大体、10歳も離れているあたしなんか相手にされるわけない。なんたって写輪眼のカカシなわけだし。里の外まで名の知れている忍なんだから。

「名前ほんとに大丈夫?なんか、難しい顔してるけど…」
「へっ!?あ、いや!大丈夫です!」

邪な煩悩を追い出そうと慌てて首を振る。
そ、ならいいけど。と笑うはたけさんを見ているとやっぱり初めてはこの人が良い、なんて感情が頭の中を支配する。

それに、はたけさんとあたしの家でふたりきっりなんて、千載一隅のチャンスもうないかも…

「ねえ、はたけさん…、あたしの初めてもらってくれませんか……?」

気がつけば、考えるより先に行動していた。
心臓が張り裂けそうなぐらい脈打って、声も震えていたかもしれない。
唇をきゅっと引き締めて懇願するようにじっ、とはたけさんを見つめる。

握りしめた拳に爪が食い込んで痛い。

「…名前、自分を大事にしなさいよ?」

はたけさんは、あたしの握り締めた拳にそっと手を重ねて、爪痕がついてしまった手の平を親指で優しくなぞって諭すような眼差しであたしを見ている。

「それにオレ、名前から見たらオジサンよー?」

眉毛を下げて冗談っぽく笑うはたけさんは全然おじさんなんかに見えない。
あたしは意を決して、はたけさんの手をぎゅっと握り返した。

「一生のお願いです!今夜のことではたけさんのこと好きになったりなんてしません!迷惑はかけません…!だから…!」



ーあたしを女にしてくださいー


2020.0507加筆修正