「うわぁ、早乙女学園ってマジでどこもかしこもおっきいなぁ」

髪を染め、顔のメイクを済ませてカラコンを着けた俺は、音也・那月・真斗のイケメントリオと食堂に来ていた。

「お昼時だから、どこも混んでますねぇ」

 空いている席探してキョロキョロしながら歩く。

「あそこが空いているようだな」

「よっしゃ座ろうぜ」

 とりあえず四人分の席を確保した俺たちは、各々自分の食べたいものを取ってくることにした。

(何食おうかなー、何でもあんなーココ。 うわ、本格的なレストランもある)

 誰が行くんだよ、とか考えていると、真斗が肩を叩いてきた。

「仰上。お前は何を食べるんだ?」

「おー、真斗。まだ決めてない」

 そういうお前は? と聞くとすぐそこをさす。

「俺はうどんだ。好みの具材を入れられるようだな」

真斗の指をさしている方を向くと、トッピング用の天ぷら等が陳列していた。

「俺もアレにしようかなぁ。なんか美味しそうだし」

「では共に行こう」

二人で注文しに行く。
 店員に注文を聞かれる。

「温かいうどんの並みを」

「俺、温かいうどんの小で」

いつも通り小を頼むと、真斗に少し驚いた顔をされた。

「小で良いのか?」

 すぐに出てきたうどんを受け取りながら答える。

「うん。俺、並み盛りでも多くて入らないんだよねー。ほら、外で運動出来ないし? その分屋内プールとかやってたけど、汗かいたり水に入ったりすると染め粉とれちゃうから目立ってさぁ。すぐ辞めた。視線が痛いんだよ」

 苦笑いしながら、油揚げを取り、真斗を待つ。

「そうか」

取り終わった真斗と一緒に席に戻ると、既に那月と音也は席についていた。

「おっかえりー! あ、マサと彩輝はうどんなんだ。あれ? 彩輝の、ちょっと小さくない? 足りるの?」

「足りるよ。早く食べようぜ。いただきまーす」

きちんと手を合わせてから、箸を持つ。

「那月は焼き魚、音也はカレーか」

「はい、美味しいですよぉ」

那月がニコニコしながら食べている。
その少し後ろに、俺の従兄弟がいた。誰かと一緒のようだ。

「友千香、なにキョロキョロしてんだ」

「あぁ、彩輝も来てたんだ。席、2つくらい空いてる?」

 友千香が困った顔で訊いてくる。
 困ってるときは助けなければ。
 ……俺が困ってるとき助けてくれなくなるからな。

「席を探したのか? ちょうどそこの2つ空いてるよ。どうぞ」

「よかったぁ、どこも空いてなかったんだよね。春歌、ここ座ろ」

「う、うん…」

友千香が連れているのは、確か同じクラスの七海春歌……だっけか?

「七海さん。はじめまして……ではないね」

 声をかけると、ビクッとしながらこちらを向く。

「は、はい!!」

「そんな緊張しなくてもいいよ? 改めて。俺は仰上彩輝! 友千香とは従兄弟なんだよー。よろしくね」

 手を差し出すと、そっと握り返してくれる。

「よろしくお願いします……」

そのまま深々と頭を下げられてしまった。

「ははっ、礼儀正しいんだな。……よし、俺たちは食い終わったし、片づけてくる」

「はいはい。またねー」

友千香、七海と別れた次の瞬間。
どんっ

「うわあっ!?」

誰かとぶつかった。
 その衝撃で、転んでしまう。

「彩輝!」

「仰上!」

「彩輝くん!」

何とか器は死守したため割れなかったようだ。良かった。

「痛たた…」

……ん?右目に違和感。
まさかっ。

「誰も動くな!」

 俺が叫ぶと、皆の動きが止まる。
どこだ、ヤバイぞ!
アレ、高かったのに!!

「あった!」

 見つけた。が


「ああああああああぁ」

 絶望にうちひしがれる。

「さ、彩輝、どうしたの……?」

音也が恐る恐る声をかける。
 が、しかし彩輝の耳には入らない。

「俺のコンタクトがぁぁぁぁぁぁぁ」

右のコンタクトが見るも無惨な状態に。
 ソフトタイプなのでバラバラとまではいかないが、パッキリ割れている。
 とりあえず右目を隠しながら立ち上がる。

「ごめん、動いていいよ……」

そう言うと、みんなが遠慮がちに動きだした。

「彩輝くん? 何があったの? とりあえずこっち来なさい! まぁくんたちもっ」

騒ぎを聞き付けてきた林檎先生と、別室に移動し、左手の上にあるコンタクトを見せる。

「カラーコンタクトが割れてしまって…」

 見えないわけではないんですけど、と言いながらため息を吐く。

「あら、それは残念ねぇ。でも、見えない訳じゃないんなら大丈夫よね」

 なーんだ、と言わんばかりにホッとした表情の林檎先生。

「いや、俺の場合見えなくても大変でして……」

 そういうと後ろから「あぁ…」と、声が漏れる。

「どうして?」

 それを聞いて、また林檎先生はうろんげに眉を寄せる。

「…………」

無言で右手をずらし、右目を見せる。

「きゃっ!?」

おー、流石は女装アイドル。叫び方は女の子仕様か……ってそうじゃなくて。

「……お分かりいただけましたかね…?」

 見せたので隠す必要はない。俺は右手を下ろす。

(今の俺、絶対厨二病にしか見えねーよな)

 再度ため息を吐くと、林檎先生の眉尻が下がり、困った顔になる。

「………うーん。でも、しょうがないわよ。赤くても良いじゃない、ちょっぴり目立つかもしれないけど。みんなすぐに慣れちゃうわ。それとも、何か困るの?」

「いや、見られて困るわけではないんですが……」

 別に見られるのが嫌な訳じゃない。
 こそこそ指をさされるのが嫌なのだ。

「大丈夫よそのくらい! あぁ、左のコンタクト、貸してくれない?」

「別に良いですけど」

 左のコンタクトを取って渡す。何をするんだ?

「えいっ♪」

パキャッ

「「えぇぇぇぇ!?」」

割った!? 割った!!

「彩輝のコンタクト割っちゃダメでしょ!!」

 音也が林檎に詰め寄る。那月と真斗は驚いて声も出ないようだ。

「どうせ片方なかったら使えないんだから、いっそ未練を断ち切っちゃえば、裸眼でいられるんじゃない?」

あーもうむちゃくちゃだこの人!!
でも……

「仕方がないかなぁ……」

 呟くと、音也が勢いよく振り向く。

「良いの!?」

「使えないんだったら、確かに邪魔だし? どーせいつかはバレるんだから良いかなぁって、さ」

 ははは、と笑う俺に、勢いを削がれた音也は立ち尽くす。

「彩輝がそう言うのならば良いのではないか?」

「僕は白い髪で赤い瞳の彩輝くんも好きですから、良いと思いますよぉ」

 今まで黙っていた二人が賛成してくれる。

「ほーら。ね?」

ウインクをしながら林檎が言うと──

「ハーハッハッハッ! そんなYouにプレゼントなのデ──ス!!」

シャイニング早乙女の声と共に、大量の水が彩輝に降り注ぐ。

「わぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 はぁ!? なにそのいきなり過ぎる急展開!! 馬鹿なの!? なんなんだよ今日は!
 入学初日からハプニングのオンパレードだ。厄日なのか!?

「仰上、大丈夫か?」

 ビショビショの俺に、同じくビショビショの真斗が心配そうに声をかけてくれる。
 コイツ良い奴だなぁ…。

「………もー良いよ、気にしない。染め粉取れたし」

 もう笑うしかない俺に、元凶であるシャイニング早乙女は、

「いいじゃアーリマセンカ! 持って生まれた個性は隠すべからずデスゥ!」

そう言い残してシャイニング早乙女は風のように去っていった。……窓をぶち破って。

「……食堂に戻ろうか」

「…そうだね」

ビショビショの俺たちは、荷物を取りに、食堂へ戻った。



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