その日の帰り道。
「…………」
緑間は困っていた。果てしなく困っていた。今日は子供になった紫原を、家に連れて帰らねばならない。そこで、一つの問題が生じるのだ。
──親になんて言えばいい?
家に連れて帰ると、まず親に聞かれるだろう。
当然だ。息子がいきなり見ず知らずの子供を連れて帰って来たら、誰でも疑問を抱く。
黒子と黄瀬は都合良く親がいなかったらしいが自分もそううまく行くわけが──
プルルルル…プルルルル…
電話だ。この忙しいときに誰だ?
「紫原。電話をするから少し静かにしているのだよ」
「うんー」
紫原は27本目のまいう棒(今食べているのはエビマヨ味)を、サクサクと食べながら返事をする。
「もしもし……え?…今夜は同窓会でいない?…はい………母さん、今日、諸事情で子供を預からなければならないのだが……はい」
(都合良く親が出掛けた……しかも預かる許可も取れたのだよ)
なんという好都合。まるで漫画や小説だ。
「さて、紫原。家に帰るぞ……ケーキ屋から離れるのだよ」
「ケーキぃー……」
紫原の首根っこをつかみ、引きずるように歩く。
「……ケーキなら明日食べさせてやる」
「ホント!?」
「あぁ」
紫原が目を輝かせる。
お菓子好きもここまで来ると呆れる。
「今日のラッキーアイテムは生クリームだからな」
サッとカバンから出したのは生クリーム(パック)だ。
帰りに今日の夕飯の材料を買うためにスーパーに寄るので、そこでスポンジなどを買えばすぐにできる。 本当は捨ててしまうつもりだったのだが、折角なので使おう。
「お兄ちゃんありがとー」
ぎゅうっ
足に紫原が抱きつく。
「歩きづらいから退くのだよ」
「じゃあだっこー」
引っ付くか抱き上げるしか選択肢はないのか。
このまま引っ付かれた状態で歩くと、人目を引く上に、移動速度が遅くなる。合理的ではない。
「…仕方あるまい」
「わーいだっこだっこー!」
緑間は、紫原を抱き上げた。
普段は自分より身長が高い彼を、抱えることになろうとは。
「みどりのお兄ちゃん」
「俺はみどりのお兄ちゃんではない。緑間真太郎なのだよ」
「……みどちん?」
「…もうそれで良い。で、なんなのだよ」
「ありがとー」
ちゅっ
紫原が頬にキスをする。
「な……っ!」
緑間絶句。
「みどちん? はやくいこーよ」
「…………」
脳内がフリーズしたままの緑間は、訳の分からないままスーパーに行き、買い物を済ませ帰宅した。