へたくそでいいよ、と心では 

※少しエロっぽい


一人の青年が一人の青年に口付ける。
まるで鏡越しのように二人は瓜二つ。
だが表情は僅かに違っていた。

「ん、ん……!う…」

キスを受け入れていた青年が苦しげに喘ぎながらもう片方の青年の胸元を叩く。
もう一人は些か不満気にゆっくり口を離した。

「…兄貴、本当にキス苦手だよな」
「うるせぇ黙れ」

ふい、と顔をそらす兄であろう者は不機嫌そうな顔をした。
そもそも俺が受け入れる側っていうのがまず気に食わねえとぶつぶつ唱える兄に「そんなこと言って一番嬉しそうなのは兄貴だろ」と言ってしまいそうになるのを必死に呑み込む。

「んじゃ、練習するか」
「………は?」

目を見開いてこっちを向いた兄の顎を持ち上げキスをする。

「!!!っ…!」
「っは…兄貴、ちゃんと息吸って」

すっと口を離すと蕩けたような目が自分を見つめていた。
ほら、嬉しそう。そう口元が吊り上がる。
息を細切れに吸ったのを確認してもう一度キスをすると、さっきとは違い合間合間を縫って上手く息を取り入れているのが分かった。
お、少しは上手くなったな、なんて声をかけると兄は少し満足そうに笑った。

「じゃあ、次は」
「あ?次って…んん!」

再び口を塞ぎ、更に舌を忍び込ませる。

「ん!んぅっ、ふぁ、ァ…っ」
「はぁ…っ、兄貴、息、吸って」

舌を絡ませて、滑り込ませて。
口内を舌で愛撫するように撫でると兄はただ弟に腰を抱かれ仰け反る事しかできないようだった。

「ひっ、むり、あっあ…んっ、ふ」
「兄貴」
「あ、あ…!」

ぴくん、と一際大きく身体を跳ねさせるとぐったりと弟にその身を委ねた。

「兄貴大丈夫かよ?」
「…大丈夫に見えんのか?」
「いや?
にしても兄貴キスに弱すぎじゃねえの?」
「それ、は…!っていうか左近が急に深いのをしてくんのがわりぃんだろうが!」

ギロリと睨むが身体には力が入っていない。そもそも術は自分の方が上だとしても物理的な力の面ではどちらかといえば弟の方が少し上なのだし、力が入らない今ではもうどうしようもできない。

「兄貴が可愛いからいけない」
「はァ!?テメェ何言って…」
「はいはい分かった分かった」

とりあえず慣れるまで練習しようぜ、なんていいながら再び腕の中にいる兄にキスをしながら一生慣れませんように、と心に願った。


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