8月15日の12時30分。
今俺はバイオレットと久し振りに二人きりだ。

俺達はまあ、俗にいう恋人同士というもので。

監督生全員で集まる事は多々あるが、寮弟もいるし二人きりは滅多に無い。
その為俺は今とても緊張していて、何を話しだそうかと考えていた。


「…?どうしたんだ、その猫」
「ん…門から入ってきたみたい」

優しい手付きで黒猫を撫でながら校門を指差す。門は何故か開いていた。

「…き、今日は暑いな!」
「うん、ムカつく位にね」

陽に当たるのが大嫌いなバイオレットは肌が真っ白だ。
特に今日は病気になりそうな程暑い為バイオレットの機嫌は少し良くない。

「…夏は嫌い」

ぼそりと呟いた言葉。
肌が焼けるからか?と言おうとすると猫がバイオレットの膝から逃げ出して門の外へと駆けていった。

「あ…」

さっとバイオレットは立ち上がり、自身も門の外へと駆けた。

「おい、バイオレ…」

慌てて追いかけると聞こえたのは、どんという何かがぶつかる音と馬が鳴く音、何かが地に叩き付けられた音だった。



「…お、い」

目の前に広がる赤とその中心にいる愛する者に対して喉から出た言葉は驚くほど掠れていて。

「バイオレット、」

馬車から慌てて人が出て来る。
学園からは音を聞いた生徒が出てきて悲鳴をあげていた。

バイオレットはぴくりとも動かない。

嘘だ、と目の前の状況が何も飲み込めないせいかいやに冷静にバイオレットを見つめる自分に
「嘘じゃないよ」という陽炎の声が投げ掛けられたと共に目の前が水色に眩んだ。


 


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