Novel
女装‐それは…
1ページ目に至る。
『クッソォ……! なんで俺が女装なんて……』
屈辱だ。俺なんにも悪いことしてないのに。
ちなみに着替えは俺の意識がブラックアウトしている間に、たまたま近くでロケをしていた林檎がやったようだ。
そして起きたらご覧の通り、女性用の和服姿だった。大人っぽい黒の生地に、今の季節にピッタリの紅葉やイチョウが描かれている。金で描かれた曲線が美しい。
しかもご丁寧に髪もバッチリだ。化粧はされていなかったが、癖っ毛の黒髪は綾紐でポニーテールにされ、かんざし(じゃらじゃらしておらず、シンプルなものだ)が刺さっていた。
「ハーイ、ご対面よぉ♪」
最後の砦である仕切りのカーテンが開けられ、視線が俺に突き刺さる。
『…………見んなよ』
あ、カメラ回ってやがる。あとで社長に慰謝料という名の多額のギャラ払わせてやる。
チキショウ…。
「わぁ、綺麗だよ彩輝!」
目を輝かせるなダメ犬。
下半身見てみろテレビで見せられないようなことになってるから。
「あぁ、美しい、な…」
真斗、目をそらしてくれるのはありがたいが顔が真っ赤だぞ。
「彩輝くん、可愛いですっ!」
那月テンション高いな……おいおいそんなに頭を振るな、眼鏡が外れるから。
「似合っていますよ」
顔だけはクールで冷静にさらっと言ってるように見えるけど、そのワキワキさせている手をどうにかしなさい。気持ち悪いから。
「ほぉ……うなじが綺麗だ」
いっぺん死ね。……っと、うっかり本音が。あと流し目でウインクしないでくれ鳥肌が止まらない。
「えっと、その、なんか……色っぽいな」
顔を赤らめているのは真斗と変わらないのに、翔はものすごくガン見してくる。穴が空きそうだ。
「ファンタスティック! これが日本の和服ですか? とても美しいですっ」
お前の頭がファンタスティックだよ。男が着て美しいもんじゃないからな? 本当は女性が着るってわかってるよな?
「うっわぁ、大和撫子ってヤツだよね!」
俺は日本男児だ。間違っても大和撫子ではない。あとで嶺二殴る。
「女みてぇだな。俺は女は嫌いだが、お前なら……」
蘭丸、ホモになりたくなければ自重しろ。聞かなかった事にしといてやるからそれ以上言うんじゃない。
「彩輝の体つきは華奢だから、女性用の和服もすんなりきれるんだね。彩輝くらい華奢だと、レディースもいけるんじゃない?」
やめろ想像したくもない。つかジロジロ見るんじゃない、頭の先から爪先までじっくり眺めるとかエロ親父か。
「似合わんでもないな。その辺の愚民どもよりはマシだ」
そーかそーか、音也と同じことになってるお前が言うと説得力の欠片もないね!!
「ミーの見立てどうりデース! Mr.ソラカミはその格好のまま一日を過ごしてクダサーイ」
『ふざけんな今すぐ着替える』
「洋服は預かりマシタ。これも番組のためデース、我慢我慢よ」
『パンツ一枚のがマシだ。脱ぐ』
「させましぇーん! ……仰上。仕事だ、やれ」
おっふぉい真面目ヴォイスきた。断ったらクビのパターンじゃね? え、クビとか理不尽だ酷い。
『……二度としないからな』
「わかってくれて何よりカニよりアワビより! ミーは帰りますので、ホテルに一泊して帰ってきてクダサーイ。はい、解散っ」
ロケ終了。
……俺、明日まで貞操守れるかな……。
「彩輝、抱かせて!」
『音也は直球だなー。却下に決まってんだろ馬鹿野郎』
「彩輝くん、ギューッてしてもいいですか?」
『那月はギューッてしたついでに服を脱がせた前科があるから駄目だ』
「オイ、こっちこい」
『蘭丸の膝に座れと? お前の下半身がテントを張ってなくてもお断りだ死ね厨二病が』
あらゆる追っ手から逃げ切り、無事貞操は守りきりました。