Novel
俺の精一杯
またまた日向目線
「っと、こんなもんか?」
ざっとできばえを確認して、息を吐く。
わりといい仕事をしたと思う。長い髪を見慣れていたから、若干の違和感は拭えないが、短髪もよく似合っている。
「それにしても、よく寝てんな、コイツ」
つん、と頬をつついても、起きる気配はない。
「彩綾、起きろ。切り終わったぞ」
肩を揺さぶり、起こす。なかなか起きないので大変だ。
「彩綾、お・き・ろ!」
『……う? 終わった?』
「ったく、やっと起きたか。終わったぞ。こんなもんでどーっスか、お客さん」
あくびをし、鏡をじっと見つめる彩綾。
『んー……オッケー! ありがと順平、いい仕事したじゃん』
「はいはい」
『てか、首筋寒っ!』
「冬にばっさり切ったからだろ」
『短髪とかいつ以来だろ』
「小2の8月から切ってないだろ。約束したのが、その頃だ」
『そーだそーだ。友達とか笑うかな?』
「似合ってるから、驚きはしても笑いはしねーだろ」
『あ、「俺の腕が良いからだ」とか言っちゃう?』
「言わねーよ、ダアホ」
人をからかうとき、目を少し細める、彩綾のクセ。多分、俺以外は──本人すら──知らない。
『順平、これからもよろしくね』
「あーはいはい。わかりましたよっと………お前の髪は、俺が一生切ってやる」
サラ、と告白してみた。ずっと好きだったのだ。言ってもいいだろう。
これが、今の俺の精一杯の告白だ。
『お、言うねー』
案の定、気づかれなかったが。
──そのあとは、久しぶりにうちで飯を食った。食った後はゲームして、結果は惨敗。
まったく動揺もせずに普通にゲームしたアイツと、告白して内心そわそわしっぱなしの俺じゃあ、惨敗するに決まっているのだが。
少しは、前進できただろうか?