「桃井、これはどういうことなのだよ」
「桃井っち、これ誰ッスか?」
「桃井さん、説明してください」
緑、黄色、水色の髪の三人が、桃色の女子に詰め寄る。
「えーと……」
「なんで倒れてるんスか!?」
黄瀬が指差す場所には、赤、青、紫のカラフルな頭の三人が倒れていた。
否、倒れている上に、なぜか小さくなっているのだ。
「しかも小さくなっているのだよ」
緑間が、眉間にシワを寄せながら、クイッと眼鏡をあげる。
「さ、差し入れを食べてもらったんだけど、いきなり倒れて……ははは」
「ははは、じゃないっスよ! どうするんスかこれっ」
「…………………」
あはは、と乾いた笑みを浮かべ、桃井が衝撃の一言を投げ掛ける。
「私、今日はどうしても外せない用事があるの……。だから、よろしくねっ!」
ポン、と黄瀬の肩を叩き、ダッシュで逃げる。
「えっちょっ……桃井っち!?」
「な………っ」
「……逃げられましたね」
バスケ部部室に、重い沈黙が訪れる。
「「「…………………」」」
「………とりあえず、三人を起こしましょう」
「そうっスね」
「あぁ」
床に倒れている三人を揺さぶる。
「赤司くん、起きてください」
「青峰っち、起きるっスよ〜」
「紫原、起きるのだよ」
すると、もぞもぞと動いて、三人が起き上がる。
「う〜ん……? ここ、どこ?」
「ふわぁーっ。さつきぃ、あとちょっと……」
「あれー? お菓子はー?」
赤司はすぐに立ち上がり、周りを見渡している。
青峰はぎゅっと小さくなってもう一度寝ようとし、寝ぼけている紫原は、お菓子の夢を見ていたようだ。こんなところまで個性が出ている。
「バスケ部の部室です。赤司くん、大丈夫ですか?」
赤司の肩が出ていたので直してやると、また衝撃の一言が赤司の口から飛び出す。
「………お兄さんたち、だれ?」
キョトンとした顔で赤司が尋ねてくる。
「!?」
「記憶がないのか…?」
「マジっスか!? 青峰っち、起きるッス!」
嫌な予感が背筋をガクガクと青峰を強く揺さぶる。
「んっ…なんだよ……」
目を擦りながら起き上がり、唇を尖らせる。
「俺っス、黄瀬涼太! 黒子っちと緑間っち、わかるっスよね!?」
「?」
「やはり、青峰くんも…ということは……」
三人の視線が紫原に集まる。
「………だれ?」
「やっぱりっスかぁぁ…」
黄瀬がガックリと膝をつく。
そこに、ぐきゅるるるるー、と大きな音が響く。
「おなかすいたー。おかし、ない?」
紫原が困った顔をしている。
「確か紫原くんのバッグにお菓子が入っています」
「これか? ほら、まいう棒ラー油トマト味なのだよ」
「わーい。ありがと、みどりのお兄ちゃん」
「お兄ちゃ……っ!?」
緑間が絶句する。
紫原がサクサクと食べていると、また、ぐきゅるるるる、と音がする。しかも二回。
「……紫原、お菓子を分けてやっても良いな?」
「うん? いいよー」
口をもぐもぐさせながらオーケーサインを出す。
「ほら、二人とも」
「くれんの!?」
「食べても大丈夫なの?」
「あぁ」
そう言って渡すと、二人とも嬉しそうに食べ始めた。
「さて、今日は三人を家に返せないな……」
緑間がますます眉間のシワを深くする。
「一人ずつ家に泊まらせるしかないんじゃないっスか?」
椅子に座り、まいう棒を食べている三人を見ながら黄瀬はため息をつく。
「では、誰が誰を連れて帰りますか?」
「三人に決めてもらった方が良いっスよ。青峰っちたち!」
「なに?」
「今日、青峰っちたちは俺たちの家に泊まるんスけど、誰ん家が良いっスか?」
しゃがんで目線を合わせて聞くと、赤司が大きい服で歩きづらそうにしながら黒子の足元に行く。
「ぼくは、このかげがうすいお兄さんがいい。いちばんしずかそうだし」
「僕、ですか。わかりました」
「おれはチャラいにいちゃんがいい! おもしろそうだし」
ニカッと笑いながら
「チャラくないっス! オッケーっスよ。じゃあ、緑間っちは…」
「おれ、みどりのおにいちゃんがいいー。おかしくれたし」
てこてこと近づき、緑間の手を握る紫原。
「はぁ……。わかったのだよ」
諦めたようにため息をつく。
「それじゃあ、決まりですね。帰りま……」
そこまで言いかけて、黒子が口をつぐむ。
「……服、どうします?」
「「あ」」
失念していた。
身体は小さくなったものの、服は大きいままなのだ。
「そーっスよ、服!」
「買いに行くしかないのだよ」
「急いでいきましょう。あと二時間は体育館開いてますから、急げば間に合います」
「三人とも、お利口にしてるんスよ? ここから出たら駄目っスからね!」
「「「はーい」」」
黄瀬たちは、子供服を買うべくダッシュで近所の服屋に向かった。