数日後。
「ねぇねぇ、今日は午前だけしか授業ないし、すっごく良い天気だから、みんなで屋上でご飯食べない?」
音也の鶴の一声により、今、俺たちは屋上で弁当を食べている。 メンバーは、俺、音也、真斗、那月、そして新メンバーの翔だ。 今日の昼ご飯は、俺のお手製のお弁当。
「なぁ、彩輝。そのサングラス、邪魔じゃねぇ? なんでそんなのしてんだ?」
翔がおにぎりを頬張りながら聞いてくる。
「あれ、話してなかったか? 二回も三回も同じ説明してるから忘れてたな」
翔に病気のことを話しながら、卵焼きを口に放り込む。しょっぱい味付けなのでオカズにぴったりだ。
「だから、目がやられちまうからサングラスをしないとおちおち外にも出れない。めんどくさいけど、痛いの嫌だしな」
明るくはない話題なので、あえて笑いながら言う。
「ふーん。と言うことは、髪とか瞳とか、地毛なのか? てっきり、染めてるのかと思ってたぜ」
「もちろん、無添加だ。まぁ、初日は黒く染めて茶色のカラコンしてたけど……って音也、落ち込むなよ」
翔に説明していると、音也がどんどんしょんぼりしていった。
「……だって、今日彩輝を外に連れ出したのは俺だし……」
イジイジと隣に生えていたペンペン草をつつき始める。
「サングラスをしてるから目は平気だ! それに俺、初めて外でご飯食べて、楽しいし」
(ホントは、長い時間日光を浴びるのも、ダメなんだけど……)
昨日部屋に来たときに説明したからか、日陰にいるのだが、紫外線は避けられない。 が、うるうるとこちらを見る音也に、そんなこと言えない。 そう言うと、上目遣いでこちらを見る。
「ホント……?」
……なんだろう。この、拾ってくださいと書かれた段ボールに入ってそうな子犬感。一瞬マジでシュンと垂れた耳が見えた。
「ホントホント。ほら、唐揚げやるから、こっちにこい」
わーいとやって来た音也の口に、唐揚げを入れてやる。
「うまいか?」
「うん、美味しいっ」
まるで小学生だな。まぁ、機嫌が良くなったようで良かった。 わいわいと食べている三人を尻目に、真斗はなぜか神妙な顔をして唐揚げを見つめていた。
「真斗、どうした?」
不味かったのだろうか。いや、音也は嬉しそうな顔をして食べていたし、問題ないはず。
「……仰上、この唐揚げの肉はどんなタレに漬けたんだ? 柔らかくて、しっかり味がついている」
なんだ。どうやら作り方が気になっただけのようだ。
「塩麹と、仰上家秘伝のタレを、絶妙な割合で混ぜたタレに漬け込んで、一晩置いただけ」
「そうか」
まぐっと一口で食べる。 リスのような頬に思わずほっこりする。可愛い。
(てゆーかさぁ…)
流石、全員育ち盛りなだけあってよく食べる。
「俺はもう腹一杯だ…」
おにぎり1つと卵焼き一切れで俺の胃はギブアップした。
「那月、そこの水筒取ってくれ」
「はい、どうぞ」
サンキュ、と言って、俺は水筒に口をつける。 ご飯を食べ終わって、しばらく楽しそうにしているみんなを見ていると、自分の手が目に入る。肌が赤くなってしまっていた。 それでも、みんなといる楽しい時間を終わらせたくなくて耐えていると、突然、フッと目の前が暗くなった。
(あ、ヤバイな)
そう思った瞬間、グラリと、身体が傾いでいく。
「彩輝? どうしたのっ」
「おい仰上、しっかりしろ!!」
遠くに、音也たちの声が聞こえる。
(あぁ、心配すんな。ちょっと倒れただけだ……)
そう言って起きてやりたいのに、声が出ない。身体が痛くて言うことを聞かない。
「とにかく、保健室に運ばねぇと!」
(大袈裟だな、そのうち治るって)
そう思うのに、いっこうに身体は動かないままで。 自分の身体が抱えられて、誰かの背に乗せられた。 翔と音也じゃ、体格的に無理だし、乗せたのは多分真斗だ。背負ってるのは、きっと那月だろう。
「彩輝くん、すぐに運びますからね!」
心配そうな那月の声。 ──不謹慎だけど、ちょっぴり嬉しいと思ってしまった。
(こんなに心配してくれる友達がいて、俺は幸せだ)
知り合ったばかりなのに、本当にそう思う。 那月が走り出したとき、俺の意識は、プツンと糸を切るように途絶えた──。
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