Novel
輪ゴムで前髪結ばれた



ある昼休みのこと。
屋上で昼寝をしている蘭丸を見つけた僕は、たまたま手に持っていた『それ』で、あるイタズラをした。

……いつ気付くかな、このバカは。





 昼休みが明けてから、いやに人がこちらを見てきやがる。

「あ? 人の顔ジロジロ診てんじゃねーよ」

「い、いえ、黒崎さん。その…」

「なんか付いてんのか?」

「蘭ちゃん、とりあえず一度鏡を見ることをおすすめするよ。洗面所で見てくるといい」

「ああ。……ったく、今日は会うやつ会うやつ笑ったり顔が凍りついたり、訳わかんねぇ………」

ったく、なんだってんだ。

 十秒後。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!?」

「気づいたみたいだね、蘭ちゃん」

「前髪が輪ゴムで結ばれてやがるっ……! おい聖川。俺はいつからこんなもん着けてた?」

「確か、今朝は着けていませんでしたから、昼休みの間かと」

「昼休み………屋上で昼寝したときか!」

『そうだよー、蘭丸』

「「!?」」

『やだなぁ、そんなびっくりしないでよ。三人とも』

 コイツは作曲家の仰上彩輝。社長のスカウトで連れてこられて、すぐ人気が出たやり手の作曲家だ。だが、まだ12歳でランドセルを背負ってやがる。そのくせ、人を小馬鹿にしてるが、作曲の腕は……まぁまぁだ。

「テメェ……どっから入ってきやがった!」

『玄関から』

おちょくってんのかコイツ………!

『僕との打ち合わせすっぽかして、昼寝なんかしてるからだよ。バカ蘭丸め。君が頼んできたんだろ!』

「は? お前との打ち合わせは15日だろ」

『15日に仕事入ったから、今日にしてくれって言っただろ!? 君はまた空腹で上の空になって聞いてなかったのか?』

「あー……そうだったか?」

 本気で覚えてねぇ。

『……もういい。この曲は聖川くんに歌ってもらう。君にはしばらく提供しないから』

「え?」

 驚く聖川と、眉間にシワを寄せ、席を立つ彩輝。

「っ、ちょっと待て!」

『君は僕以外の人から曲をもらいな。じゃあね、バカ丸。あ、聖川くん。この曲を歌ってくれるかな?』

「お、おい!」

「し、しかし……」

『バカ丸は気にしなくて良いよ。コイツは肉とロックとベースと肉しか頭にないんだから。さ、こっちこっち』

 おいコラ肉って二回言ったぞ!

「ま、待ってください彩輝さんっ」

ずるずる引きずられていく真斗。

「………………」

「蘭ちゃん、ドンマイ」

「うるせぇ……」






 その後。
 俺は自腹で五線譜と新しい弦を買って謝りに行った。
 五線譜と弦、そしてとある「お願い」を聞いたら、曲を作ると約束した。
結局あの曲は聖川が歌うらしいが、もっと俺らしいロックな曲を作るらしい。


 ちなみに、その「お願い」は──


『蘭丸、このページの問い3がわかんないんだけど……』
「そこはさっき解いた文章問題の応用だ。解りづらいが、ちゃんと書いてあるだろ」
『なるほど……合ってる?』
「ん、オーケーだ」


学校の宿題の手伝いだった。


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -