Novel
俺の精一杯
夢主目線
私たちと入れ替わるように上に行ったおばさんたちが見ているテレビの音が聞こえる。
そして、シャキ、シャキ、と耳の近くで音がする。
昔から、この音は大好きだ。
小さい頃は、このお店で髪を切ってもらう度、寝てしまっていたのを思い出す。
でも、1回だけ行った違う床屋さんでは全然眠れなくて、しかも自分が思っていた髪型と違う! と泣きわめいた記憶がある。
順平と約束をした日から、毛先以外はまったく手をつけていなかったので、このお店で髪を切ってもらうのも久しぶりだ。
なんだか、だんだん眠くなってきた。
『んぅー…』
「彩綾、眠いのか?」
『うん……』
「あー、昔はよく寝てたなお前」
『ハサミの音は子守唄ー』
「意味わかんねぇよ」
笑いながらも、手は止めない。
「髪型は勝手に決めるぞ。切られたとこの髪に合わせるからな」
『おっけー。よろしく頼むのだよっ』
「お前なぁ……」
苦笑いを浮かべる順平の顔が鏡に映る。
『ねー、じゅんぺー』
寝ていい? と聞こうとすると、
「……ん。わかった」
聞く前に返事が返ってきた。
『流石は幼なじみだね』
「だろ?」
あ、ちょっとどや顔した。
『じゃ、おやすみー』
目を閉じると、スッと自分の意識が沈むのがわかった。