Novel
人の気も知らないで
今日は、事務所の後輩兼、元生徒である新人アイドルの#深海##彩綾#が、うちに来ている。
先ほどまでソファーに並んで座り、軽く仕事のレクチャーをしていたのだが、ここ最近仕事が立て込んでいたらしく、うつらうつらとし始めた。普段は自己管理をしっかりしているので、相当疲れが溜まっているのだろう。
「#深海#、寝るならせめてベッドで寝ろ。風邪引くぞ」
『ん〜…』
ついには俺の肩に寄りかかって寝始めた。
「ん〜じゃなくて。ほら、起きろって」
『やっ』
「やってお前な……」
…そうだ、コイツは一度寝たらなかなか起きないんだった。昔も授業中に寝ては叱っていた。まぁ寝不足の理由は大概の場合、社長のムチャぶりや他の誰かのためだったが。
俺に身体を預けて寝息をたてている#彩綾#はとても安心しきっているようだ。
『ひゅーがせんせ……』
寝言で俺の名前を呼ぶ。
先生、という呼び方は卒業したときに止めた。今は龍也さん、と呼んでいるので、学園時代の夢でも見ているのだろうか。
「しかしなぁ……」
ここまで安心されてしまうと、男して少し情けない気もする。
それにしても困った。起こすのもなんだか可哀想だし、だからと言ってこのまま寄っ掛からせて寝かせるのもどうなのだろうか。
『りゅーやさ…』
モゾモゾと動き始めた。起きたのだろうか。
「起きたならベッドに……」
『にー……』
期待とは裏腹に、起きたわけではなかった。俺の膝に頭を乗せて(いわゆる膝枕だ)、そのまままた寝てしまった。
にー…ってなんだ。いやいやそれよりなんで膝枕!?
流石に焦る。俺もコイツも一応アイドルなのだ。自宅なので撮られる危険は無いものの、これはマズイだろう。
『…すぅ……すぅ……』
俺の気も知らないで、すやすやと眠っているコイツが憎らしい。
仕方がない、起こすか。
「#深海#、」
起きろ、と声をかけようとした俺に、#彩綾#は爆弾発言をした。
『りゅーやさん、好き……』
「す……っ!?」
好き? #彩綾#が俺を?
いやいや落ち着け俺。違う、そういう好きじゃない。今コイツが言ったのは敬愛の意味であって恋愛じゃない。たとえ俺が実は学園時代からコイツのことが好きだったとしても#彩綾#が俺をそういう意味で好きなわけじゃないはずだ。
あーもう俺は何を考えているんだ!!
『大好き……』
大きなため息をつく。
「……チクショウ…」
#彩綾#の頭を撫でる。
「俺もお前が好きだよ、#彩綾#」
眠っている#彩綾#の頬にキスをした。
『龍也さん、おはよ。寝ちゃってすみませんでした』
「いや、かまわない。疲れてたんだろ?」
(役得だったし、な)