だってまわりの声が、何もかもがうるさかったんだ。

まわりの声を聞き取る耳なんて要らない。君の声だけを拾い上げられれば、それでいい。




「珍しいな、お前がそんな、まるで夢物語を語るなんて」
「そんなことないよ、だっておれはいつだって夢しか描いていないもの。人間だからね」
「ふぅん…?よくわかんねえ」
「まあ、それでいいんだよ、シズちゃんは」
「ばかにしてないか?」
「してないしてない」

二人で寝転がったベッドには、心の中で謝っておいた。
男一人を乗せるために作られたそれには、いささか働かせすぎている。早々に過労死してしまうのではないだろうかと考えて、目を閉じた。
夢、これは夢だ。
ぱさりと白いタオルケットが、目の前の片割れの肩から落ちた。

「臨也?」
「夢でいいんだよ」
「は?」
「夢見てしまったものは叶わない、おれはそう思ってるから」
「?なんだ、臨也にしてはずいぶんと消極的すぎるな」
「おれはいつだって消極的で控えめなつもりだけど?」
「どの口が言ってんだよ」

白い天井を見つめながら仰向けに寝ていたおれの頬を、横からのびてきた細長い指がつまむ。
くあっと気だるげにあくびをした片割れを盗み見て、また染みひとつない天井に視線を戻す。


今、現在。
それは夢のように、白いレースのカーテンが揺らぐ昼下がりでもなければ、お洒落に今流行りの音楽がラジオから流れてくる昼時でもない。
ましてや蜂蜜色の光の差し込む涼やかな起き抜けでもない。

カーテンなんて片割れと適当に選んで決めた青色の分厚いものだし、ラジオなんてそんなもの持っていやしない。
それに起き抜けなんてとんでもない、昼寝にも遅すぎる時間。やわらかな光なんて入ってこない。

夢のようにはいかない、わかっている。

「いざや」
「……」

言いたいことはわかってる。
言葉にしなくたって伝わる。
おれはきみがすきで、きみはおれがすき。
こんなに通じあってるのに、こんなにもすれ違ってる。

だって結局こんなおれの思いだって、まるで乙女の見るような、淡い淡い夢なんだ。

「それをばからしいとは思うけど、」
「……」
「それでもおれはしずちゃんがすきだよ」

ああなんて非生産的な愛なんだろう。
祝福なんてもらえない、ふたりぼっちの、ちっちゃなちっちゃな思い。
笑ってやろうとして、目を伏せて、失敗することに気づく。
目の前が、真っ暗、真っ暗?

「っわぷ?」
「なあ臨也くんよぉ、教えてやるよ」
「?っ、?」
「夢は叶えるためにあんだろ?」
「あ…?」
「叶えるために、あるんだろーがよ」

ばさっと音を立てて晴れた視界には、くしゃりと顔を歪めて笑っている片割れの顔。
そこでやっとくるくるとタオルケットに巻かれていることに気づいた。
「え、ちょ、なにして…!」
「たくさんの祝福が欲しいか?」
「!」
「認めて、欲しいか?」
「……」
「別によお、おれとお前、主役が揃ってたらそれでいいんじゃねえか?」
「しずちゃん、」
「叶えてしまえばいいだろ、夢を」

そのままちゅっと口付けられ、片割れはそっぽを向く。
言いたいことを瞬時に理解したおれは、思わず苦笑して、もうひとつのタオルケットでおんなじように包んでやった。
そっぽを向いたきみの頬は、ほんのりピンクに染まっていて、こつんとおでこをくっつけた。

夢見たっていいじゃない。

「誓いの言葉より先にキスしちゃううっかり屋さんなハニーは君かな?」
「うっせえ二人しかいねえんだから順序なんか知ったことあるかよダーリン」

今、現在。
白いタオルケットが、純白の衣装。君を飾るドレス。
それでいいんだ。


夢に見た、
20110729







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