大嘘つきの告白


1.

 折原臨也という人間は、吐き気のするほど下種で最低な男だ。楽しそうだからというただそれだけで人の一生をたやすく握りつぶし弄ぶことのできる頭のおかしい男なのだ。

 だが悲しいかな、彼は非常に見目麗しい姿かたちをしており、その気になれば幾らでも他人を引き込むことのできる美しい声と話術も持っていた。ひとたび臨也が優しげな笑みを浮かべ甘い声色でその耳元に囁けば、大抵の人間はその腕の中に落ちてしまう。

 つまり、折原臨也は魅力的な男だった。常に傍には一定の数の女性がいる。捨てられたにもかかわらずその愛を得ようと信者のように彼を崇拝する者は後を立たない。一度だけ見かけた秘書も大人びた怜悧な美人で、彼と対等に言葉を交わし皮肉をぶつけ合っていた。

 女に生まれたかったと血を吐くように思う。もし女に生まれていれば、あの男は静雄の力に興味を示し、完全に手に入れるための手段を必ず行使したはずだ。他の女にするように甘い言葉を降り注ぎ、容易く静雄を組み敷いて、自分の女にしたはずだった。その様を想像の中で何度もなぞる。きっと彼は体と言葉で自分を覚えこませて、静雄が離れられなくなるまで口づけと手酷い愛撫を繰り返す。溺れきって戻れなくなって惨めな姿で愛を請えば、化け物が完全に手に入ったことをきっと彼は喜ぶのだろう。そして静雄も、使い捨てられていると知って、並み居る女たちの末席に加えられたことを喜ぶのだ。時折気まぐれに伸ばされる手の冷たい温度だけを、何よりの頼りに。

 遊び相手でいい捨てるべき対象でいい、利用されても構わない、それだけで十分だというのに。この体はどうしようもなく男で、身長だってあの男より高い。筋張った手指が、張り巡らされた筋の筋が憎かった。


・・・


「女になる方法?そんなものないよ」

 闇医者はひどくあっさりと静雄にそう言ってのけた。

「確かに性転換手術とか、手段がないわけじゃないよ。でも君の体がメスを通すとは思えないし、それにああいう手術って完全なものじゃないんだ。ホルモン剤の投与とか必要だしね。君の体にホルモン剤なんてものが効くとも思えないよ。どうしてそんなことを突然聞くのかわからないけど」

 わかってんだろ、と言いたいのをこらえて静雄はうつむく。新羅はこう見えて鋭い。誰より近くで臨也を、そして静雄を見てきている。静雄のまなざしの向かう先もその意味にも間違いなく気づいているはずだった。分かっていて言っているのだ。
 無駄だからと、諦めろと、そういう意味なのだろうか。
 拳を握ると、掴んだ机がミシリと嫌な音を立てた。

 やめてそれ高かったんだから、慌てたように静雄を制止しながら、新羅は立ち上がって奥の部屋に姿を消す。追うべきなのかそれとも帰るべきなのかと迷う間もなく、すぐに新羅は戻ってきた。手には小さな紙袋が握られている。
 ねえ静雄、いつになく真剣な声で新羅は言った。君が女になる必要はないよ、と。

「これはね、強力な媚薬なんだ。相手をひどく興奮させて、相手が誰だか区別もつかないような状態に追い込めれば、それで君は本懐を遂げられるんじゃないの」

 しんら、てめえ、呟く声はかすれてうまく音にはならなかった。

「受け取るの、受け取らないの」

 せっつく闇医者の瞳には憐憫ではなく、奥深い理解と共感の色があった。繋がらないとわかっている感情を抱き続ける苦しみなら、彼も誰より知っているのだ。
 伸ばした手に握らされた小さな紙袋。中には白い粉が入っていて、揺するとさらさらと音を立てた。これが正しい手段なのかどうかは分からない。わからなくても、もう戻ることはできなかった。

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